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≪喜びは悲しみにかき消され≫

 さらわれた王女を救出。
 大戦艦を爆破。

 この2つの報告は、反乱軍に大きな喜びをもたらすはずだった。しかしアジトに戻った私たちを待っていたのは、重苦しい空気だった。

 町人「大変だ! 王様の具合が急に悪くなった!」

 怪我のため自室でずっと静養していたフィン国王。しかし大戦艦がもたらした惨劇と恐怖は、彼の戦う気力を奪い取っていた。ずっとミンウが治療にあたっていたが、気力を失ったものに癒しの効果は薄い。・・・もう、限界なのかもしれない。
 ああ、私たちが大戦艦の建造を食い止めていれば、せめてもっと早く爆破していれば、最悪の事態は避けられたかもしれないのに・・・。

 そう言えば、ヒルダ王女が見当たらない。ずっと自室に引きこもっているようだ。もう長くはない父に顔も見せず、一体何をやっているのだろう。もしかすると、誘拐されたことが一因になっていると考えて、顔を合わせることができないのだろうか。
 反乱軍を支えていたのはヒルダ王女だった。しかし彼女を支えてきたのは、きっと父親である国王だったのだろう。その国王がいなくなれば・・・。

 ・・・おっと、陛下はまだ生きている。先のことばかり考えていないで、いま出来ることを考えよう。とりあえずは・・・お見舞いかな?


≪それぞれの戦いへ≫

 フィン王の部屋に駆けつけた私たち。この部屋にヒルダ王女を除く、反乱軍の中心人物が集結した。王女の片腕として反乱軍を支えてきた白魔道師のミンウ。わずかな期間でたくましく成長し、これからの活躍が期待されるゴードン王子。そして反乱軍最強の何でも屋にして雑用係の私たち。

 フィン王「ゴードン、ミンウ、フリオニール。お前たちに頼みがある。」

 念のために書いておくが、フリオニールというのは私のことだ。雑用係3人の中で私の名前が呼ばれたということは、きっと私がリーダーになっているに違いない。名刺にちゃんと書いておこう。

 反乱軍雑用係長

 か、かっこ悪い・・・。

 フィン王「ゴードン、たくましくなったな。お前には、我が軍の指揮をとってもらいたい。そしてヒルダを助けてやってくれ。」

 ゴードン「はっ、命にかけて!」

 おお、ゴードン王子、大出世! でも今の王子なら、この大抜擢もおかしくない。なにせ彼を鍛えたのは、雑用係のこの私ですからね!
 ・・・ああ、急に不安になってきた。

 フィン王「ミンウ・・世界の危機が訪れたとき、アルテマの本の封印が解けるという。今がそのときだと思うが、どうだ?」

 ミンウ「はい、封印を解きに行ってまいります。」

 アルテマの本。これはアルテマという魔法の秘密が記された本のことだろう。初めて聞く名前だが、この局面をひっくり返せるような力を秘めているのだろうか。ミンウがアジトから離れるのは大きな痛手となるはずだが、それだけの価値があるものなのだろうか。

 フィン王「フリオニール、ディストへ行ってくれ。ディストの竜騎士団は皆殺しになったが、必ず生き残りがいるに違いない。飛竜と竜騎士の力はぜひとも必要だ。」

 ディスト。聞いたことのない地名だ。これまで以上に長い旅になりそうな気がする。それもいるのかどうか分からない生き残りを捜すとなると、なおさらだ。長期間アジトを離れるのは、正直言って不安が大きい。

 3人に与えられた任務。これはどれも博打のようなものだ。逆の意味で実績があるゴードン王子を指揮官にするというのもそうだが、ミンウのアルテマ入手にしろ、私たちの竜騎士捜しにしろ、リスクが大きすぎる。それでもやらなければならないということは・・・大戦艦を破壊したというのに、反乱軍と帝国には、まだそれほどの戦力差があるということなのだろう。3度の大博打すべてに勝って、やっと勝利が見えてくるということか。
 はっきり言って望みは薄い。だが・・・残されている希望を、自分から捨てるつもりはない。

 フィン王「皆が力を合わせれば、必ずや勝利の日が訪れよう。3人とも、頼んだぞ。娘を、ヒルダを頼む・・うっ・・」

 そしてフィン王は、自らが起こした反乱の結末を知ることなく、この世を去っていった。またゴードン王子は反乱軍の指揮を取るため、ここでパーティから外れることになった。さようなら、国王陛下。さようなら、パーティ最大の戦力・・・。

 こうして反乱軍は、ゴードン王子とヒルダ王女を中心に戦っていくことになったのだが、亡き国王は、最後に厄介な問題を残してくれた。これは下手をすれば、反乱軍の内部分裂にもつながりかねない大問題だ。
 その問題とは、最期に言った「娘を、ヒルダを頼む」という言葉だ。さてこれは、ゴードン、ミンウ、私のうちの、誰に対して言ったのだろうか!?

 ヒルダ王女争奪戦、勃発。


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