≪皇帝≫
親衛隊を蹴散らし、ジェネラルとの激戦に勝利し、マリアのメガトンパンチにノックアウトされたりしながらも、ようやく皇帝の間にたどり着いた私たち。
そう、ようやくだ。
私がこの戦いに参加してから、どれほどの時が流れたのだろうか。この日記の日付を見る限り、1年半以上も経っているような気もするが、ヒルダ王女やリチャードは、その何年も前から戦っていたはずだ。
それに戦い続けてきたのは彼らだけではない。途中で力尽きたフィン国王やヨーゼフ、ミンウ達のことも忘れてはいけない。また戦闘には直接関わっていない一般市民だって、自分にできる形で戦い続けてきたのだ。戦士が戦い続けるためには、彼ら一般市民の力が不可欠なのだから。
そんな大勢の人を苦しめてきた戦いに、ようやく終止符を打てるのだ。ここまできて皇帝を逃がすわけにはいかない。今度こそ奴を倒さなければ。
皇帝は玉座に座っていた。私たちが要塞に侵入したことには気付いていたはずだが、落ち着いているものだ。自分の力に対する、絶対的な自信があるのだろう。彼は今、この要塞と竜巻を維持するために膨大な魔力を費やしているはずだが、それでもこれまでに戦ってきたどんな相手よりも恐るべき敵となるだろう。
だが私たちだって歴戦の勇者だ。フィン国王が遺言で残したアルテマ、飛竜、竜騎士を集め、司令官ゴードン王子を中心とした反乱軍を代表してここにきたのだ。
皇帝、覚悟!
皇帝「虫けらなど、私が相手にするに及ばん。者ども、かかれ!」
襲いかかってきたのは、親衛隊4人組。しかし、こんな奴らに苦戦する私たちではない。
皇帝「少しはやるようだな。だが、次はどうだ?」
現れたのは2人の親衛隊。
・・・って、減ってどうする! 勝負にならんわ!
皇帝「なかなかやるではないか。私が相手してやろう。かかってこい!!」
皇帝の前には、まだ2人の親衛隊と2体のウッドゴーレムが立ちふさがっている。部下を壁にして魔法で戦うつもりなのだろう。
だが私たちをなめてもらっては困る。親衛隊2人くらい、ガイとリチャードに任せればあっという間にカタがつく。並外れた耐久力を持つウッドゴーレムだって、炎の魔法を自在に操るマリアにかかれば赤子の手をひねるようなものだ。
ザコは彼らに任せ、私は後方から魔法で、皇帝に直接攻撃を仕掛ける。むろん、唱えるのはアルテマだ。究極の相手と戦うために生み出された究極の魔法だ。ここで本領を発揮しなければ、いつ役に立つというのだ。この魔法がある限り、私は皇帝と対等に戦うことができるはずだ。
ゆくぞ、みんな! これが最後の戦いだ!
戦いは6ターンで終了した。
6ターンもかかったというべきか、それとも6ターンしかかからなかったというべきか。もちろん勝利したのは私たちだ。
・・・っていうか、皇帝弱っ! アルテマも弱っ!
皇帝にはアルテマ以外では攻撃しないようにしていたから6ターンもかかったが、普通に戦ったら3ターンで終わってるぞ! 皇帝だけなら瞬殺してたぞ!
・・・え、えーっと、とりあえずこれで最後のはずなんで、格好だけはつけておこう。
ヨーゼフ、あなたが教えてくれたサラマンドの精神、私は立派に受け継ぐことができたでしょうか(う、嫌なことを思い出した)。
ミンウ、ありがとう。あなたが命と引き換えに封印をといてくれたアルテマのおかげで、皇帝と対等に戦うことができました(嘘じゃないよね)。アルテマがなかったらこの最終決戦がどうなっていたか、今思うとゾッとします(ラスボス瞬殺ではね)。
フィン国王、あなたの判断は間違っていませんでした。アルテマだけでなく、飛竜も大きな仕事をし(途中でダメかと思ったけど)、竜騎士は大きな戦力になってくれました(いなくても困らなかったと思うけど)。後任に指名されたゴードン王子も、陛下の遺言である「娘を、ヒルダを頼む」という言葉に全力で応えようとしています(意味が違うけどさ!)。
故人への報告が終われば、もうここですることはない。
さあ、これから凱旋だ!
≪パーティに潜む陰謀≫
ヒルダ「ありがとう。あなた方のおかげで平和が戻りました。戦いは終わりました・・・・。さあ、お祝いのパーティを開きましょう!」
いま思ったのだが、パーティで出される料理って、ベヒーモスの肉を使ったものなんだろうか。結局リバイアくん・・・じゃなくてリバイアサンは仕留められなかったから、今の反乱軍には他に豪華な食材なんて残ってなさそうな気がするのだが。
・・・待てよ。
雪原の洞窟にあった泉には、ジャイアントビーバーという食べられそうな奴が暮らしていたな。ガイなら言葉が通じるから、言葉巧みにだまして連れ帰ってくることができるかもしれない。おっと、すぐ身近に飛竜だっているじゃないか。全部仕留めたら、今日の食事は豪華になるぞ!
そんな冗談を言って反乱軍の人を苦笑いさせながら、食事になるのを待っていた私だったが、残念ながらダンスパーティが先に始まってしまった。
せっかくのパーティだ。ダンスなどできない私も、参加したいとは思っている。ただ問題は、相手をしてくれる女性がいないこと。本来ヒロインであるはずのマリアとは、わけがあって踊りたくないのだ。ちなみに元海賊のレイラは雰囲気になじめないのか、ずっと壁の花になっている。うーむ、誘ったら相手をしてくれるだろうか。
そういえば、ガイとリチャードはどこへ行ったのだろう。姿が見当たらないのだが・・・
ま、まさか!
ガイは私の冗談を耳にして、ジャイアントビーバーを仕留めに旅立ったのか!?
リチャードも私の冗談を耳にして、飛竜を連れて逃げ出したのか!?
・・・と、トイレだと信じたい。
パーティで最も注目を集めているのは、やはりヒルダ王女とゴードン王子だ。美男美女で絵になる2人だが、あの2人が私のブラックリストの1位と4位に名を連ねていることはあまり知られていない。
・・・いや、待てよ。2位のゴートス(無能司令官)と3位の皇帝はやっつけたから、この2人は1位と2位だぞ!
ぐっふっふ、このパーティはチャンスだ。隙を見つけて復讐してやろう。白ワインにトマトジュースを混ぜて、「赤ワインです」と言って渡してやるぜ!
そんな計画を練っていた私の側にマリアがやってきて、無理やりダンスに誘われた。私を野放しにしておくのは危険だと思ったのだろうか。
しかし私はダンスなんてできない。エッサッサなら得意だったが、体操とダンスは違う気がする。
・・・が、やれば何とかなるものだ。マリアが踊りながら私の足を踏みつけようとし、私はそれを不器用な動きで避けていく。はたから見ると、たぶん踊っているように見えるはずだ。もっともその踊りとは、盆踊りに近いものかもしれないが。
そんなこんなでパーティは盛り上がっていたのだが、突然1人の兵士が駆け込んできた。
兵士「た、大変です! ダークナイトのレオンハルトが皇帝に・・・・ぐふっ!」
ぐふっ?
・・・ま、まさかこの兵士、変なものをつまみ食いしたんじゃないだろうな!
言っておくが、私は無実だ!
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