夢と現の境界線は何処ですか?
俺にはもうその答えが分からなかった
何が現実で
何が夢なのか
それすら判断出来ないほど
俺の心は弱っていた
20.
俺は最初、何が何だか分からず、されるがままになっていた。
すると、俺を抱き締める力は段々と緩まり、
やがて俺は力強い腕から解放された。
アイツ―慎吾は、また泣き出しそうな顔して俺を見つめた。
「慎吾?どうしたんだよ、急に…」
まだ状況が把握出来ずにいた俺は、そう切り出すのがやっとだった。
「中居くん…最近ちゃんと寝てる?ご飯食べてる?生活、してる?」
「何言ってんの、突然」
「じゃあさ…最近、自分の出てる番組、チェックした?」
「…は?」
唐突な慎吾の言葉に思わず答えが遅れた。
「最近の中居くん、明らかにおかしいよ。メンバーもスタッフもみんな心配してる」
「おかしい?俺が?」
ますます訳が分からない。
俺はちゃんとやっていたはずだ。
確かに夢現ではあったと思うが、仕事だけはしっかりこなしていたつもりだった。
「やっぱり、気付いてないんだね」
「何にだよ?俺はちゃんと仕事してるだろ」
「中居くん…これ、この間のスマスマ。スタッフからデータが入ったDVD借りてきた」
「スマスマ?何でまた」
不可解な慎吾の行動に、俺は眉を顰める。
「いいから、見て。絶対だよ」
そう言って慎吾は俺の手にプラスチックケースを押し付けると、踵を返して帰って行った。
「なんなんだよ、一体…」
そう独りごちて、手の中のモノに目をやる。
「訳分かんねぇよ…」
もう大分使っていなかった―おそらく退院してからは一度も―DVDプレイヤーに、ソフトを差し込む。
ソフトが機械の中へと呑み込まれ、データが読み取られ、自動的に再生された。
そのデータは実際にオンエアされたものではなく、編集で使われたもののようだった。
つまりは収録された全てが収められたノーカット版だ。
そして俺はその内容によって、衝撃を受けることとなった。
俺は、現実と夢とを彷徨い続けた挙句、気付けばその境目さえも分からなくなっていたようだ。
その中に収められている俺は、明らかに夢と現実を行き来していた。
つまりは…俺は実際には居ない木村に呼びかけ、話しかけ、笑いかけてさえいたのだ。
「うそだろ…」
思わず呟いた自分の声が遠くから聞こえるような気がした。
そう―俺は、実際には空に向かって呼びかけたり笑いかけたりし、時にはじゃれたりもしていた。
そういう時の笑顔こそが、一番心から笑っているように見えた。
しかし一瞬後、ふと現実に戻ったらしい俺は、瞬時に表情を曇らせ、
明らかに偽者の、それどころか泣き出しそうにさえ見える笑顔を貼り付けるのだった。
そして機械的にトークを続けていた。
それの繰り返しだった。
それはあたかも気が違ったかのように見えた。
いや、実際俺は、おかしくなっていたのだろう。
夢の世界にいる時の記憶は俺にはなかった。
その時に交わした会話や、おどけた表情、しぐさ―どれ1つとして憶えていない。
俺の記憶にあるのは、ただただ現実世界で起こったことのみ。
木村の居ない、現実の世界での出来事のみだった…。
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2005/9/14(HINATA)