≪雪原の洞窟≫
雪と氷に覆われた洞窟だけあって、襲い掛かってくるモンスターもスノーマン(雪男)やアイシクル(つららのお化け)といった、いかにもな奴らが多い。そいつらは炎に弱いから、私とマリアのファイアの魔法で一網打尽だ。楽勝、らくしょー!
スノーマン出現!
ファイア!
今度はアイシクル出現!
今度もファイア!!
またまたアイシクル出現!
MPが尽きた!!!
あうっ、調子に乗って魔法を連発していたら、あっという間に私のMP(魔法を使うためのエネルギー)が尽きてしまった。仕方がない、少し面倒だが殴り倒していくことにしよう。いざという時のために、マリアのMPは温存しておかなければ。
で、気付いたのだが、ヨーゼフの旦那、攻撃力が異様に高い。武器を持っていないので男らしく拳で攻撃しているのだが、そのダメージときたら、剣を持った私と鉄棍棒を持ったマリアと斧を持ったガイの合計よりもずっと多い。ヘビー級のボクサーだって、こんなダメージは叩き出せないだろう。
ああ、そうか。ヨーゼフが1人で娘さんを育てている理由が何となく分かった。きっと夫婦喧嘩をしたときに、うっかり拳で夫をあわわわわ・・・。
≪ガイと愉快な仲間たち≫
ヨーゼフの獅子奮迅の活躍により、私たちは簡単に洞窟の奥深くまで潜ることができた。そして怪しい扉を開けたとき、目に入ってきたのはちょっとした池。そしてノンキに泳いでいる、巨大なビーバーらしき生き物が7匹。
ジャイアントビーバー「ガウー! ワウー!」
どいつもこいつも同じ唸り声を上げているということは、何かをしゃべっているんだろうか。まあこんな所に人間が来ることなんてないだろうから、警戒するのも無理はないのだが。
ところが1匹だけ、唸り声の違う奴がいた。
ジャイアントビーバー「ガウワウワウ。ガウ?」
おお、こいつは明らかに何かを伝えようとしているぞ。しかし動物の言葉なんて分からないし・・・。
と思いきや、なんとガイが、「おれ 動物の言葉わかる」と通訳を買って出てくれた。
ななな、なにぃ!? 人間語さえたどたどしいガイが、なんとバイリンガルだったのか!? それも二ヶ国語どころか二種族語とは! いや、ガイは「動物の言葉」が分かると言った。すると全ての動物の言葉が分かるというのか!?
これぞまさしく “能あるタカは爪を隠す” だ。付け爪にネイルアートまでして見せびらかしている私とは大違いだ。
ささ、ガイ先生、通訳をお願いします。
ジャイアントビーバー「この部屋の右の壁 ぬけあな。 ベル 怪物 守ってる。 壁の中にベル。」(ガイ訳)
訳がたどたどしいのはきっとガイのせいだろうが(注:ひがみにあらず)、彼のおかげで重要な情報を入手することができた。
そして抜け穴を通り、先を急ぐ私たちだったが、私はその間、ずっとあることを考えていた。それはビーバーとガイのやりとりのこと。
動物の言葉が分かるというガイは、一番奥にいるビーバーの言葉を人間語に訳してくれた。しかし他の6匹の言葉は訳してくれなかった。これは訳さなかったとか、訳せなかったとかではなく、訳しようがなかったんじゃないかと思うのだ。
きっと訳してもらえなかった6匹は、そのまんま「ガウー! ワウー!」としゃべっていたんだろう。動物の行動は理解できない。
≪「お金>命」の戦い≫
女神のベルはすぐに見つかった。しかしそれを守るように、通路をふさぐ形で冬眠していた奴がいた。その名はアダマンタイマイ。注釈を書きたくてウズウズしてくるような名前を持つ巨大な亀だ(注)。
そして戦闘になったのだが、こいつは名前から想像できる通り非常に固い。鉄棍棒で殴ろうが、剣や斧で叩き斬ろうが、まったく傷つかない。かろうじてダメージを与えられるのは、あのお方の拳くらいのものだ。
だがこいつには弱点がある。亀は変温動物。寒さにすこぶる弱いのだ。そして私たちはこの洞窟で、南極の風という、強力な吹雪を巻き起こすアイテムを拾っていた。これを使えばあっという間に倒せるだろう。
しかしこれを使うわけにはいかない。なぜならば、これを売ればちょっとした小遣いになるからだ!(貧乏性というな!)
そこでマリアが使える冷気の魔法、ブリザドを使って倒すことにした。
簡単に倒せた。
戦闘終わり。
注:せっかくなので書く(笑)。アダマンタイマイとは、アダマンタイトという架空の金属と、ウミガメの一種であるタイマイを組み合わせた、ジョークモンスター。タイマイはベッコウガメとも呼ばれ、装飾品の材料であるベッコウはこの亀の甲羅。タイマイは乱獲の影響で数が減っており、現在は取引が禁止(制限?)されている。
余談だがこのゲームには、ランドタートル(陸のウミガメ)という同じイラストを使ったモンスターが登場する。この妙な名前は、アダマンタイマイ(元ネタがウミガメなので、オリジナル版では足がヒレの形だったと思う)だけで1つのイラストを使うのはもったいないと考えた開発者が、強引に考え出したからだと思われる。ちなみに普通の陸亀(足が足らしい形)の正しい英語はトータスだ。
なおこの注釈を読んで、「プロのくせに安直な名前つけるんじゃねーよ」とか思ってはいけない。なにせ実在する生物の名前だって、ほとんどはこんな決め方をされているのだから。
≪ポジティブシンキング(前向き思考)≫
さて、いくつかの疑問がある。寒さに弱いアダマンタイマイがなぜ雪原の洞窟にいたのか。そして体温が低下している状態でなぜ襲いかかってこれたのか。
・・・まあそれは、ここがサラマンドだからという理由で納得すべきことなのかもしれない。
世界の七不思議を決めるとすれば、そのうち5つはこの土地から選ばれるであろうサラマンド。もう何が起こっても、私は決して驚かない。いや、いちいち驚いていては身が持たない。
人は誰しも、楽に生きたいと思うものだ。だから考えることを面倒だと思えば、そして世の中の流れに身を任せる方が楽だと感じれば、考えることを避けるようになってしまうだろう。
でも分かっていたはずだった。そんな生き方が、多くの悲劇を生み出す原因になっているということを。
私は嫌っていたはずだった。社会に疑問を抱くことなく、全てを受け入れ全てに従う、人形のような生き方を。
なのに私は、いつしか理不尽な現象すらも、疑問を抱くことなく受け入れるようになっていた。だからこの土地の毒気が仲間の精神をむしばんでいたことに、その時まで気付くことができなかった。いや、むしばまれていたのは私の心も同じだったのだろう。
人を狂わせる最強の毒薬。それは体と精神をむしばむ麻薬ではなく、心を惑わす悪しき環境なのかもしれない。
そう、このヨーゼフ編は、私の日記には珍しい、悲しい形で幕を閉じることになる。
・・・でもそれは、ここがサラマンドだから仕方がないよね!?
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