自分より大切に思える人ができるなんて
考えられなかった
でも確かに俺はあの頃
あいつを何よりも大切に思っていて
あいつの為なら
自分の命さえ惜しくなかった
12.
「…ここ?」
「あぁ…」
心なしか震えていた慎吾の声に答えて、俺は目の前のドアを見据える。
そのドアはいつ来ても俺を歓迎しているようには見えなくて、
いつも俺は、開けるのを一瞬ためらってしまう。
しかし、ここで俺が気弱になっている場合じゃない。
はぁ、と息を吐き出すと俺は一気にドアを開けた。
「…なかい?」
起きていたらしい木村は、仰向けのまま顔だけこちらに向けて軽く微笑んだ。
少し前までは、起きていれば必ず上半身を起こして出迎えてくれた木村。
でも、ここ1週間でそれさえも簡単には叶わないほど体力が落ちてしまっているのだ。
「あぁ。起きてたんだ?」
俺は手振りで3人に「ここで待ってろ」と示して中に入る。
「まぁな…」
そう言ってやっと木村は上半身を起こそうとして、激しく咳き込んだ。
「おいっ。大丈夫か?」
慌てて駆け寄って背中を支えてやると、木村は自嘲気味に笑った。
「マジでありえねぇぐらい弱ってんのな、俺」
「木村…」
思ったより弱気になっている木村に俺は後の言葉が続かない。
「…あ、そうだ」
「ん?」
「いや、今日はみんなも一緒なんだ」
俺はそこでやっと、病室の外で待ってる3人のことを思い起こして木村に告げる。
「みんな…?」
「うん…おい、入れよ」
俺の声にドアがゆっくりと開き、慎吾が入ってきた。
その後ろに剛、吾郎が続いて入ってくる。
「おぉ、来たんだ?」
「木村くん…言ってくれないなんて水臭いよ」
慎吾が今にも泣きそうな顔で木村を睨む。
「ごめんな。余計な心配かけたくなかったから」
「心配なんて…俺達メンバーじゃん。いくらでもかけてよ」
「うん、そうだよな。ごめんな。帰って辛い思いさせちゃったな」
「そんなこと…」
慎吾はそれ以上喋れなくなって、唇を噛み締めた。
隣にいる剛に至っては、入って来た時からずっと俯いている。
吾郎は吾郎で、何も言わずにただ木村のことを見つめていた。
そんな3人の顔をゆっくり見渡して、木村は静かに微笑んだ。
「そんな顔すんなって。これから俺の分も頑張ってもらわなきゃなんねーのに」
「…っ」
その言葉に慎吾が顔を歪める。
「木村、そのことなんだけどさ。みんなはお前がSMAP辞めることに反対だってさ」
「…そか」
木村は一瞬悲しそうな顔をしてから、ボソッとそう言うとまた口を噤んでしまった。
そして目を閉じると、眉を顰めて何かを考えているようだった。
それから何分ぐらい経ったのだろうか。
5分かそこらだろうか。
とにかく、もう寝ちゃったんじゃないかと思い始めた頃。
不意に木村は目を開いた。
「分かった」
「ん?」
唐突な言葉に俺は一瞬思考が追いつかない。
「みんなにはもっと迷惑かけると思うけど」
「うん」
「SMAPは続ける」
「木村…」
「もうテレビに出たり出来ないけど…」
「そんなの関係ないよ」
慎吾が怒ったみたいな口調で口を挟む。
「うん。見守っててくれるだけでいいよ」
剛がその後に続ける。
「ありがとうな…本当にありがとう…」
俺はもう何も言わずにその様子を見ていた。
その光景が本当に美しく見えて、不覚にも涙が出そうだった。
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2005/4/21(HINATA)