≪バフスク≫
私たちは大戦艦を破壊するために、再びバフスクの町に潜入する。
ダークナイトがいなくなり、町の様子は一変していた。ダークナイトがかけていたという催眠術は解け、以前は無言で働き続けていた町の人たちは、今やみんなサボり放題。
ちなみに今の指揮官はボーゲンらしい。スコット王子の話に出てきた、元フィン伯爵の裏切り者だ。彼はヨーゼフの娘を誘拐し、サラマンドの民を奴隷にするということもやっている。そんな非道な奴だが、無能でもあるらしく、帝国の兵士さえやる気がない。
帝国兵「ボーゲンは間抜けな奴だ。あんな奴の下で働くなんてまっぴらごめんだぜ。」
もっとも町のすみっこにいるこの兵士だけは、ダークナイトがいた時にもサボっていたのだが。
ちなみにボーゲンとはこんな人。
ボーゲン「おら おら おら おら! 働け!! 1日でも早く完成させろ! そうすれば俺様はもっと出世できるんだ! おら、働け!!」
これでは部下がついてこないのも無理はない。
帝国兵「最近、見張りがボーゲン様に代わった。ダークナイトと比べると楽になったよ。あれで帝国の将軍とは・・・・ ただのアホ・・・・ おっと、今のは聞かなかったことにしてくれ。」
ごめん、もう日記に書いちゃった。
なぜかこの兵士と意気投合してしまった私だが、ボーゲンをネタに世間話を続けているわけにはいかない。反乱軍の仲間を見つけると、大戦艦に近づけるという抜け道を教えてもらい、すぐさまそこに潜りこむ。
・・・で、なんで抜け道が下水道なんだ? なんだか嫌な予感がしてきたんだけど!
≪下水道≫
嫌な予感は的中するものだ。いま私たちは、下水道の水路の中を移動している。それもただの下水じゃない。出てくる敵は、ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ! 鼻がどうにかなりそうだ。
・・・マリア、嫁に行けなくなったらもらってやるからな。私もきっと売れ残るだろうから。
そうこうしているうちに下水から開放され、やがて出口らしきものが見えてきた。
「よし、この先に大戦艦が!」
と思った瞬間、立ちふさがったのは黒い影。
ダークナイト「大戦艦はもう完成したぞ。私が任務を途中で投げ出してパラメキアへ帰ったりするものか!!」
・・・えーっと、パラメキア帝国への帰還も任務の一部なのでは?
もしかして、彼はミスリルの正体に気付いていたのだろうか。だからニセミスリルを奪われて騒いでいる国の命令に逆らったのでは・・・。
まずい、ダークナイトは想像以上の切れ者だ。奴を放っておくと反乱軍に勝ち目はない。しかし今の私たちにどうにかできる相手とも思えない。いや、奴なら私たちをここで処分しようとするだろう。
・・・やばい、このままではやられる。
しかし彼の口から出たのは、意外な言葉だった。
ダークナイト「諦めて皇帝陛下に降伏しろ。お前達に勝ち目はない。よく考えておくことだ! また会おう!!」
そして彼は去っていった。
なぜ?
なぜ彼は、敵である私たちを放っておくのだろう。もしかして、私たちを高く評価しているのだろうか。私たちの活躍は、彼の耳にも届いているのだろうか。
ダークナイトの紹介となれば、それなりの地位は与えられるだろう。今のまま反乱軍にいるよりも、確実な未来が待っているはずだ。
しかし「鶏口となるも牛後となるなかれ」という言葉がある。これは大きな集団に入って人に従って生きるよりも、小さな集団の一員であっても先頭に立って生きた方がいいという意味だ。反乱軍にいれば、勇者として先頭に立って生きていくことができる。しかし帝国に行けば、いつまでもダークナイトのサポート役だろう。
それにこんな事実も存在する。
反乱軍 => 上司 : ヒルダ王女
帝国へ => 上司 : ダークナイト
・・・あまり深くは考えないでほしい。私の清らかなイメージが崩れるから。
ダークナイトが去った後に現れたのは、帝国のアイドルボーゲン将軍。もちろん彼は、みんなの期待を裏切らない。
ボーゲン「ざまあみろ!」
おお、まさに「ボーゲン=暴言」だ。
きっと彼も、名前を30秒で決められた1人に違いない。
彼もまた、私たちと戦うことなく去っていった。ダークナイトを追いかけるようにして。
「鶏口となるも牛後となるなかれ」
この言葉が再び頭に浮かんだ。やっぱり反乱軍の方がいいと思う。
≪惨劇、そして別れ≫
私たちの任務は失敗に終わった。大戦艦は飛び立ち、その驚異的な破壊力を見せつけた。
追いかける私たちが見たものは、かつて町だった残骸。そして嘆き。ポフトが、パルムが、そしてガテアが滅びた。
不幸中の幸いというのか、アルテアの反乱軍アジトは無事だった。しかし外にいた人たちは傷つき、多くの命が失われた。出発したときの姿は見る影もない。
ヒルダ「大戦艦の攻撃で、町の人が大勢傷つきました。父はすっかり落胆して、病状が悪化したようです。父自身は、もう死が近いと・・・・」
ミンウ「・・・・命あるもの、いつかは死ぬ。だが、苦しむ者を救うのが私の役目。私はここに残って、人々の治療をしなければならない。君らとは、ここで別れよう。」
苦しむ者を救う。
彼の言葉にうそはない。私たちは何度も彼に救われた。彼がいなければ、私たちは戦いで傷つき、苦しみながら命を落としていたことだろう。
・・・いや、それだけではない。避けることができた苦しみには誰も気付かない。だから彼の偉大さに気付いていなかった。「ミンウがいるからなんとかなる」という安心感が、精神的な苦痛を防いでいてくれたというのに。
これまでの冒険は、彼のおかげで成功してきたといっても過言ではない。その彼と別れたら、私たちは一体どうなるのだろう。
・・・別れ?
いや違う。ただ進む道が変わるだけだ。これまでの私は未熟だった。だから彼と同じ道を通ってきた。しかし今の私たちは、自分たちの足で歩いていくことができる。お互いに、本来の道を歩いていくことができる。
無数に存在する道は、複雑に絡み合っている。だから私たちと彼は、いつかまた、どこかで合流することだろう。通る道こそ違えど、目指す場所に違いはないのだから。
再び同じ道を歩み始めるとき、この世界はどうなっているのだろう。私たちは、彼は、一体どうなっているのだろう。
・・・いや、そんなことを考える必要はない。私はただ、できることを精一杯やっていくだけだ。精一杯生きていれば、そして自分に誇りを持てる生き方をしていれば、きっと最高の笑顔を見せることができるはずだから。
|