夢に成れ
都合の良いことだと
分かっていた
それでも言わずにはいられなかった
現実を生きるのは
苦しかったから





エピローグ


俺が向かったのは、海から少し車を走らせたところにあるお寺だった。

裏手には海を臨む墓地がある。

本来なら、一家代々の墓石に木村も入るのだろうが、

ご両親の計らいで、海の好きだった木村はここにいるのだと聞いていた。

由緒正しい大きなお寺で、俺も名前は聞いたことがあった。

しかし、来るのは初めてだ。

俺は一度も木村の墓参りをしたことがなかった。

それだけはしたくなかった。

それは、木村の死を何よりも象徴するものだったから。

でも今なら出来ると思った。

今の俺なら、と。

しかし、木村の墓を目の前にした俺はそのままそこに座りこんでしまった。

脚に力が入らない。

墓石に刻まれた木村のフルネーム。

境内で買った花も俺の手から落ち、

目からは涙が次から次へと溢れ出てきた。

俺は震える手でタバコを数本取り出し、火をつけると、

線香代わりに置いてやった。

生前、思う存分吸えなかったタバコ…思う存分吸えよ。

どうにか花も添えてやると、手を合わせた。

不思議と、目を瞑ると木村が目の前に居るような気がした。

だから俺は目を開けたくなくて、長い間目を閉じていた。

何を祈るでもなく、ただぎゅっと閉じていた。

数分、いや、もしかしたら数十分かもしれない。

目を開けた俺はもう一本タバコを取り出して火をつけた。

そして、座りこんだままゆっくり味わうように吸う。

深く深く。

「あんまり吸い過ぎるなよ」って。

木村の声が聞こえた気がした。

いつも言われていた台詞だ。

タバコを控えていた木村が病気になり、

未だにヘビースモーカーの俺がまだ元気でいるなんて。

世の中、間違ってるよな。

木村にそう話し掛けて、俺は吸っていたタバコも他の数本と同じ場所に置いた。

そしてもう一度手を合わせる。

もう涙も乾き、脚もしっかりしていた。

最後にしっかりと墓石を見据えて、俺は車へと引き返す。

途中でゴミ箱にまだタバコの残った箱を放り投げる。

儀式は終わりだ。

帰ろう。



車を家に向けて走らせる。

今日は1日オフだ。

残った時間で「生活」を取り戻そう。

ちゃんと食べて、ゆっくり眠ろう。

そして明日からまた―しっかり生きよう。





夢に成れ

嫌なこと全て

夢に成ってしまえば良い



辛い感情なんていらない

痛い感覚なんていらない



だから

全て夢に成れ



あいつが死んでから

そう思って生きていた



その方が

楽だったから



でも今は違う



痛くても辛くても

現実は夢になんて絶対成らない



だから俺は

全てを受け入れる



それが例え痛みを伴うことでも

俺は耐えてみせる



それが俺の

プライドだから



何十年後かに

向こうで再会した時に

胸張ってあいつに会えるように



俺は―

生きる。

―END―
 

終わった〜!!
あぁ、泣きそう。。
約2年半に及んだ長編。
やっと終えられました。
まぁ、ペースが遅すぎただけですけども(苦笑)
みなさま、長らくお付き合いくださってありがとうございました。
この話は、9000番HITして頂いたakiko様にお贈りします。
リク内容は
「余命1年のキムラさんと、それを知ったナカイさんの話」
でした。
如何でしたでしょうか?
余命を知った話というより、
亡くなったあとの方が長くなってしまいましたが(苦笑)
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2005/10/2(HINATA)