イングランドの旅

1999・8/14〜8/23


エジンバラの街並み


飛行機がヒースロー空港に向けて降下を始めると、しばらくして雲の切れ間から緑の絨毯を敷き詰めた箱庭のような家並みが見え隠れしだした。今回はエジンバラを起点に、英国の田園地方を南下する10日間のバスの旅である。



麗しの緑まばゆき英国のカントリーサイドバス走り抜け
スコットランドの首都エジンバラ(斜面に立つ城砦)は北緯56度、カムチャッカ半島と同じ緯度。8月とはいえ肌寒い。早速セーターを購入した。エジンバラ城の周辺は折しも「軍楽隊行進」の最中で、バグパイプの響きと共に祭りの雰囲気が街中に溢れていた。
スコットランドの代表的な料理で「ハギス」がある。羊の胃袋にミンチやたまねぎのみじん切りなどを詰め、塩・胡椒を加え、ボイルしたもので、見た目はグロテスクだがなかなか美味。ビターはギネスとラガーの中間のビールで、1pintは568mlと書かれていた。








エジンバラのパブで使いし最初の英語「ハギス&ビター・ワンパイント」

エジンバラから北へハイランドと呼ばれる荒涼とした風景をぬけて、ネス湖の怪獣で有名なインバネスへ向かう。途中雨上がりの空に美しい虹を見た。ロッホ(湖)やグレン(谷)といったゲーリック語が使われ、古い文化が今なお生き続けている。湖北岸の中央にアーカート城が廃墟のまま立ちつくしており、ネッシーが出現してもおかしくない風景が広がっている。
 



ロッホ・ネス神秘の湖面に波立てばネッシー現ると誰か叫べり



グラスゴーを経て、いよいよ英国随一の景勝地湖水地方(レイク・ディストリクト)に入る。あいにくの小雨模様であったが、そのシャワーが森林の緑と草花の鮮やかさを一層引き立たせる。ここには、『ピーター・ラビット』の絵本の作者、ビアトリクス・ポターや湖畔詩人ワーズワースが愛した風景がそのまま残っている。のんびりと草を食む牛や羊の群れ。すぐ足下を野ウサギが駆け抜ける。それは、ナショナル・トラスト(環境保護団体)によって、自然や歴史的建造物が保護管理されているからだ。日本では「癒しの音楽」だとか「たれパンダ」が流行しているが、この牧歌的風景にはそんなものは何一つとして要らない。あくまでも優しく、穏やかに、ここを訪れた旅人の心を癒してくれる。





緑なすポターの描きし故郷に童心踊りて思わずスキップ









ース・ウエールズの玄関口、チェスターは中世の面影が色濃く残る街である。街は一周約3.2kmの城壁で囲まれ、白壁に黒の木組みのコントラストが絵のように美しい。中心には大聖堂が建ち、要塞のような姿を見せている。アンティークショップも多く、覗いているうちにいつしか時が過ぎていく。(英国は店はだいたい18時には閉まってしまう)
 




チェスターの木組みの壁に入り日あたり中世の面影彷彿とす



英国の中央部に位置するストラトフォード(浅瀬を渡る道)・アポン・エイヴォンは、文豪シェークスピアの故郷。現在彼の生家をはじめ、晩年を過ごしたニュー・プレイス、近郊には妻のアン・ハサウェイの実家や母親の生家も残されている。庭園には四季折々の花が咲き、旅人の心を和ませてくれる。宿場町・市場町として栄えたこの街も、一歩通りを入ると、シェークスピアの時代へタイムスリップしてしまう。機会があればもう一度訪れたいお気に入りの街である。

エイヴォンの永久の流れに抱かれて静かに眠るシェークスピアの魂
 








ロンドンに向かう途次、英国で最も英国らしいカントリー・サイドといわれるコッツウォルズ(羊小屋のある丘)の村々が点在する。あのライムストーンという薄茶色の石で造られた「はちみつ色」の家並みがこの上なくかわいらしい。しかし、ほとんどの村は大型バスは入れない。今回は、ボートン・オン・ザ・ウォーターの村を訪れたが、小川が流れ、石造りの橋が架かり、水鳥たちが優雅に遊ぶ童話の世界そのものの風景だ。ロンドンの西200km。ぜひともレンタカーを借りて、B&B(Bed and Breakfast。3000円ぐらいから泊まれる民宿のようなものだが、ガーデニングも行き届き、朝食はなかなか豪華らしい。)に泊まって、バイブリーやカッスル・クームといった村を訪ねたいと思っている。






ロンドンでは、地下鉄(チューブ)を利用して2日間名所を駆け回った。路線数が14もあり、各線複雑に交差しており、最初は戸惑ったが、そこはさすがに紳士の国。片言の英語にも親切に教えてくれる。地図まで書いてくれたおじさんもいた。大英博物館にしろナショナル・ギャラリーにしろ無料というのがうれしい。
 










倫敦の地下鉄で行き先尋ねしに胸に残れり紳士の気質




結構急ぎ足の旅であったが、最終日、インターネット上で探していったアンティーク・フェアにも参加できたのは幸運だった。蒐集品の「鼻煙壺」(スナッフボトル)がまたひとつ加わった。小さな壺を手に取ると、旅のさまざまな情景が再び蘇ってくる。そして心の奥深くに刻まれていく。大切な思い出のページがまたひとつ増えた。ストラトフォード、コッツウォルズなど魅力的な響きをもった地名の多い英国。「蛍の光」(スコットランド民謡)のメロディーが日本人の心をとらえたように、英国の自然や風や光は私にも優しく語りかけてくれた。もう一度ゆっくり訪ねたい英国。旅は心を癒し、豊かにしてくれる。またいつか片雲の風に誘われて、旅の空に身をまかす旅人になろう。