〜 アンジェリーク 〜

【幻 春 6】

 

 「それで、おまえは祖母の代わりにここを訪れたのか」
少女が語る物語に静かに耳を傾けていた青年は、話が一段落したのをきっかけに少女にそう語りかけた。
「そう。おばあちゃん、もう年で、山を登るの大変だって言ってたから」
少女は傍らに佇む背の高い青年の顔を見上げ、にっこり微笑んだ。
「ねえ、あなたは桜の木の精霊さんに会ったこと、ある?」
無邪気な問いかけに青年は淡く微笑み、ごくあっさり答えた。
「ああ」
「ほんと?」
目をきらきら輝かせて間髪入れず聞かせてとせがむ少女に青年は苦笑を浮かべると、少女と目線をあわせるべく腰を屈めた。
「愛らしい少女の姿をした精霊にならば、会ったことがある」
青年はその刻のことを思い出しているのだろう、少し遠い目をしていた。
 そう、少女の面影に重ねるようにして何かを見つめていた。
 どんな精霊だったのか尋ねようと青年を見遣った少女は、その眼差しに言葉を失ってしまった。

 

 
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