≪地下10階−8≫
全員のHPが100を超える。ティルトウェイトにもなんとか耐えられる耐久力を身につけた私たちは、再び皇帝ハルギスに戦いを挑む。
1ターン目、ハルギスは今回もティルトウェイトを使ってきた。・・・が、耐えた!
2ターン目、ハルギスはその次に強いラダルトを使ってきた。リセーット!
≪地下10階−9≫
大失敗。ハルギスの魔法攻撃は、回復が追いつくようなものではない。しかも奴は、見た目からは想像もできないほど打たれ強い。どう考えても力押しでは無理だ。知恵を使わなければ倒せそうにない。そこで私は考えてみる。
ハルギスは、多数の部下を連れている。そいつらを一掃しようと全体ダメージ魔法を連発していたが、魔法の効きにくい奴が多く、有効な戦術ではなかった。ならば・・・。
そして気付いた。奴らの多くが、魔法や炎の息で攻撃してくることを。これらには、同じ魔法で対抗することができる。ならば徹底的に守りを固めることが有効ではないだろうか。そして魔法耐性の影響を受けないカニトで部下を消し去り、後は殴り合いに持ち込めば・・・いける!
≪地下10階−10≫
またまた皇帝ハルギス戦。
1ターン目、思いつく限りの魔法対策を施す。そしてハルギスは、ワンパターンのティルトウェイト! ・・・よし、結界で遮断した!
2ターン目、ハルギスは結界を打ち破る。その間に私たちは、ザコを倒しながらも魔法対策をさらに強化していく。
3ターン目、ハルギスはラダルトを使ってくるが、おとりとして召喚していたドラゴンゾンビが受け止めてくれる。そしてついに、私たちは接近戦に持ち込むことに成功した。ちなみにこの時、敵はハルギスただ1人になっていた。対するこちらは、私を含めると7人(+ドラゴンゾンビ)。タコ殴りとも言う。
そして4ターン目、ついにハルギスを倒した!
終わってみればあっけなかった。私たちは1ダメージも受けていない。戦術の勝利ということか。それとも・・・数の暴力?
≪地下10階−11≫
皇帝の間には、さらに奥へと続く扉があった。しかし私たちには関係のないことだ。今すべきことはアルマールの街に戻り、皇帝撃破の報告をすること。そしてマナヤ様の呪いが解けているのを確認することだ。
私たちは胸を張って街に凱旋する。その中に1人、「望むままの報奨」に心を躍らせ浮かれていた、どう見ても勇者らしくない者がいたことは言うまでもない。
≪地下10階−12≫
王宮へ行くと、謁見の間に招かれる。そこには領主であるウディーン様がいた。その側には呪いが解け、視覚、聴覚、言葉を取り戻したマナヤ様も。
・・・そうか、そういう呪いだったのか。初耳だ。
ウディーン「わしもいろいろと手を尽くした甲斐があったというものよ。」
こらまて。その「いろいろと手を尽くした」ってのは本当か? 「望むままの報奨」という表現で、さりげなく娘をちらつかせて男のスケベ心を利用するのは、手を尽くしたことになるのか?
ウソつきは泥棒の始まりだぞ。今は領主だから職業はロードなんだろうが、もしウソだったら盗賊に転職してもらうからな!
ウディーンの奴(もう、様はつけてやらん)は、さらに言葉を続ける。
ウディーン「もちろん、そなた達の労苦も汲んでやらなくてはなるまいな。本来なら報奨だけでも十分なところだが、まあ約束とあればしかたあるまい。受け取るがよいぞ。」
キー、ムカツクおっさんだ。しかもこれまでの苦労の見返りが、1人わずか10000Gのお金と階級章だけだとは。
ん? もらえたのが6人分って、どういうこと? 私は除外なのか? 私は勇者ではなく、彼らの活躍を日記に記録していただけの、おまけの詩人だとでも言いたいのか?
こんな父親を持って、マナヤ様も大変だな。きっと自由を奪われ、奴隷のような生活を強いられているに違いない。なんとかして、マナヤ様を自由にしてあげたいものだが・・・。
やがて謁見は終わり、私たちは追い出されるようにして王宮を立ち去る。その時、不思議な声が、頭の中に直接響いてきた。この声は、マナヤ様なのか?
マナヤ「たすけて! ここにいるのは私ではないの。ハルギスより邪悪な者が私を支配している!」
ええ、その邪悪な者なら私も知っています。それはあなたのお父上のことですよね?
マナヤ「あなた達は、それを解き放ってしまったのです!」
いや、あの親父なら以前から、解き放たれた野獣のような生き方をしていたと思われますが。
・・・え、違う?
アルマールの街に漂っていた腐臭は、更に強くなっていた。マナヤ様の話は本当らしい。ハルギスの背後には、どうやら黒幕がいたようだ。ということは、そいつは皇帝の間の奥にいるのだろう。あの迷宮は地下10階までだと聞いていたが、地下11階以降がありそうだ。するとこれから先は、さらなる強敵が待ち構えているはずだ。そんな戦いに、私が参加していいものだろうか。
これまで私は、このパーティのリーダーのつもりでいた。しかし現実はどうだろうか。勇者と呼ばれても恥かしくない冒険者に成長した彼らの足を、2人で引っ張っていただけではないだろうか。
勇者たちに同行し、彼らの活躍を物語にする詩人。今の私には、それくらいしかできないのかもしれない。
そして私たちは、再び迷宮に挑む。マナヤ様とアルマールの街に、真の自由と平和をもたらすために。
富でも、名声でも、愛でもなく、ただ人々の幸せのために。
・・・いや、その、逆玉の話だけど、マナヤ様、少し若すぎるしねぇ。はっはっは・・・はぁ。
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