なんだかんだで多忙になって
俺は正直余裕がなくなっていた
それがよかったのか悪かったのか
未だに分からない





16.


3人が帰って一息つき、

俺は大切なことを忘れていたことに気が付いた。

医者の言葉の大切な部分を聞き過ごしていたのだ。

『十字路での赤信号無視によって横から来た車に衝突された』

そう。

明らかに俺が悪い事故だ。

きっと警察沙汰は逃れられない。

1ヶ月以上も経っているんじゃ、マネージャーが処理をしたのかもしれない。

それにしたって事情聴取はされるだろう。

それに、相手はどうなったのだろうか。

あらゆることが頭を駆け巡った。

居たたまれなくなった俺は、公衆電話へ向かった。

起き上がった瞬間に全身が悲鳴をあげたが、

傍に用意されていた松葉杖をついてどうにか立ち上がる。

大丈夫―歩ける。

俺はそう判断して一歩ずつ歩き出した。

しかし、残念ながら病室から出てすぐのところで看護師に見つかった。

「中居さん!駄目ですよ、まだ一人で歩いちゃ」

「あの…外と連絡取りたいんですけど」

「駄目です!病室に戻ってください」

「でも、事故のこととか聞き…」

「駄目なものは駄目です。許可なく、出歩かないでください」

不自然なほど頑なな看護師の態度に、俺は直感的に悟った。

−軟禁って訳ですか…−

恐らく、事務所が病院側にそう指示しているに違いない。

全てが監視されているのだ。

何故…恐らく事故のことだろう。

細かいことは分からないが、事故と関係しているに違いない。

「はぁ…」

ベッドに戻った、いや戻らされた俺は思わず溜め息をついた。

俺は何をやっているのだろうか。

今一番、木村の傍に居なくてはならなかったのに。

木村の分も、俺が働かなければならなかったのに。

そう約束したのに。

なのに、結局、メンバーの負担になっている。

あいつらは笑ってたけど、でもきっとキツイに違いない。



「なぁ、吾郎」

「ん?」

俺は、その日見舞いに訪れていた吾郎に切り出した。

マネージャーや看護師では埒があかなかったのだ。

俺が入院してから半月が経過していた。

テレビも新聞も、それから雑誌も、全て禁止されていた。

俺は世の中から完全に隔離されていた。

もちろん理由は聞かされていない。

俺も敢えては聞かなかった。

大体は分かっていたからだ。

きっと、事故のことで俺は相当今叩かれているのだろう。

恐らく、復帰するのも簡単ではないほどに。

それでないと、こんなに入院期間が長いのは不自然だった。

正直、俺はもうほとんど回復していた。

「お願いだから、正直に答えてくれよ?」

俺は吾郎の目をじっと見て言った。

「うん。何?」

「俺、あとどれぐらいでここ出られるんだ?」

「う〜ん。僕も詳しく聞いてないんだけど、1ヶ月以内には出られるんじゃないかな?」

吾郎がちょっと首を傾げて答える。

「一ヶ月…」

「まぁ、根拠はないんだけどさ。

でも、この間スマスマん時に飯島さんが『来月の中居のスケジュールが…』とかなんとかスタッフと話してたから」

久々に聞く仕事の話に少し胸が痛んだ。

早く復帰したい。

「そか…ありがと。あと、木村のことなんだけど」

「うん」

「あいつ、どうしてる?」

木村のことを話題にしたのも久しぶりだった。

別に禁じられていた訳ではなかったが、なんとなく聞けずにいた。

でも、常に心配と不安が付き纏っていた。

ここのところずっと嫌な胸騒ぎがしていた。

早くあいつの元へ行きたかった。

「中居くんのこと気にしてたよ」

吾郎が一呼吸おいてそう言った。

「俺のことを?」

「事故のこと話したら、すごく心配してた。

『俺のこと気にしないで早く治せ』って伝えてくれってさ」

「そう…」

とりあえずまだ元気なのだと知って胸を撫で下ろす。

「2人共、お互いの心配ばっかりだね。それより、自分の心配してよね、本当に」

吾郎が困ったような笑みを浮かべる。

「はいはい。分かってるよ」

俺も曖昧な笑みを返す。

「俺だって、早く戻りたい」

その言葉に、心なしか吾郎が悲しげな表情をしたように見えた。

 

2005/6/2(HINATA)