あいつがいなくなったあと
俺に残ったのは
あいつとの思い出と
そしてそれを上回るほどの
後悔の念
それだけだった





15.


目が覚めると、俺はベッドの上だった。

「白い部屋…病院か」

思わず苦笑する。

「ドラマみてぇだな」

そう呟きながら、俺はここにいる理由を思い出そうとした。

確か―そうだ。

俺は木村の病院へ行くところだったんだ。

車を走らせていて…そして急に大きな衝撃があった。

それでどうしたんだ?

そこからの記憶が全くなかった。

そっか、気を失っちまったのか。



俺はまだ赤信号を無視してしまったということも、

どれだけ自分が眠ってしまっていたかも、

全然分かっていなかった。



「木村の病院へ行かないと…いたっ」

身体を起こそうとすると、頭に激痛が走った。

「なんだよ、これ…」

頭だけではない。

意識がはっきりしてくるにつれて、身体のあちこちが痛み出した。

背中、腰、足…

俺はとりあえず、自分の身体の状態を知るために、ナースコールをした。



「中居さん、目が覚めたんですね」

看護師と共に入ってきた医者が言った。

「えぇ、まぁ。…あの、俺どういう状況なのか全然分からないんですけど」

そう言った俺に医者は僅かに優しそうな笑みを浮かべた。

「中居さんは、十字路での赤信号無視によって

横から来た車に衝突されたんですよ。覚えてないですか?」

「赤信号…衝突…すいません、覚えてないです」

本当に覚えていなかった。

いつもはあれだけ安全運転を心がけている俺が、何てことをしたのだろうか。

「そうですか。でも、事故の規模の割に、奇跡的に外傷は少ないですよ。

肋骨が数本と右脚を骨折している他は打撲程度ですね」

「数本…骨折…」

医者の発した単語を口の中で反芻してみるものの、やっぱり実感は湧かない。

「長い間眠られていたので、これから脳の精密検査などもしなくてはなりませんが…」

「長い…間?」

自分がどれだけ眠っていたのかなんて、皆目見当もつかなかった。

「えぇ。ちなみに中居さんがここへ運ばれてからすでに38日が経過しています」

「っ…38日?!」

医者の言葉に思わず声が大きくなる。

「えぇ。もう少し眠り続けていたら危ないところでしたよ」

「危ないところ…そうだったんですか」

一ヶ月以上も眠っていたとは予想もしていなかった。

木村はどうしているだろうか。

「あの、外と連絡取りたいんですけど…」

そこまで言いかけた時だった。

「中居くんっ!!」

誰かが息せき切って病室へ飛び込んできた。

「慎吾?」

そう、それは慎吾だった。

「よかった。気が付いたんだね…」

「病院から連絡来て、慌てて飛んできたんだよ」

そう言って後ろから顔を出したのは吾郎だ。

「吾郎も…」

「つよぽんは今日は仕事だから来られないけど、我慢してよね」

「そうそう。僕ら今、3人で5人分の仕事してるんだから」

吾郎の言葉に俺ははっとして目を見開く。

「そうだ。仕事どうなってる?無理させられてないか?」

「大丈夫だって。中居くんは安心して治療に専念してね」

慎吾が「任せて」と胸を叩く。

「慎吾の言う通り。中居くんは余計な心配はしないで、早く治してよ」

吾郎もそう言って微笑んだ。

「あぁ。本当ごめんな…。あ、木村は?どうしてる?」

そこで木村のことを再び思い出して尋ねる。

「大丈夫。木村くんも変わりないよ」

吾郎がすかさず答える。

「悪いけど、病院は敢えて一緒にはしないからね。

じゃないと、絶対無茶するから、2人共」

「そうそう。中居くんが完治するまで、お見舞いも禁止!」

先回りした回答に俺は苦笑するしかない。

「了解…」

「んじゃ、そういうことで。僕らこれから仕事だから、そろそろ行くね」

吾郎がそう言って立ち上がる。

「そっか。わざわざありがとうな」

「中居くんの声聞いて安心したよ。また来るから」

吾郎に続いて慎吾も立ち上がる。

「あぁ。あまり無理すんなよ」

「はいはーい」

慎吾はおどけて返事をすると手をひらひら振って、吾郎と共に病室を出て行った。



木村のためにも早く治さないと。

俺はひとまず治療に専念する決心をした。

一ヶ月眠っていたということは…

―タイムリミットはあと2ヶ月―

 

2005/5/23(HINATA)