≪ゲームスタート≫
まずはキャラクター名の入力だ。といっても開発者が考えてくれているから、そのままプレイしよう。だから私がするのは、読者への紹介だけだ。
主人公の青年、フリオニール。
おお、なんて凝った名前なんだ。きっと担当開発者は、この名前を考えるために3時間は残業したに違いない。
幼馴染でヒロインのマリア。
一転してありふれた名前だな。担当開発者は終電が気になって、時間ぎりぎりの最後の30秒で決めたんだろうか。
気はやさしくて力持ちの友人、ガイ。
私は思い違いをしていたようだ。きっと2人で30秒に違いない。
マリアの兄で、幼馴染でもあるレオンハルト。
どうやら担当者がクビになり、別の人が考えたらしい。
ともかく、この4人組でゲームスタートというわけだな。たしかFF2のオープニングは、かの有名な・・・おっといかん。余計な予備知識を持っていると、RPGを十分に楽しむことはできない。こんな場合には、頭をぶつけて全てを忘れるのに限る。
せーの、ゴン!
消えていくのは、記憶ではなく意識のような気がします。はうっ。
≪夢の中へ≫
焼け落ちる建物。立ち昇る煙。帝国軍の襲撃を受けて燃え上がる村から、私たち4人は脱出しようとしていた。
後ろからは、鎧に身を包んだ兵士たちが追いかけてくる。立ち止まることはできない。
・・・はっ!?
なんで私は、こんなところを走っているんだ? たしか私は、自分の部屋でゲームをしようとしていたはずだ。そして頭をぶつけて目を回して・・・。
これは夢なのか? RPGの世界に入り込んだ夢を見ているのか?
でもRPGだったら普通、オープニングはこんなパターンだと思うのだが。
王様「おおヨシヒトよ。死んでしまうとはなにごとだ。」
違った。これは全滅したときのパターンだ。
そんな私の独り言が聞こえたのか、後ろを走っていたマリアがずっこける。ボケにつきあってくれるとはお茶目な奴だ。時と場所は選んでほしいものだが。
ともかく、ここはFF2の世界らしい。私の姿も、本人とは似ても似つかぬ若くていい男(フリオニール)になっている。せっかくだから、目が覚めるまでファンタジー世界を楽しむことにしよう。
・・・まてよ。ここがFF2もどきの世界なら、この後に待っている展開は・・・。
嫌な予感は的中した。私たちの前に、4人の黒騎士が立ちふさがる。くっ、待ち伏せていやがったのか。そして動揺する私たちが体勢を整える前に、奴らは襲いかかってきた。いきなりの戦闘、それも敵の先制攻撃だ!
黒騎士Aがレオンハルトに攻撃。彼は28回死んでお釣りがくるダメージを受ける。
ちょ、ちょっとまて。奴ら強すぎないか? い、いや違う。きっとレオンハルトが弱すぎるんだ。ここは私が実力を見せてやる!
黒騎士Bが私に攻撃。私は21回は死ねるダメージを受ける。ふっ、レオンハルトよりも7回分も少ないじゃないか。これが実力というものさ。
そのころ、ガイもボコボコにされていた。残るはマリアただ1人。さっき転んで遅れていたため、黒騎士の間合いから外れていたのだろう。私のおかげだ。ま、頑張って逃げてくれ。
しかしマリアは、次のターンに新記録をたたき出し、私たちはあえなく全滅したのだった。
しっかし、戦闘の経験もない私たちにこんな手だれを差し向けるとは、帝国の司令官は何を考えているのだろう。きっと無能な奴に違いない。
・・・と、ノンキなことを考えているのにはわけがある。ほら、よく言うではないか。死ぬ前には、走馬灯のように思い出が駆け巡ると。しかし私には何も浮かばない。だからきっと、まだ死なないはずだ。
薄れていく意識の中で、私は夢の中で眠るという貴重な体験を楽しもうとしていた。それじゃあ、お休み〜
≪目覚め≫
・・・というわけで、私は意識を取り戻した。しかしまだ体が動かない。目を開けることもできない。ただ耳の機能だけは回復しているようだ。よくは聞こえないが、近くで誰かが話しているのが分かる。1人は女性。もう1人は男性のようだ。
女性「この子が血みどろになって倒れているのを見つけたのです。」
男性「そっとしておきましょう。」
ちょ、ちょっと待て。そっとしておかれたら困るんだが。お願いだから手当してくれよー!
しかし私の心の叫びは届かない。
女性「それでは会議に行きましょう。」
うわー、2人とも行っちゃったよ。私は一体どうなるんだ?
その時、私の体が急に楽になった。体が動く。目が見える。そこで慌てて状況を確認する。
どうやら私は、生命力を増幅させる魔法陣に寝かされていたようだ。あの2人が助けてくれたのだろう。恐ろしい会話をしているように思えたのは、私が肝心な部分を聞き逃していたためらしい。
しかし、他の3人はどうなったんだ?
私は友人たちの姿を求めて部屋を飛び出す。するとマリアとガイが待っていた。
マリア「フリオニール、生きていたのね! ・・よかった・・わたし・・グスン」
ガイ「フィンの王女 助けた おれたち。レオンハルト いなかった。」
フィンというと、故郷の村があった国の名前だ。私はそこの王女に助けられたのか。
・・・ん? するとさっきの女性がその王女なのか? 「血みどろ」などという、王女とは思えない言葉を使っていたのだが。
ともかく2人は無事だった。ならばきっと、レオンハルトも大丈夫だろう。なにせ32回死んでお釣りがくるようなダメージを受けたマリアが、この通りピンピンしているんだからな。
・・・間違いない。これは夢だ。
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