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≪狂える大地、サラマンド≫

 アダマンタイマイを倒して女神のベルを入手し、意気揚揚と引き返す私たち。しかしそれが失敗だった。私たちの任務はベルを入手することではない。ベルをアジトまで持ち帰ることだ。つまりまだ任務は完了していない。それなのに完全に気を抜いてしまっていた。油断さえしていなければ、あんな見え透いた手に引っかかることはなかったのに・・・。
 ここがサラマンドだから?
 おかしなことばかりが起こって、感覚が狂っていたから?
 ・・・いや、そんなことは言い訳にならない。この土地で起こる怪現象は、始めて来た時に経験していたことなのだから。すべて、私たちの責任だ・・・。

 もう少しで雪原の洞窟から出られるというところまで来たとき、見覚えのある身なりの良い男に出会った。彼は長い長い下り階段の一番上に座り、私たちをずっと待っていたようだ。

 ボーゲン「くそっ。貴様らのおかげで、俺はもう破滅だ! 皇帝は俺を許さないだろう。」

 私たちの “おかげ” で破滅? 私たちの “せい” じゃなくて?
 このボーゲンらしくない言葉使いは、一体どういうことだろう。私たちがした彼の喜びそうなことといえば、私が彼を日記に出してあげたことくらいなのだが。もしかして、彼のアホっぷりやら命名30秒説やらを有名にしてあげたことが、そんなに嬉しかったのだろうか。しかしそれが彼の破滅につながるということは・・・はっ!

 も、もしかして、私の日記のおかげで彼が人気者になり、皇帝が危機感を覚えたんじゃないだろうか。

 皇帝「なにっ、次回の上司にしたい男性ランキング(帝国版)は、今のままだとボーゲンが1位で私が2位だと!? ・・・奴を消せ。奴に負けることだけは、私のプライドが許さない。」

 ・・・妄想していてたら、皇帝に同情したくなってきた。今回だけは皇帝に味方することにしよう。彼はやる気まんまんだから、どのみち戦いは避けられないし。

 ボーゲン「せめて、お前たちを道連れにしてやる!!」

 そして戦闘!
 そして勝利!

 ・・・えーっと、ボーゲン将軍、やたらと弱いんだけど。
 そしてボコボコになった彼をほったらかしにして、私たちは長い長い階段を下りていく。その時、後ろから聞こえてきた暴言のボーゲン。あ、逆だ。

 ボーゲン「俺は負けたが、お前たちも死ぬんだ。この洞窟には仕掛けをしてある。俺からの最後のプレゼントだ! はははっ、先に地獄で待ってるぜ! ・・げほっ。」

 「先に地獄で」ねぇ。私たちがみんな天国へ行ったらどうするんだろう。
 ・・・って、冗談言ってる場合じゃない! 巨大な岩が転がり落ちてくるじゃないか!

 あわわ、なんで気付かなかったんだ! 小悪党が罠を仕掛けて待ち伏せするなんて、よくあるパターンじゃないか!
 ああ、この階段は非常に長い。とてもじゃないが逃げ切れない。きっと私たちは、ここで岩に潰されて死んでしまうんだ。皆さん、サヨウナラ・・・。

 そう思ったとき、まさにサラマンドな出来事が起こった。転がり落ちてくる何十トンもありそうな巨石を、なんとヨーゼフが一人で受け止めたのだ。

 ヨーゼフ「さあ、今のうちに逃げろ!」

 ガイ「お前 おいて 行けない。」

 ヨーゼフを残して逃げれば、きっと私たち3人は助かるだろう。しかし彼を無理に助けようとしたせいで全滅したら、それは反乱軍の全滅にもつながるだろう。だからこの場合、彼を犠牲にするのが正しい・・・となるわけがない。
 ああ、普通に暮らしていて、こんな選択を迫られることがあるだろうか。1人の命と反乱軍全員の命を、天秤にかけなければならないなんて。

 しかしこの場合、実は正解が存在する。正しいのはガイの意見だ。なにせ勢いがついている岩をヨーゼフ1人で止められたのだから、あの岩はたぶん軽石だ。ならば4人全員で支え、少しずつ階段を下りていけば、おそらく全員が助かるはずだ。
 だから私はヨーゼフの隣で、一緒に岩を支えることにした。さあ、ガイとマリアも手をかすんだ。

 と、ところが、この2人は私の考えが理解できないのか、それともサラマンドの呪いにかかっているのか、信じがたい恐るべき行動にでた。
 必死に岩を支えている私の背後に、突然殺気が生まれた。そして私の膝の後ろに炸裂するマリアの膝蹴り!(通称、膝カックン!)

 あうっ! 私は体勢を崩して倒れこんだ。こら、マリア! 一体何をするんだ! 私を心配しているのかもしれないが、みんなが助かる方法もあるんだぞ!
 そして逃げていく彼女を追いかけている途中で、私は我に返った。隣を見ると、あんなことを言っていたガイも一緒に逃げている。
 しまった、岩を支えているのはヨーゼフ1人だ!

 ヨーゼフ「行け! あとを・・ たのむ・・・・ ネリー!」

 私たちはなんとか岩から逃れることができたが、ヨーゼフは岩の下敷きになり・・・。
 血まみれの彼を助けようとするも、回復魔法や蘇生魔法を覚えている私とガイのMPは、どちらも0。
 ・・・ヨーゼフ、すまない。娘さんには、男らしい立派な最期だったと伝えておくよ。
 ・・・ヨーゼフ、すまない。いくら考えても感動のシーンにできなかった。くっ、ここがサラマンドでさえなければ!

注:このイベント、こんなやりとりに見えたんですが、私の見間違いか記憶違いか勘違いでしょうか(笑)。
後日追記:このイベントを見直したところ、膝カックンをしたのはフリオニールで、されたのはガイでした。こっちの方がヤバイんじゃ・・・(笑)


≪嘆きの町、サラマンド≫

 サラマンドの町に戻ってきた私たち。ヨーゼフの死を伝えると、町を沈黙が支配した。こんな状況で、原因が私たちの判断ミスだったなどとはとても言えない。

 町人「ヨーゼフの死を無駄にしてはいけない。」

 うぐぐ、心に突き刺さる言葉だ。失敗を恐れてはならないというが、これはより大きな失敗を防ぐための手段だ。それ以上はないという大きな失敗は、やはり恐ろしいし恐れなければならない。
 私たちが犯した過ちは・・・これ以上はない過ちだ。

 それでも彼の言う通り、私たちは前に進まなければならない。でも責任はとらなければならない。私たちにできるのは、生き抜いて戦争を終わらせることだけだ。
 そう、立ち止まっているわけにはいかない。私よりも苦しんでいる人がいるのだから。娘のネリーや、彼を愛していたという女性の苦しみは、私には想像もできないほどだろうから。

 ネリー「おとうさんは、もう帰ってこないのね・・・・。」

 女性「ああ、ヨーゼフ・・・・。・・・・わたしが、ヨーゼフの代わりにネリーを守ります。きっとあの人も喜んでくれるでしょう・・。」


≪希望の大地、サラマンド≫

 アジトに帰還した私たち。報告を聞くと、ヒルダ王女は沈痛な表情を浮かべた。しかしすぐにいつもの気丈な態度を取り戻すと、私たちに新たな任務を告げた。

 ヒルダ「そのベルと引き換えに、ヨーゼフは・・・・・・・・。ヨーゼフの死を無駄にはできません。あなた達はそのベルを持って、カシュオーン城へ向かってください。」

 そう、これが戦争というものだ。自らが信じる正義と平和のために、死ぬことも、犠牲がでることも、自分の手が血にまみれることも覚悟して戦っているのだ。人の死をいちいち悲しんでいてはいられない。
 でも・・・。

 ヨーゼフは幸せだったのだろうか。たった一人で娘を育て、反乱軍の一員として戦い、そして罠にかかって命を落とす、そんな人生が・・・。
 彼の命をかけた行動が、結果として世界を救うことになるのかもしれない。でも、それでも、例えこの世が平和になり、それを彼が知ることができたとしても、彼は満足することができるのだろうか。そして残された者は彼の死を乗り越えて、幸せをつかむことができるのだろうか。
 ・・・いや、到底無理なことだろう。人の命は、そんなに軽いものではないのだから。彼は残された者にとって、とても大きな存在だったのだから。

 それでも私は思うのだ。彼の行動が、いつか必ず報われる日がくるのだと。そして天国の彼も、残された者たちも、きっと笑顔を取り戻せる日がくるのだと。
 なぜならば、彼が眠りについたのはサラマンド。そして残された者が暮らすのもサラマンド。
 あの土地で何が起ころうと、決して不思議なことではないはずだから。


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