≪新戦力、ゴードン王子≫
軟弱王子ゴードンを仲間に加えた私たち。彼の話によると、私たちが求めていた、それでいてずっと謎の存在だったエギルの松明は、このカシュオーン城のどこかにあるらしい。
当たり前といえば当たり前だが、妙といえば妙な話だ。しかしそれについて細かく書いていると、それだけでこのページが埋まってしまうので、涙をのんで省略させていただく。ただ、どうしても腑に落ちない疑問が1つあるので、それだけは書いておく。
太陽の炎はエギルの松明にしか灯すことができないという。しかしすぐ近くにある聖火台には、本物の太陽の炎が燃えている。つまり聖火台の一部には、エギルの松明が使われているはずなのだ。ならば聖火台を分解すれば、太陽の炎とエギルの松明をまとめて入手できるのではないだろうか。いや、それすらも面倒だ。もっと単純に、聖火台ごと持ち帰れないものだろうか。
・・・仲間たちが白い目で見ているので、普通に話を進めることにする。
まずすることは、王子に何ができるかを考えることだ。一緒に冒険をする以上は、何かの役には立ってもらわなければならない。
彼に多くを期待しているわけではない。例えばミンウは白魔法に長けていたが、戦闘はさっぱりだった。ヨーゼフは逆に、戦闘に長けていたが魔法はさっぱりだった。それでも2人は反乱軍の一員として、素晴らしい結果を残してきた。
全てをこなせる必要はないのだ。彼らほど優れていなくてもいいのだ。普通にこなせることが1つでもあれば、それで十分活躍できるはずなのだから。
そこで彼の能力を見てみることにした。
戦闘力 |
魔道師のミンウなみ。 |
魔法 |
格闘家のヨーゼフなみ。 |
・・・見なかったことにしておく。
とはいえ、彼もまったく役に立たないわけではない。この城はかつて彼の住居だったのだから、案内人としては最高の存在だ。戦闘で役に立たないのなら、最短距離を進んで戦闘そのものを減らしてくれればいい。ここで生まれ育った彼ならば、きっとそれができるはずだ。
だから彼は、戦闘の経験がなくても、魔法を修得していなくても、決して役立たずなんかじゃない。
マリア「お城のことには詳しいんでしょう?」
ゴードン「この城は謎だらけで、私にもよく分からないんだ。」
役に立たん!
≪ここは城か、迷宮か≫
かつて暮らしていた人でさえよく分からないという、恐るべきカシュオーン城。当然のように、私たちは道に迷っていた。先頭を歩いていたのが私だったから・・・ではないと思っているのだが、仲間たちは誰一人として信じてくれない。
しかしここ、本当に牢獄と言ったほうが良さそうな気がしてきた。いや、むしろ迷宮と呼ぶべきか。王子たちがここでどんな生活を送っていたのか、気になって仕方がない。
そういえば、カシュオーンには城下町がない。あまりに悲惨な環境ゆえに、誰も暮らすことができなかったのだろうか。それとも全ての国民が、このカシュオーン迷宮をさまよいながら暮らすという、RPGのモンスターみたいな生活を送っていたのだろうか。
返事を聞くのが怖すぎて、とても彼には尋ねられない。
・・・そうか。道に迷ったのは、こんなことを考えていたからに違いない。決定!
≪才能は花開く≫
ゴードン王子とともに、カシュオーン城の探索を続ける私たち。
しかしこのゴードン王子、見事なまでに使えない。兄のスコット王子は、彼を評して「素晴らしい能力がある。」などといっていたが、どこがどう素晴らしいのやら。魔法使いであるマリアよりも虚弱な戦士など、役に立つとは思えない。
たしかに力や知性といった、基礎能力は素晴らしい。これまで何度も冒険して成長してきた私たちでさえ、それらを数値化して平均すると17くらいなのに、ずっとウジウジしていた彼は22もあるのだ。
が、才能は才能。実力とは別物だ。現時点での実力は、私たちとは比較にならない。
「ふふん、才能など、しょせんその程度のものなのさ。やっぱり努力だよ。ど・りょ・く!」
しかし、そう思っていたのもつかの間。才能あふれるゴードン王子は、戦闘の経験をみるみる吸収し、あっという間に私を追い抜いてしまった。ほんの30分前までは、いつ力尽きて倒れるか分からない状態だったというのに、今やパーティでもっとも頼れる存在だ。そのせいで、私の影はどんどん薄くなっていく。
才能なんて嫌いだー!
≪何かが抜けてる私たち≫
やがて最深部にたどり着いた私たち。そこに置かれていた宝箱を開けると、エギルの松明が収められていた。
この城の探索を開始してからここにたどり着くまで、一体どれだけの苦労をしたことか。道には迷い、強力なモンスターには幾度となく襲われ、途中で回復のために引き返したこともあった。だが、やっとそれが報われたのだ。
・・・いや、喜ぶのはまだ早いようだ。エギルの松明の守護者である、レッドソウル(赤い魂)というモンスターが襲いかかってきたからだ。ゴードン王子がいるのに襲われるということは、この戦闘を避けることはできないのだろう。エギルの松明を手にするために必要な、試練ということか。
というこの文章、意図的にねじ曲げているわけではない。事実をそのまま書いただけだ。
・・・ここ、絶対に城じゃない。
それはさておき、レッドソウルは強敵だった。真っ赤な炎のような姿だから、「冷気の魔法ブリザドでいちころさ!」と思ってかけたら、なんと吸収されてしまう。
「しまった、こいつに普通の魔法は効かないんだった!」
という現実世界での記憶がよみがえったのは、炎の魔法ファイアと、雷の魔法サンダーを吸収された後。私たちがそんな無駄なことをしている間に、レッドソウルは全体ダメージ魔法を連発して、こちらの生命力を削っていく。
しかし今の私たちは、回復力に自信を持っている。マリア以外の3人が回復魔法ケアルを使えるため、十分に持ちこたえることができた。そして奴の魔法が打ち止めになったら反撃開始。みんなでタコ殴りにして戦闘終了。めでたくエギルの松明を手にすることができた。
用が終わったのだから、歩いて帰るのは面倒だ。私は脱出魔法テレポを使って外に出る。そして近くの森に住んでいた、チョコボというダチョウのような鳥を一羽捕まえ、それにみんなで乗って帰還する・・・途中で、大事なことを忘れていたのに気がついた。
「チョコボ、急いで引き返すんだ! 太陽の炎を忘れてきたから!」
そう、私たちは城の入り口で燃えていた、見落としようがない太陽の炎を忘れてきたのだ。テレポの魔法で脱出したばかりに・・・。
そして引き返して、太陽の炎をエギルの松明に灯す。今度こそアルテアに凱旋だ!
そう思って外に出ると、空の上で妙なことがおこっていた。なんと飛空船が、大戦艦に追いかけられているのだ。
・・・あ、捕まった。ま、いいや。乗っているのはあのシドだし。飛空船といっしょなら、きっと彼も本望だろう。
と、ノンキなことを考えながら途中の町に寄り道していたら、大変な噂を耳にした。
「大変よ。ヒルダ王女が飛空船と共に、帝国に捕まってしまったんですって!」
なんだって!? あの飛空船には王女も乗っていたのか!?
慌ててアジトに帰る私たち。噂は本当だったらしく、王女はどこにも見当たらない。
私たちは、これからどうすればいいのだろう。指示を出してくれる王女はどこにもいない。他に頼れる人もいない。アジトにいる人たちは、不安にかられてうろたえるばかり。今のこの状況で、自分は何をすべきなのだろう。
・・・いや、私たちは、これまでの冒険で学んできたはずだ。自ら考えることの大切さを。そして自らの意志で行動することの大切さを。
・・・と、自立をテーマにしたマジメな話を書こうと思っていたのに、ゴードン王子が捨てられた子犬のような目で私を見つめる。
あー、はいはい。すぐに王女を助けに行きましょう。ったく、この王子、戦士としては立派になっても、それ以外はまだまだだな。自立のネタにすべきなのは、自分ではなくこの王子の方だったか。しかたがない。もうすこし鍛えてあげるとするか。師匠としてね!
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