≪小悪魔のささやき≫
ミシディアの塔。
それは究極魔法アルテマを求める者への、最後にして最大の試練。
噂では、ここで力尽きるものが後を絶たないという。クリスタルロッドを手にし、リバイアサンから逃れた勇者すら絶望させるその塔は、想像通りに恐るべきものだった。
いたるところに存在する溶岩や氷刃の通路、無数のモンスター、途中で待ち構える上級巨人・・・
その中でも特に危険なのが、通常の徘徊モンスターとして登場するインプ(使い魔,小悪魔)だろう。こいつは小柄なだけにひ弱で非力だが、いつも群れているうえに、強力な魔法コンフュを連発してくるからだ。
コンフュ、それは混乱の魔法で、それをかけられると味方全員が殴り合いを始めてしまう。今の私たちは大抵のモンスターよりもずっと強いから、これほど恐ろしい状況はないだろう。
昨日の悪友は今日のラスボス。
まさにそんな感じだ。
しかしその状況を、根性と運のみで乗り切っているわけではない。当然ながら対策はバッチリだ。
え? 防御魔法で魔法耐性を高めているのかって?
いやいや、その程度ではインプのコンフュは防げない。ではどうしているのかというと、防御魔法で物理防御力と物理回避率を高め、殴り合っても平気な状況を作り出しているのだ。混乱は長続きしない。回復するまで生き残れれば、それで十分なのだ。
というわけで、いま私たちは、モンスターそっちのけで殴り合っている。
・・・のだが、私の気のせいだろうか。
リチャードが私に斬りかかるとき、モンスターと戦う時よりも生き生きしているように見えるのは!
マリアが私に弓を撃つとき、異様に集中力が高まっているように見えるのは!
混乱耐性を持つ防具を身につけていて、私とともにコンフュが無効のはずのガイが、私の隙をうかがっているように見えるのは!
インプのコンフュが非常に強力なのは、きっとパーティの信頼関係が影響しているからだろう。そしてコンフュとは、きっとこんな呪文なんだろう。
呪文A「ガイって影が薄いよねーって、フリオニールが言ってたよ。」
呪文B「リチャードがいつも兜をかぶっているのは、見せられないような顔だからだろうって、フリオニールが言ってたよ。」
呪文C「下水道で泳いだマリアは、もうお嫁にいけないねーって、フリオニールが言ってたよ。」
言葉には不思議な力が宿っており、それが魔法の原理だという説がある。だからこそ魔法は、呪文を唱えることで発動するのだと。でもコンフュに限っては呪文そのものに、不思議でもなんでもない力が宿っていそうな気がする。
コンフュを修得するための本には、きっと今回の日記のようなことが書かれているのだろう。入手困難な理由が分かったような気がする。
注:ミシディアの塔はインプのせいで、ファミコン版では最難関ポイントの1つになっていました。難しいRPGばかりだった当時でも難しいと言われていたFF2の中でも特に難しい・・・というのがどれほどなのか、最近のRPGファンには分からないだろうなぁ(ちょっと悔しい)。でもPS版では思いっきり難易度が下がっていますし(このプレイ日記では大げさに書いている)、GBA版ではさらに簡単になっています。すごく悔しい(笑)。
≪禁断の魔剣≫
苦労させられたのは、背後からの攻撃だけではなかった。回復アイテムをちゃんと用意していたのにケチって使わなかったせいで、最後の守護者であるサンダーギガース(雷の巨人)に大苦戦したのだ。奴は皮膚が固くて分厚いため武器攻撃がほとんど通用せず、頼みの魔法もMP切れで使えない。
そこで仕方がなく、これまで封印していた武器に頼ることにした。それはこの世界最狂の武器、ブラッドソード。
吸血の魔剣とでも訳せばいいのだろうか。命あるものの生命力を吸い取り持ち主の生命力を回復させるという、強力な効果を持つこの剣は、敵の生命力に比例したダメージを与えるという、凶悪な効果まで持っている。あまりにも強いために使いたくなかったのだが、この際だから仕方がない。
そしてブラッドソードによる攻撃。予想通りに凶悪な効果を発揮し、あっさりと巨人を倒すことができた。
・・・ああ、やっぱりこれは強すぎる。もう2度と使わないようにしよう。
≪彼が見た未来≫
ついに最上階にたどり着いた。
そこには魔力がほとばしり、一目で分かるほどの強力な封印が施された扉があった。その前にいたのは、白魔道師のミンウ。
ミンウ「お前たちを待っていた! これから私の魔力の全てを、この扉にぶつける。うまくいけば封印は解けるだろう。さあ、下がっていろ!!」
いつになく厳しい彼の口調。
それはそうだろう。これから究極の魔法をこの世に解き放つのだから。
でも分からない。
いくらなんでも、ここまで鬼気迫る表情になることではないと思うのだが。
・・・いや、まさか!
彼は今、こう言った。
「うまくいけば封印は解けるだろう。」
うまくいけば!?
「私の魔力の全てを、この扉にぶつける。」
全てというのは、本当に全てという意味なのか!?
冗談じゃない。そんなことをしたら彼の命はない。他に方法はないのか!? 封印を解く鍵や呪文のようなものはないのか!?
私は必死に記憶を手繰り、最後の封印を解く手段を探す。
・・・が、思い当たることはなかった。
彼はいつから気付いていたのだろう。希代の魔道師である自分の存在こそが、最後の封印を解く鍵であるということに。
彼はいつから気付いていたのだろう。戦争を終わらすために戦っていながら、その結末を自分が目にすることはないということに。
私たちが初めて出会ったとき、彼がこう言ったことを憶えている。
ミンウ「私には君の運命が見える。それは、私の運命とも係わっている・・・・。」
運命など存在しない。未来を知ることもできない。私はそう信じている。
でも世の中の理を知り、それを正しく活用できれば、ある程度先の未来を、ある程度の確率で予測することは不可能ではない。
彼には未来を予測する、特別な才能があったのかもしれない。私たちが出会ったあの日、彼はこうなることを悟ったのかもしれない。自分が封印を解く鍵となり、私がアルテマの所有者となることを。
彼が運命という言葉で表現したのは、こういうことだったのかもしれない。
でも彼が見た未来は、1つの可能性にすぎないのだ。アルテマに頼らなくても、帝国を倒す手段が見つかるかもしれないのだ。
だから私は彼を止めようとした。止めようとしたのだが・・・。
・・・彼はすでに魔力の開放を始めており、ほとばしる衝撃に阻まれて近付くことができない。そして彼のもとにたどり着いた時には・・・彼はすでに、永遠の眠りについていた。
≪彼が託した希望≫
私たちは奥の部屋へ行き、アルテマの本を手に入れた。アルテマの魔法は、私が修得することにした。
この魔法には、世界を揺るがすほどの力があるという。でもその力とは、彼の命よりも重いものなのだろうか。
きっと彼はそう判断したのだろう。でもそれが残された者にとって、特にアルテマを託された者にとって、大きな悲しみと苦しみをもたらすことに気が付かなかったのだろうか。自己犠牲では真の幸せをもたらせないということを、彼は知らなかったのだろうか。
・・・いや、彼のことだ。きっと何もかも分かっていたのだろう。自分がここまでだったということも。戦争の行く末も。そしてアルテマを託された私は反乱軍の英雄として、全てを背負って生きていかなければならなくなることも。
私は英雄に憧れていた。でも知らなかったのだ。英雄という存在は、多くの人の夢や人生を背負って生きなければならないということを。知っていれば、きっとごく普通の人生を望んでいただろう。
ミンウは私が、その重さに耐えられるとでも思っていたのだろうか。
・・・買いかぶりだ。
私はそこまで強い人間じゃない。彼の期待に応えられるような、本物の英雄になんてなれやしない。それなのに、彼が見た運命に勝手に付き合わされたせいで、私は今この時から、英雄として生きていかなければならなくなったのだ。
私はこのことを、一生恨み続けることだろう。彼の命と引き換えに手に入れたこのアルテマが、私とともにある限り。
でも私はこの力を手放さない。
この力がある限り、ミンウという偉大な友がいたことを、決して忘れはしないから。
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