≪秋の月、24日(金)≫
今日の依頼はカリンから。「用事があるから」「会いにきてよ。」
ということでカリンのところへ。以前の依頼で一緒に行った、「プリベラの森 見つめる瞳」にまた行きたいという。以前の時は都会へ行くための予行練習だったのだが、その時カリンは途中でへばって休憩ばかりしていた。
・・・でもカリンは以前とは変わったんだよな。今度はきっと、まともな目的があるのだろう。それとも「今度こそ」という再挑戦なのだろうか?
そして森へ。「カリン、大丈夫?」と聞いたら、「この前はモンスターとあうのが目的だったから。・・・・・・デートで来るのとはぜんぜん違うよ。」とのこと。
・・・そうか、これってデートだったんだ? と言ったら文句を言われた。
その後、以前に来た時の話をしながら、りんごを採って丸かじり。
カリン「あれから、ちょっとだけこの町のこと、考えるようになったんだ。」
「ちょっとだけ」っていうのがカリンらしいけれど、彼女は確実に変わってきている。もちろん良い方向に。
自分の店で扱っている商品の出どころも知らなかった以前の自分。でも・・・前に私と一緒にりんごを食べた時、何かが変わった気がしたのだという。
「生きる」ということに楽しさを感じられるようになったのではないか、「頑張ればできる」そんな自信を身につけたのではないか、私はそう思っている。
カリン「これからも一緒に、頑張ってくれる?」
考えてみれば、私が他人の生き方に介入したのは、カリンだけなんだよな。そしてカリンは、私の応援に応えてくれた。カリンが今後、どんな風に生きて行くのかに興味があることは確かだ。責任も感じている。
でも・・・彼女はモンスターを、危険な存在だとしか考えていない。そんな彼女が私の正体を知ったなら・・・それでもカリンは、一緒に頑張りたいと思ってくれるのだろうか。
返事ができないまま、森の深部の「見つめる瞳」へ。
カリン「ここまで来るのに、けっこう時間かかっちゃったな。」
そうかもしれないな。この町が大嫌いだったカリンがこの町を好きになるまで、ずいぶん遠回りしてきたように思える。でも遠回りしてきた分、この町をいろんな視点で見ることができるのかもしれない。
カリン「私が行きたい場所は、都会じゃなかったみたいだから。まあ、ここでもないと思うけどね。たぶん、ここらへんだと思う。」
・・・ここじゃなくて、ここらへん?
カリン「そ。ここらへん。」
この町はまだ、カリンの理想の町とは少しズレがあるようだ。彼女がこの町を大好きになるためには、いったい何が足りないというのだろうか?
カリン「(好きな人と一緒にいられる、一緒に頑張れたら、それでいいかな)」
カリンのそんなつぶやきが聞こえた。そうか、これからのことを考えているのか。その時に楽することしか考えていなかったカリンが、夢を見るようになるなんて・・・。
・・・でもモンスターハーフの私に、カリンと一緒に頑張るなんてこと、果たしてできるのだろうか?
その時、カリンの背後にモンスターが忍び寄ってきた。しまった! 自分の考えに没頭していて、周囲に気を配るのを忘れてた!
この位置からでは間に合わない! 人間の足では! モコモコに変身しない限りは!
私はモコモコに変身してモンスターに飛びかかり、蹴り飛ばした。カリンの目の前で。
カリンは初め驚いていたが、何かを考え始めた。
カリン「・・・・・・・・・・・・。−−それよ。」
・・・は?
カリン「都会にはイリュージョンってもので、お金を稼いでる人たちが居るの。・・・・・・ね、使えると思わない?」
・・・えーと、つまり、私はマジックのタネですか? お金儲けの道具ですか?
カリン「その能力があれば、種も仕掛けもなしでイリュージョンができる。つまり、楽してひともうけできるってこと。でも・・・・・・。」
楽して稼ぐことと、私と一緒にいる時間を作ること、どっちを取るかで悩んでいるらしい。カリンらしいというか、なんというか・・・。
これまでカリンの成長を見てきたけれど、立派に成長したと思っていたけれど、やっぱりカリンはカリンだったってことなのかな? あはは・・・。
さて、これで町の配偶者候補全員に正体を告白したことになる。これだけ味方をつくれば、交流祭を反対されることはないだろう。問題は、町ではなく集落の人・・・というか、人間嫌いのクルルファさんだが。
ともかく、いまさら後には引けない。やるしかない。
さあ、もうひと頑張りだ。
≪秋の月、25日(祝)≫
私は広場に町中の人を呼んだ。そして告げた。この町と集落とをつなぐ、交流祭を開きたいと。それを成功させるカギは、私自身の秘密にあると。
私は自分がモンスターハーフであることを公表した。そしてみんなの前で、モコモコに変身して見せた。
みんなから失笑された。
どうせモコモコなんて、モコモコなんて・・・。トゥーナみたいに格好いいモンスターだったら良かったのに・・・。
ともかく町の人は私を受け入れてくれた。そして交流祭をやってみようと言ってくれた。よし、これで町の人の説得は終了だ。あとは集落の人のみ!
しかし集落説得担当のオンドルファさんの表情は冴えない。どうやらクルルファさんの説得は難航しているようだ。私も説得してみたがダメだった。オンドルファさんは、クルルファさんの心を動かせるものがあればと言っているが、そんなものはあるのだろうか? 彼女が大好きなものといえば甘いお菓子だが・・・食べ物で釣るってのもなぁ。
自宅に戻って途方に暮れていると、シアが訪ねてきた。
シア「お花・・・・・・、なんてどうでしょう。お花は人の心を映す鏡です。」
うーん、言っていることは分かるが、花を見て育てた人の心が分かるような人は、シアみたいな花マニアだけだと思うぞ。
でも女性に花を贈るというのは常套手段ではある。ともかくやってみようか。
そして4種類の花の種を受け取り、それを咲かせることにした。これらの花で花束を作ろうという計画だ。ちなみに花束に使うリボンはエリザさんからもらい、ブローチはガジさんに材料を渡して依頼した。
しかしシアから渡された花、育てる季節がばらばらなのだ。トイハーブとムーンドロップが春、ピンクキャットが夏、チャームブルーが秋だ。しかもチャームブルーは開花まで6日かかるため、今からだと間に合わない。
・・・とりあえず、チャームブルーは成長促進剤はげしくノビールを使うとして、春と夏の花は、それぞれの季節に対応していると思われる、ダンジョンの畑で育てることにした。
問題はこれらの種、1つずつしかないことだ。
・・・どうか、台風や大雪が来ませんように。
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