をりふし短歌


2003年度版


上海・北京旅行(2002・12/26〜12/31)

胡同の消えゆく姿を納めむと手に息吹きかけてシャッターを切る(月刊「兵庫教育」平成15年3月号掲載)

厳寒の長城に立ち祈りたる受験の風に雄々しく向かへと

胡同の凍てつく小路に響きわたる練炭売りの老翁の声

輪タクにて雪道走るその後を胡同ガイドが自行車で追ふ(月刊「兵庫教育」平成15年3月号掲載)

行くたびに変貌遂げる魔都上海新天地の夜にあくがれ出づる

■センター入試の日に

目が合えばセンター入試前にしてさすがの猛者も鼻をすすれり

雨音がセンター入試の幕明ける晴れを信じて会場に向かふ

■偶感

予備校のデータ片手に進路指導むなしさ覚え時を過ごしつ

年明けて顔見ぬ生徒の机上には日の目を見ざるプリントの山

■雪の日に(1月29日)

朝刊を取り込み雨戸を開くる間に雪の降り敷き轍も消えゆく

飛騨高山を訪ねて(2月23・24日)

軒を借る人力車夫が畳みをる紅の毛布に春の雪降る

15分の雪中行軍終えし後眼前仰視す凍結の大滝

■55回生卒業式(2月28日)

巣立ちゆく55回生の主役達の3年の舞台に幕をろしたり

■55回生教員解散旅行(3月1・2日しまなみ街道)

深更のしまなみの宿に花が咲く巣立ちゆきたる子らを肴に

■偶感

2月より暇のできると思ひたるも小論添削却って忙し

感動の卒業式に引き続き悲喜交々のドラマ訪れ

涙こらへ後期入試の指導受くる横で合格に涙する子居り(月刊「兵庫教育」平成15年5月号掲載)

■鳥取花回廊にて

春満てる花回廊の天蓋を雪を纏へる大山が抱く

■58回生入学式に


学舎にまたニューフェイスの集ひ来て筋なきドラマに胸の躍れる

■桜の花の季節に

大和人にとりて桜はあはれ花咲きては祝ひ散りては無常

花散るも片や盛りに山間で咲く花ありて我音なひぬ

■帰りの電車の中で

春宵の車両の揺れが睡魔呼び歌ならずして改札を出づ

■4月18日、六甲全山縦走

「ナンシュウ」と呼ばれて「オウ」と声返すそんなクラスがわれの1組
(月刊「兵庫教育」平成15年7月号掲載)

「こんちは」と声交はしゆく六甲の緑の中で和の深まり感ず

■庭にモッコウ薔薇が咲いて


亡き義母がこよなく好みしモッコウ薔薇が「母の日」前に光り輝く(月刊「兵庫教育」平成15年7月号掲載)

五月待ちバロック流れる庭先で心躍れるブレックファースト


■文化祭(5月10日・11日)

うだうだと喋りながら準備する楽しみはそこ文化祭前

文化祭に卒業生が訪れてちょっぴり大人の近況報告

文化祭に水差す五月雨恨みつつ傘の列なす模擬店の前

■新型肺炎の脅威

ミクロ菌にマクロの国が震撼す天安門は人影まばら

■藤公園にて(岡山県和気町・和気清麻呂神社)

藤求め清麻呂公に導かれ群がる蜂の我も一匹

■国語科の歓送迎会

往きし人来たれる人と残る者バリアフリーの歓送迎会

■中間考査

入学後初の考査に力入り芯折る音が緊張伝え

ごほごほと咳する子がゐてポキポキと鉛筆の芯折るあり最初の考査(月刊「兵庫教育」平成15年9月号掲載)

■コンビニで

コンビニでとみかうみする老婆言ふさながら昔の駄菓子屋のやう(月刊「兵庫教育」平成15年9月号掲載)

■ハンドボール総体試合

試合終へ流す涙のたふとさが部の伝統となり継がれゆく(月刊「兵庫教育」平成15年9月号掲載)


骨折し大事な試合棒に振る子が蘇る東西対抗

■梅雨の一こま

水無月の名に逆らひて水満てる田に蛙鳴き豊作祈る

雨音を飲みて色づく紫陽花に身をひそめたる蝸牛一匹

■国語部会総会(神戸甲北高校)

学校を一日離れ研修す梅雨の晴れ間の心の洗濯

■偶感

奇数月の「兵庫教育」の巻末に先づ目をやるが唯一の楽しみ

飛び乗りて感ずる視線の冷たさよ「女性専用」に我赤面す

「洗車雨」の名に目がとまり車洗ひ妻を誘ひて夕餉を共にす

文月の晦日はマウスを筆に替へ暑中見舞いに我精を出し

町屋歩きふと耳にする京言葉「はんなり」の中に知恵宿りたる

■冷や汗をかく

飛び乗りて感ずる視線の冷たさよ女性専用にわれ赤面す
(月刊「兵庫教育」平成15年9月号掲載)

■情熱のスペイン旅行(2003・8/2〜8/10)

ガウディの尖塔の先なる太陽が情熱注ぎ完成を待つ

地中海の波に漂ふ安らぎをグエル公園でしばし味わふ

オリーブの樹海の中の白い村今まさに我スペインにゐる

「渺々たり」の形容がふと口をつくラマンチャの地の朽ちし風車に(月刊「兵庫教育」平成15年11月号掲載)

巨人どもとドンキホーテが見紛ひし風車の群れに我立ち向かふ

スペインの赤土の大地に向日葵が陽に背を向けて黄金に輝く

昔日の栄へを夕陽にしのばせてアランブラ宮に夜這ひ上がり

白い村ミハスの小路を着飾った驢馬タクシーにアンダルシアの風

二分されしロンダの街に架かりたる奇跡の橋に驚嘆の声

ヒラルダの塔に登りし常長と同じく我もハポン(日本)を思ふ(月刊「兵庫教育」平成15年11月号掲載)

情念か血のなせる業かフラメンコセビリアの夜に心高ぶる

スペインの歴史を凍結させたる街トレドの迷路に我も陥れり(月刊「兵庫教育」平成15年11月号掲載)

スイスでは41度で猛暑なら此処コルドバは焦げつく熱さ

感興は旅に出かける前にあり終えたる後はただただ感傷

時空間の旅を現に戻したりNHKの機内ニュースが(月刊「兵庫教育」平成15年11月号掲載)

■有馬温泉にて

湯煙の先なる楓に思ひ馳す過ぎゆく夏と色づく秋に

■偶感

長月三日残暑厳しき早朝に父逝きしより早や十七年

やっと息子と向き合へたと母涙ぐむ学期はじめの嬉しきたより

曼珠沙華時にあたりて咲く花は血潮通はせ墓参促し

車内から一斉に白の消え失せて秋色纏ふ十月一日

■国会議事堂に雷が落ちて

政局の混迷続く国会に天も見かねていかづち落とす

■リーグ戦を前に

こっちだと声をたよりにパス回しナイスシュートに月影微笑み

■ハンドボール、リーグ戦2部1位

勝利して身体で喜ぶ子らを見て我が誕生日を密かに噛みしめ

■骨折で入院の生徒

骨折し子の入院に母慌て心配するは勉強のこと

■調理実習でマドレーヌを

女生徒が届けてくれたマドレーヌを教科書片づけ真ん中に置く
(月刊「兵庫教育」平成16年1月号掲載)

■秋祭りの季節になって

秋の宵御神燈に照らされて出を待つ屋台が光彩放つ

御旅山に年に一度のたまきはる命ぶつかり山を動かす

■偶感


面前で唾を吐き捨つる大人見て何を拗ねたる無性に腹立つ

忍び寄る秋のかそけき足音をウォーキングの背中に感じ

御堂筋のパレード尻目に老松の骨董通りで我品定め

早く起き車に降りたる露拭ふ五分の間に空の明けゆく

秋風にそよぐ薄の穂間から十六夜の月の見え隠れす

■石川先生(兵庫高校)の訃報に接して

無常観を口で言ふは易けれど学兄の死に言葉失ひ

■家内の廈門旅行の留守に

留守ながら日課になれるメール打ち送信の後それと気づけり

妻の留守を預かり鍵をかけし後再度戻りて確かめてみる

■家内が大腸の内視鏡検査を受け

「生きのいいポリープでした」と見せられて医者は上気し妻涙ぐむ

■「前田純孝賞」に生徒の短歌を応募し、ついでに作りし歌

薄幸の歌詠みが切に望みたる枝垂れ桜の花吹雪舞ふ

翠渓には越ゆるに難き峠あり春来たれども故郷遠く

■飛松實先生の訃報に接し

訃報欄に歌人の名あり傍らに師の選びたる歌も並べり

■58回生京都嵐山に遠足(10月31日)

嵯峨野にて秋の一日切り取りて思い出ノートの1ページに貼る

嵐山にひがな徒歩より秋求め常寂光寺に一つ見つけり

■ハンドボール新人戦を前に

熱冷ます雨にもめげず選手らが声はりあげて志気を高める

五時半がボールの見える境界線四角の闇にシュートを放つ

■相聞歌


「せば・・・・まし」は反実仮想と知り得ても現に会へぬ恋ぞ悲しき(月刊「兵庫教育」平成16年3月号掲載)


はかなきは夢を頼りの恋なれど現に会へぬはいとどつらきを

恋ふ人を夢に見しより頼りとすいにしへ人の憂き恋ぞ知る

■学校の近くの猫ちゃん

寝そべりて人を食ったる猫を避け我過ぎぬればしっぽ振りをり

■伽耶院(三木市)にて紅葉狩り

霜月は「シテ」のもみぢ葉狩る我は「ワキ」をつとめて橋がかりを行く

■紅葉散る


ひゅるひゅると風にすくはれ散る紅葉師走半ばの花火のごとし(月刊「兵庫教育」平成16年3月号掲載)

■老いたる母に

耳遠く聞きては返す母に向ひ何度も答ふ我も早や五十