をりふし短歌

2001年度版


■2001年元旦

新世紀に 現代人の 忘れたる 凛たる心 持たんと誓ふ



■携帯のマスコットを見て

ケータイに 揺れて踊れる マスコット あれこそ君だと 思うことあり

■2001・1・17震災追悼式

黙祷の 1分間が 巻き戻す 6年前の 地震の朝に

復興の 長田の街が 映るとき 6年前の 焦土と重なる


■百人一首カルタ大会(2001・1・19)

ミラクルを 起こす8組 今回の カルタ会でも 1位勝ち取る

大寒に 雅の世界 繰り広げ カルタクィーンは 茶髪の彼女

■東寺・初弘法にて

寒きびしき 初弘法の 人混みに 京の言葉の ぬくもりを聞く
(「兵庫教育」2001年5月号掲載)

■須磨浦から淡路島を見て

千鳥鳴き 夕陽に黒き シルエット 残して飛べる 淡路の沖に

■冷たい雨降る冬の朝

冬の雨を 心のスポンジ 吸い込んで 欠勤固める ブロックと化す

■長田神社の追儺式(2001・2・3)

善鬼まく 火の粉いただく 追儺式 長田の杜に 春を呼び込む

■内心嬉しかった

「先生」と 声かけられて 振り向けば 茶髪の彼女が カラスに変身


■春を見つけて

置きあまる 露の滴に 月影が 生命吹き込む 立春の朝

木蓮の 産毛に輝く その先に 春の兆しの 白きを見つけ


■グレー村の画家たち展(西宮市大谷美術館にて

臘梅の 香漂う 昼下がり グレーの村の 画家たちに出会う

描かれし 黄昏色の 「ロワン橋」 理想郷へと 我を誘う





パリ郊外の グレーの村で 絵筆持ち コローの世界を 描いてみたい












■バレンタインデーに

始業前の 突然のチョコに 胸の銅鑼 鳴り続けたる バレンタインの日

未来より もらったチョコの 一粒が 笑顔とともに 心に溶けゆく


■帰りの電車から須磨の浦を眺めて

浦凪て 今日の平安 感じつつ 列車の揺れに 身を委ねたり

■53回生の卒業式(2001・2・28)

答辞無き 卒業式に 一抹の 寂しさ感じ 子らを見送る

春の朝 巣立ちゆきたる 若者に 紅白梅の 清き香の降る


■愛犬マミーを見て

14年 ともに住みたる 愛犬の 目の白き見て 我が身に重ねる

■55回生と歩んだ1年を顧みて

万華鏡を のぞいてみれば この1年の 喜怒哀楽が 幾何学模様に

■高校入試


XYの 座標の軸が 非情にも 合と否を分く 春分の日に


■クラス文集を見て

生徒らの 顔が心の 印画紙に 焼き付けられて 一年終わる


■フランス旅行(2001・3/28〜4/2)

サントノーレ ポンヌフの橋 シャンゼリゼ 今憧れの 巴里の人となる

ボンジョルノ 誰しも交わす 挨拶が 異国の人の 心和ます

春描く パリ郊外の キャンバスは 緑黄桃の ウォーターカ
ラー







ヴェルサイユで 熱弁ふるう 案内人 講談調に つい引き込まれ

ロワールの 古城はあくまで 美しく ステンドグラスに 栄枯の光が

巡礼者の 感動味わう 海上に モン・サンミッシェル 見えたその時

ソンリスの 中世村の 教会で ミサがもたらす 敬虔なる時




林立する 高速地下の 橋脚に ふとダイアナの 悪夢よぎれり




小窓より 眼下に広がる ツンドラは 氷の大地を 無尽に切り裂く

機内にて 休みの課題と 取り組める 学生らを見て 現実に戻る



















■新年度(平成13年度)を迎えて

新しき 出会ひに胸の 高まれる 教室の戸を 開くる瞬間(「兵庫教育」2001年9月号掲載)

■六甲全山縦走(第2区)

はしゃぐ声 鍋蓋山に さしかかり 無口になりて 息づかいのみ

息切らし 登りつめたる その先に 達成感と 緑の風吹く


■久しぶりの雨の朝に

春の雨が はやる心を 抑えつつ 週の終わりの 授業に向かう


■パノラマウィンドウに咲く薔薇を見て

緑陰の 窓にたゆたう 黄木香 清楚な輝き 放ちて咲けり


■新緑の姫路城を仰ぎて

姫山の 緑滴る 木の間ごし 威風堂々 白鷺の城

■通勤途上の病院の周辺

パンの耳を 川に投げ入れ 集いくる 魚に心を 癒せる患者


■庭の木苺をとりて

初物の 掌中の玉なる 木苺を 壊さぬように 口に運べり

■2001・5・12/13文化祭

文化祭で 声飛び跳ねる 中庭に 解き放たれし 五月の雀

黙々と 裏で支える 子らがいて 文化の祭りが 盛り上がりゆく

■PTAの原稿「青春」に

青春は あまりに思い出 多すぎて 三十一文字に おさまりきれず

青春は むやみに語る ものならず しまい置くのが いと美しき

青春は 心の箱に 鍵をかけ 時に開けては 懐かしむもの

■神戸市立博物館「古伊万里のすべて展」を見て

古伊万里の 藍とも青とも 言い難き 色に魅せられ 午後を過ごせり

古伊万里を ガラスの向こうに 息ひそめ 凝らしつつ見る 我が映れり

■中間考査監督中

試験中 一人顔上げ 我を見る 救ひ請ふ目に 笑み投げかへす (「兵庫教育」2001年9月号掲載)

■北野天満宮骨董市に出掛け

雨上がり 都人らが 繰り出せる 天神さんで 日がなを過ごす

■教え子の結婚式に招かれて(2001・6/3)

六月の 花嫁に幸 多かれと 寿ぎ祝う 今日の佳き日に

■春休みの課題のための居残り生徒

居残りて 春の課題を 終えし時 初夏の日射しが また急き立てる

■池田小学校児童殺人事件を知って

8人の 尊き命を 無に帰せる 鬼に対する 恨みは∞

■梅雨のひととき

梅雨最中 水田に鳴ける ひき蛙 よかれよかれと 告げるがごとく

雨に咲く 十人十色の 花菖蒲 源氏の君の 女性と比ぶ

そぼふれる 雅の雨に 軒を借り 長居をしたる 古伊万里の店

文月に 寺町歩きて 思い立ち 鳩居堂にて 便箋を買う

■通勤のプラットホームにて

階段を 脱兎のごとく 駆け下りて 閉まれるドアに はしたなき顔

■期末テスト前に

人前で 諦めたと 言いつつも 一夜漬けに 望みを託す

■校内大会アベック優勝(2001・7/12)

ミラクルは 今年も健在 男女とも 優勝手にして 幸せルンルン

生徒らが 築き上げたる クラスの輪 力となりて 輝きを増す

■紫陽花を見て

梅雨空に 力強さと 優しさを 放ちて咲ける 紫陽花の花

■姫路城の薪能で

城を背に 能舞う楽師が 幻想の 篝火の中に 見え隠れす

■義母の初盆に

初盆に 義母の名新たに 刻まれし 墓石を洗う 手がふと止まり

■東欧の旅をして(2001・8/15〜8/24)

ベルリンに 「舞姫」連れて 降り立てる 豊太郎とは 今の我なり

ベルリンの 壁は薄きも 不幸にし かつて閉ざせる 人の往来

鴎外の かつて歩きし 菩提樹下に 来たれば吾の 心たかぶる(「兵庫教育」2001年11月号掲載)






エルベ川に 沿えるテラスを 歩きつつ 風景見ては 短歌を綴る


避暑に来た ヨーロッパの夏 猛暑にて 後悔しながら 旅を続ける







カレル橋の ザビエル像の 十字架に 夏の日射しが 手をさしのべて

十二時に からくり人形 顔を見せ ここぞとばかり カメラで切り取る












水よりも ビールが安い 異国では 気遣い忘れ ついもう一杯

雑踏を すりぬけ見上ぐ 偉容なる 大聖堂から 聖なる響き

うたかたの 恋の悲劇の 舞台訪へば ウィーンの森に 稲妻走る(「兵庫教育」2001年11月号掲載





チェコ国と スロバキア国を 隔てるは かつて奏でし ドナウのさざ波









こんなにも 美しき街が あろうとは 夢がまたひとつ 現実になる

讃美歌の 声流れくる 教会は 異国の者も 入るを拒まず

静謐の 聖ヴィートの 教会に 佇む吾に 讃美歌の降る

漆黒の ドナウに架かる くさり橋 ネオンの宝石 川面に散りばめ

旅終えて 財布の中の 一枚の シリング硬貨が 思い出を呼び

■夏の終わりに

床前に 聞く虫の音が この夏の 暑気を飲み込み 涼風を吐く

長月の 声聞く朝は 空気澄み 映ずる景色も けざやかに見ゆ


■子を探す親猫の声を聞いて

子を探し 夜通し鳴ける 親猫の 声こびりつき なかなか寝付けず

■台風の予報が気になって

雨足の 強まるたびに 生徒らが 声を揃えて 警報まだかと

■米国同時テロの映像を見て(WTC)

繁栄の シンボルタワーが 無残にも 映画のごとく 崩れゆきたり
(「兵庫教育」2002年・1月号掲載)









■48歳の誕生日に(9月14日、「シェ・マツ」で)

一本の ケーキの上の ローソクを 消したとたんに 48歳









■第54回体育祭(9/19)

足下を 結ぶ絆が ゴールまで ほどけぬようにと ひたすら祈る

頼もしき 団結力を 見せつけて 勝利呼び込む 子らに感謝す

優勝するの 宣言通りに やってのけ またまた思う たいしたものだ

賞状の 一位に我が組 書き入れて 担任冥利の ひととき味わう


■下校途上の家の庭先で

木犀の 香を寄せ付けず 凛と立つ 赤きカンナに 孤高の姿

■秋祭りが近づいて

夕餉終え 子ら集いきて 太鼓打つ 音が知らせる 祭りの近きを

宵破り 祭り太鼓が 響きわたり 次第に高まる 胸の鼓動も


■京都祇園にて

夕まぐれ 祇園さんに 身を置けば 紅白粉の香 はんなり香り

■「白貂を抱く貴婦人」(ダ・ヴィンチ)を見て

白貂と 貴婦人振り向く 一瞬の 眼差し我射て 釘付けにせり

闇間より 一枚の絵の 浮かびきて チェチリア夫人が 我を虜にす












■松原八幡宮の宵宮(10月14日)


しで竹と 祭囃子が 相和して 八幡宮に 秋色奏で







■秋の一日遠足(京都)

どことなく 息ひそめをり 京の町 紅葉の錦を 纏ふとき待ち

■十五年研修に参加して

人前で 冷や汗をかく 研修で 教師われ生徒の 気持ち味はふ(「兵庫教育」2002年・1月号掲載)

■パソコンの文字見て

パソコンの 流麗文字も 水茎と かけ離れいて 筆に持ち替え

■弘法市へ(十月)

コロッケの ぬくもり消えぬ 道すがら 弘法さんまで 妻と分け合い

■点滴治療中に

点滴が 我の身体に 沈みくる この二時間は 夢か現か

■岩崎克朗先生(西脇工業高校)より電話をいただいて

受話器より 熱き師の声 伝はりて 眠れる魂を 揺り動かす夜

■獅子座流星群を見て

丑の刻 南天駆けゆく 流星を 年の数だけ 見つけて眠る

■清水徹先生(長田高校・国語科、享年四十二歳)の訃報に

志を遂げず 四十余で逝く 同僚何処へ メール送りし 履歴のみ残る


■紅葉の季節に

もみじ葉を 栞にしたる 人ありて 今日も出会える 霜月電車
(月刊「兵庫教育」平成14年3月号掲載)

■県花「野路菊」を見て

冷えるほど 色冴えかえる 野路菊に 初冬の光が やさしく語り

■通勤車内で

女子高生 CDサイズの 鏡見て なぜか口開け アイラインを引く

■文化公演会で、アフリカン・エクスプレスの演奏を聴き

アフリカの リズムが身体を 駆け抜けて 余韻残りて ステップを踏む

■神戸高塚高校5回生との食事会で

教え子が ママになるのと 言う席で メインディッシュが またひとつ増え

■畑の収穫

義母残せる 畑を妻と 耕せば ゆがむ畝から 小蕪の芽出づ(月刊「兵庫教育」平成14年3月号掲載)

■校内大会

「ナンシュー」と「シュート」を掛けた声援にはにかみながらも男子奮起す

■コーラス大会(学年一位・総合二位)

サッカーの 屈辱はらす コーラスは 勝利呼び込む クリスマスメドレー

四十三人の 絆が奏でる ハーモニー サンタが運ぶ 団結の和