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≪フリーRPG「孤島の牢獄」制作日記、その4≫

 今回はダメージと回復、そして命中率についてです。
 ウィズをプレイしたことがある人は、その回復手段の貧弱さに苦労させられたのではないかと思います。でもこれには明確な理由があります。それはウィズの元になったダンジョンズ&ドラゴンズ(以下D&D)というゲームが、そうなっていたからです。
 ・・・では理由になっていないので、D&Dがなぜそうなっていたのかを書くことにします。

 D&Dはすべてのシステムが理論的に作られており、制作者が快適さよりも理論の美しさを重視した結果、バランスが崩壊してしまったようなゲームです。が、回復手段の貧弱さに関しては筋が通っています。それはHPを回復しながら力押しで戦うよりも、ダメージを受けないように知恵を絞って戦う(場合によっては戦いを回避する)ことを推奨していると思われることです。そしてD&Dとウィズでは大きな違いがいくつもありますが、この部分に関しては同じであると感じています。
 ようするに、回復手段に頼るな、ということです。それゆえ回復手段をあえて貧弱にしているのだと私は考えています。

 実際のところ、回復手段に頼ってプレイするRPGはとても遊びやすいです。そのためバランスが良いという評価をされやすいです。でもバランスというのが快適さだけでなく、楽しさにも大きく影響するものであることに気づいていれば、そのようなRPGの戦闘を物足りなく感じるのではないかと思います。なにしろいくらダメージを受けても簡単に回復させることができるため、ダメージを受けることに脅威を感じにくくなるからです。それでも驚異を与えようとすれば、豪快にダメージをくらい、それでも全滅しないように魔法で豪快に回復させるという大味なバランスにする必要があります。これで楽しさを生み出すのは困難でしょうし、限界もあるでしょう。
 では楽しさを生み出せる優れたバランスとは、一体どんなものでしょうか。まず、回復役が回復以外の行動を選択できるだけの余裕は必要でしょう。回復一本ではつまらないですから。これは回復以外の行動もしなければ不利になることが多いようにすべき、という意味でもあります。
 そして受けるダメージが回復量を上回るのが基本となります。戦闘中の回復は全滅までの時間を遅らせるためのものであり、頼っていればじり貧になる。だからあらゆる手段を駆使して、タイムリミット(味方の全滅)までに敵を全滅させなければならない。回復はタイムリミットをある程度引き延ばすためのものでしかない。このようなものが緊張感のある楽しい戦闘であると思います。
 ただし全ての戦闘で全滅をちらつかされるというのは疲れます。

 そこで孤島の牢獄では、快適さ重視と楽しさ重視を足して1.5で割ったようなバランスを目指しています。回復手段はウィズよりもずっと強力で豊富だけど、戦闘中に回復するよりもさっさと倒してしまった方が総合的な被害は少なくなる。それゆえ上手にプレイするほど、1回の冒険を長く続けられる。というものです。もっともザコの中にもかなり強い敵がいますから、そんな敵と戦う時には回復手段でタイムリミットを引き延ばしながら戦う必要があるかもしれませんけどね。
 ちなみにHP回復魔法が存在する魔法レベルには、他にも頻繁に使用したくなる魔法を混在させており、プレイヤーを悩ませる仕様になっています。・・・だから悩んでね。悩みも考えもせずに回復魔法に頼って頻繁に探険困難状態になり、「このゲームは難しい!」なんて文句を言っても私は知らないよ。

 最後に命中率についてです。と言ってもここからが長いので御覚悟を。
 ウィズというゲームは、序盤に限れば味方の攻撃はしょっちゅう外れ、敵の攻撃はたいてい回避できるというバランスになっています。ゲームが進めば進むほどお互いに命中しやすくなるのですが、序盤の攻撃ミスの応酬は、ドラクエのような快適さ重視のRPGしかしたことがない人にとっては、いらだちを感じるかもしれません。でもウィズはメッセージ送りのスピードを異様に速くすることもできるため、命中率の低さは試行回数の多さでごまかすことが可能です。ごまかす、なんて表現を使うと悪い印象を持たれそうですが、重要なのはプレイヤーがどう感じるかなので、かったるいバランスであっても快適なテンポにできれば、それほど悪くはないわけです。もちろん良いわけではないですが。
 もっともウィズの場合、味方の攻撃が命中するころには敵の攻撃も命中することが多いため、ぶっちゃけお互いの命中率をもっと高くしてもあまり変わりません。しいて言えば、命中率100%の攻撃であるダメージ魔法が大きな意味を持つことくらいでしょうか。

 これに関しては、孤島の牢獄では命中率や回避率を重視しながらも改善します。ウィズは敵と味方の戦力の差が無いため、上記のような現象が起こるのですが、これは同時に理不尽な戦闘不能や全滅の多発にもつながっています。でも孤島の牢獄では、主人公は自分よりも弱い敵と戦うという大衆性に優れたRPGの良いところを取り入れることで、こちらの攻撃は当たりやすいけれど被弾はしにくいという状況を作ります。
 「それって弱い者イジメじゃないの? そんなの面白いの?」と思う人が多そうですが、RPGとは成功した人の物語なのですから、そういうゲームになるのです。考えてもみてください。互角の敵とばかり戦っていたら、2回に1度全滅します。勝てたとしても、大抵は壊滅状態でしょう。知恵を絞り、幸運に恵まれたって、5連勝するのもほとんど無理でしょう。互角の敵と戦うというのはそういうものです。
 そえゆえ互角であれば強すぎると感じ、自分よりは明らかに弱いけれど時々ヒヤッとさせられる、という程度の相手を丁度良い強さだと感じるものなのです。ですから孤島の牢獄ではプレイヤーに有利なバランスにします。ただし「有利だ」と実感できるほど甘くするつもりはないですが。

 使い方を間違えれば上記のような問題が起こるだけでなく、正しく使おうとしてもバランス調整が難しくなる。そんな厄介な存在である命中率を、私はなぜ重視しようとしているのでしょうか。それは楽しさを生み出すのに不可欠な存在だからです。

 命中率が100%の戦闘は、行動の結果を予測するのが簡単です。そのため単純なパズルのようなゲームになってしまいます。
 でも100%ではなかったら、ピンチの時に攻撃されて「お願い、外れて!」と祈ることもあるでしょう。あと一撃で倒せる敵に対して1人だけを攻撃させるか、それとも外れた時のことを考えて保険をかけておくかで悩むこともあるでしょう。このような確率的にしか予想できない未来があるからこそ、主人公との一体感が生まれ、コンピュータRPGは名実ともにRPGとなるのです。
 さらに命中率100%の戦闘というのは、敵の総合的な攻撃力(一体あたりの攻撃力や敵の数)を高く設定することが出来ないという問題があります。でなければ簡単にやられてしまうからです。でも半分を回避できるとしたら、単純に考えれば敵の攻撃力を2倍にすることが可能です。実際には偏りが生じるためそこまではできないのですが、それでも命中率100%戦闘よりは一撃あたりのダメージを大きくでき、緊張感が生まれることでしょう。
 ついでにHPや攻撃力、防御力の数値を小さくすることができます。そのメリットは前回の「その3」で書いている通りです。
 これらが王道的なRPGが本来持っている楽しさです。そして現代風のRPGが持ち合わせていない楽しさです。孤島の牢獄は、現代風RPGの快適さとウィズ風RPGの楽しさの融合を目指しています。

 なお敵の攻撃を頻繁に回避できるバランスだと、戦闘終了後に毎回HPを回復させる必要はなくなります。時には大打撃を受ける時もあるけれど、ほとんどダメージを受けることなく勝てることが珍しくない。そんなバランスで丁度良いとプレイヤーに感じさせることができる。これも確率重視のシステムで格下相手に戦闘を行うというゲームのメリットです。

 最後の最後におまけの話。
 回復が面倒ならば、自動で回復させればいいじゃないか。という安直な理由で(?)、戦闘終了後に自動回復をしてくれるRPGもありますが、このようなシステムとバランスで面白いRPGになるわけがありません。
 理由は2つ。1つは戦闘の中身が重視されないということです。
 安直な自動回復であれば、完璧な戦術によりノーダメージで勝利しても、テキトーな戦術により壊滅状態でかろうじて勝利しても、勝ちさえすれば同じです。これでは戦闘を楽しむという意識に大きな差が出るはずです。もちろん専用の薬品や食料等を設定し、それらを被害の分だけ消費して自動回復を行う、というのであれば別ですけどね。そんなRPGは見たことが無いです。
 2つめの理由は、ゲームの雰囲気をどれだけ楽しめるのかに差が出るということです。
 HPを自分で回復させる必要がある場合は、常に全快させるのか、それともMPを節約してそこそこにしておくのかを考えるのが普通です。そしてどちらを選ぶのかはその時のバランスによって変化します。それゆえバランスが厳しい時にはそれを強く意識させられますし、余裕がある時には逆に自分でリスクを上げる選択をすることになりますので、緊張感が過度に低下することはありません。またどちらの場合にも回復手段の残りを考えながら遊ぶことになりますので、戦闘にどうやって勝つかという戦術だけでなく、あとどれだけ冒険を続けられるかという戦略的なことも意識するようになるため、自然とゲーム世界に深く浸れるようになります。でも自動回復であれば、何も考える必要がなく、何の楽しみも生み出しません。


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