左目と額を覆い隠すように包帯を巻きつけた少女は、ゆっくりとした足取りで町中を歩いていた。
空から、今年初めての雪がちらつき始めている。
その寒さの中を、少女はパジャマに薄手のコートを羽織るという軽装で足を運んでいく。
何を目指して、何を思って足を進めているのか、その足取りはややふらついている。
雪が降り始めたせいか、そんな少女の姿を気に留める人は皆無で、だから少女は誰にも咎められることなく独り町を彷徨っていた。
少女の足が、止まった。
緩慢な動作で天を見上げる。
片方だけ見えている天空を思わせる澄んだ青い瞳が、空から音もなく舞い落ちてくる雪を認めた。
何が嬉しいのか、少女の口元が笑みの形に歪んだ。
少女の手が、雪をその手の平に受けるように差し伸べられる。
雪がそこに舞い落ちようとした瞬間、少女の顔が苦痛に歪んだ。そして顔を覆っている包帯の一部にじわっと黒い染みが浮かんだ。
発作、だった。
少女は声を出すことすら出来ない激痛に、その場に倒れ込んだ。痛みのあまり身体の自由が利かず、身体は勝手に手足を突っ張らせて不規則に痙攣する。
苦しくて苦しくて涙が溢れてくる。息苦しさから新鮮な空気を求めて口を大きく開けても、上手く呼吸できず、苦しさがますます募っていく。
発作は嫌だった。ただ苦しいだけのそれは、いくら鎮痛剤を服用しても治まってくれず、心身を責め苛んでくれるのだ。そして発作が起きる度、身体から生きる力が喪われていくのを実感させられるのが、もっともっと嫌だった。
自分はまだ若いのに。自分はまだ十数年しか生きていないのに。少女は発作を起こしながらも、自分を今の境遇に堕とした何かに向けて憤りを感じずにはいられなかった。
苦しすぎる痛みもやがて終焉を迎え、始まったときと同じように唐突に発作は終わった。
少女は顔を強張らせたままその場に身体を起こし、顔を覆っていた包帯を取り去った。
手の中にある包帯は巻いて貰った時の白さを喪い、膿に塗れて黒くなっている。
包帯の取り去られたその顔は、悲惨の一言に尽きた。包帯で覆い隠したくなるのも理解できてしまうひどい黒い痣が、少女の顔半面を覆っていた。
星痕症候群(せいこんしょうこうぐん)。
そう呼ばれる奇病に、少女は罹患しているのだ。それは未だ治療法の発見されていない不治の病である。
発作をどうにか乗り越えた少女は、再び天空を見上げた。
空を連想させる綺麗な青い瞳が、空から舞い落ちてくる雪を捉える。
少女の口元が笑みを形作る。
豪奢な金の髪に、音もなく雪が降り積もっていく。
少女の滑らかな頬を、一筋の涙が伝い落ちていった。
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