≪辺境の村≫
クライス「さあ帰りましょう、私たちの故郷へ!」
という言葉で終わった前回でしたが、天の邪鬼な私は、すぐには故郷に帰らせません。というのもこのゲーム、最終イベント発生と同時に、いくつものおまけイベントが発生するからです。それらを全部こなしてから故郷に凱旋するのが、今回のプレイ方針なのです。
そして今回は、ヒロインでありながら影が薄い、ファルナにスポットを当てたイベントです。
クライス、シリュン、ファルナ、リュードの4人に戻ったパーティは、大陸南西部にある辺境の村に向かうことにしました。交流がほとんど途絶えているその村と他の村とを伝書鳩でつなごうという計画があり、その手伝いをすることにしたからです。
しかしファルナの様子が変です。その村のことにやたらと詳しく、それでいて村に入ってからはフードで顔を隠し、そのまま宿に引きこもってしまったのです。
リュード「自己防衛だろ。ガラの悪い店だったら、絡まれるのは目に見えているからな。」
シリュン「顔と冗談はほどほどが一番だって言うからなー。さて、オレは仕事があるから、村長のところに行ってくるよ。」
リュード「俺も行こう。お前のその格好では、強盗に間違われかねん。」
シリュン「へいへい、騎士様の仰せのとおりで。あ、クライス、ファルナのところに行くんなら後にしたほうがいいぞ。お姫様をさらいにきた悪の魔術師だと誤解されるかもしれないからな。」
どこまでが本気でどこからが冗談だか分からない会話の後、パーティは一時解散します。クライスはシリュンに言われたことが気になって、しばらくは村を散歩することにしました。黒衣の勇者と呼ばれるようになったクライスですが、その噂が届かない村においては、黒ずくめの怪しい冒険者でしかありませんので。もっともクライスが黒にこだわるのには、とある理由があるのですが・・・。でも、今回のお話には関係ないので省きます。
村の中央で、奇妙なものを見つけました。今は亡き聖女の墓に建てられた聖女の像なのですが、どことなくファルナに似ているのです。そして碑にはセラリナ・リモンドと言う名前が刻まれています。リモンドというのはファルナと同じ姓です。クライスは驚いて、聖女像を見ていました。
その時、村のおばさんがお参りにやってきました。
おばさん「おやおや、聖女様に見とれちゃってさ。まあ、分からなくもないけどね。綺麗な方だろ? 15年ほど前までね、この村にいらしたんだよ。」
クライス「彼女に、ファルナという娘さんはいませんでしたか?」
おばさん「どうしてそれを!? ・・・あんた、ルナちゃんを知ってるんだね? 良かったら、話を聞かせてくれないかい?」
そしてクライスはおばさんの家に招待され、ファルナとエディシアのことを話します。そして姉妹のことを聞き出します。
おばさん「この村で奇病がはやったことがあってね、その時に村を救うために来てくれた聖女様がいたんだよ。その聖女様がルナちゃんの母親さ。この村の神父だった父親も立派な人で、本当に幸せそうな家族だったのに・・・。あたしゃ今でも夢に見ることがあるよ。血まみれの聖女様と、剣を握った神父の姿を・・・。そしてあたしの横で震える、幼いルナちゃんの姿をね・・・。その事件の後神父は姿を消し、ルナちゃんはあたしが、なにも知らないエディちゃんは旅の魔女が引き取ったのさ。」
クライス「・・・・・・。」
おばさん「あはははっ、なに暗い顔しているんだい? こんなにいい日なのにさ。あたしゃ、うれしいんだよ。エディちゃんが明るいままでいてくれたのが分かったからね。それにルナちゃんにも、いい人がいるみたいだしさ。きっと、また笑ってくれる日も来るよ。」
そして宿に戻ります。
シリュン「伝書鳩の交渉はうまくいったよ。それでな・・・見たか、あの石像?」
クライス「ええ・・・ここは、ファルナの故郷・・・。」
シリュン「やっぱりそうか・・・。でもそれなら、なんであいつは自分の家に帰らないんだ? なんで顔を隠して、偽名を使ってまで、宿なんかに泊まるんだ? なんで俺たちに、何も言わないんだ!? ・・・俺たちがそんなに信用できないってのかよ・・・。」
クライス「・・・考えたことはありませんか? ファルナとエディシアが、どうして生き別れになっていたのか・・・。ファルナがなぜ、冒険者になったのか・・・。」
リュード「詮索はそこまでにしておけ。お前たちにも黙っていたくらいだ。よほどつらい過去があるんだろうからな・・・。」
シリュン「そうだな・・・。明日ここを出よう。俺たちにできるのはそれくらい・・・。」
???「キャー!!!」
シリュン「今の声は!?」
クライス「ファルナ!」
ファルナの泊っている部屋に入ると、おびえるファルナがいました。なんでも誰かにのぞかれていたのだとか。しかもこの村に入ってから、ずっと見られているような気配を感じていたと言います。
シリュン「そんなの、いつものことじゃないか。お前が男の注目を集めるのは・・・。」
ファルナ「ふざけないで! わたしは・・・本当に・・・こわかったんだからぁ・・・。」
シリュン「俺は本気で言ったんだが・・・ああっ、ほら、泣かなくていいからさ。俺たちが付いているんだしさ。」
その後部屋を換えてもらい、結界も張っておきました。またシリュンが外を調べてみたところ、本当にのぞかれていた跡がありました。ただしファルナが泊っていた部屋は2階です。どうやら犯人は、空を飛べる人間のようですが、そんな人がいるのでしょうか?
そして翌朝。クライスたちが起きた時には、すでにファルナは宿を出ていました。残された3人は、手分けしてファルナを捜します。
ただ、クライスには心当たりがありました。ファルナが神父と聖女の娘なら、教会で暮らしていたのではないか。そして現在、そこにいるのではないか・・・。そのためクライスは、長らく使われていないという、教会へ足を運びます。入口にはかぎが掛かっていましたが、攻撃魔法で壊して中に入ります。
≪吸血鬼の娘≫
教会の中には神父の服を着た青年がいました。そしてその男に向かって、ファルナが抜き身の剣を構えていたのです。
クライス「ファルナ!」
ファルナ「!」
第三者の登場に気付き、男は姿を消します。本当に消えてしまったのです。
ファルナ「・・・よくここが分かったわね。・・・おばさんに会ったのね? もう全部、分かっているんでしょう? この村が、わたしの故郷だってこと・・・。ここが、わたしの家だってこと・・・。ここで、母さんが殺されたってこと・・・。わたしがあの男を憎んでいることも! あの男を殺そうと思っていることも! わたしはね、力を求めて冒険者になったのよ。復讐のために・・・。吸血鬼となって母さんの命を奪った、父に復讐するために!」
クライス「!」
ファルナ「これが本当のわたしなのよ。あなたを支えるふりをしていたのは、同じ復讐者だと知ったから。あなたのためじゃないわ。感情を否定して苦しむあなたを見て、復讐の想いを薄れさせないようにするためよ。ずっとあなたを利用していたのよ。わたしのこと、軽蔑するでしょう? もう仲間だなんて思えないでしょう? わたしは戦いのとき、いつも足が震えていたわ。今でも血を見ると、気分が悪くなる・・・。でもあの男だけは、喜んで斬ることができるわ!」
クライス「・・・でも、震えていましたね。私が来るまでに時間はあったはずなのに、剣を振るえませんでしたね。」
ファルナ「・・・あなたのせいよ。あなたが復讐を捨てたから。復讐を望んでいたときにはなかった、あなたの本当の笑顔を見てしまったから! ・・・ねえクライス・・・わたし、どうすればいいの・・・。わたし、クライスみたいに強くはなれないよ・・・。」
クライス「・・・強い心を分けてほしい。初めて会った夜、私にそう言いましたよね。私にそんな強さはありませんでした。でもその時、私はあなたの幻想に応えたくて、強くなろうと誓ったんです。・・・今でも強くなれたとは思えません。スターダスト・レインを使ったときも、フェイデルの前でも、恐怖で気が狂いそうだった・・・。でもあなたがいてくれたから、あなたの前では勇者でいたかったから、私は勇気を振り絞ることができたんです。今の私があるのは、あなたのおかげだと思っています。だからこれからは、私が力になりたい・・・。あの時の言葉に、今こそ応えたい・・・。」
ファルナ「クライス・・・わたし・・・わたし・・・。」
クライスの胸にすがろうとするファルナ。その時、リュードが入ってきます。
リュード「悪いが、いちゃついている場合じゃないぞ。つい先ほど、村長の息子が誘拐された。犯人の要求は、旅の女戦士を南の・・・吸血鬼伝説のある古城へ、生きたまま連れて行くことだ。どうやらファルナが、吸血鬼の目にとまったらしいな。」
ファルナ「そう・・・吸血鬼が・・・。」
リュード「村人たちは、俺たちが事件を持ち込んだと思いこんでいる。見つかる前に、急いで村を出るぞ。」
ファルナの案内で、地下通路を通って村はずれに出ます。そこにはシリュンとおばさんが待っていました。なんでもシリュンは、事件の裏を読みとったおばさんに助けられ、ここに案内してもらったのだとか。
そしておばさんを除く4人は、吸血鬼が待つ古城に向かいます。
≪吸血鬼の花嫁≫
城の入口にやってきました。
シリュン「どうした、ファルナ? いつにも増して暗い顔しやがって・・・。」
ファルナ「この城はね、村に奇病が蔓延した時にわたしの父と母が、元凶だった吸血鬼を倒すために訪れたところなの。吸血鬼は滅びたわ。でも父は、戦いでの傷がもとで、第二の吸血鬼となってしまった・・・。吸血鬼となって苦しむ父を、村のみんなはいつも励ましてくれたわ。でも父は、母の命を奪い、私たちを見捨てることでそれに応えた・・・その父が、ここにいるのよ。」
そして玉座の前にやってきます。そこには吸血鬼が待っていましたが・・・ファルナの父ではありませんでした。
ファルナ「(父じゃない!?)子供を返しなさい!」
吸血鬼「言われずともそのつもりですよ。私は野蛮なことはきらいでしてね。もちろんケガひとつさせていませんよ。しかし威勢のいいお嬢さんだ。ますます気に入りましたよ。それでこそ、私の妻にふさわしい・・・。」
ファルナ「勝手なことを言わないで!子供はどこにいるの!」
吸血鬼「大切な客人の一人ですからね。この城の最下層、私たちの結婚式場で待っていていただいていますよ。それではファルナさん。バージンロードをお進みください。式場まで無事にたどり着ける、強い女性であると信じていますよ。」
勝手なことを言い放つと、吸血鬼は姿を消しました。吸血鬼は姿を消すこともできれば、空を飛ぶこともできるのです。
リュード「お前の父親ではないのだな? しかしお前も、厄介なやつに見染められたものだ。ヤツはヴァンパイアロード。全てのアンデッドの頂点に立つ、不死の王・・・。」
シリュン「つまり、結婚すれば玉の輿ってことか?」
ファルナはシリュンに平手打ちをくらわせます。
ファルナ「どうしてシリュンは、いつもいつもそんなことばかり言うのよ!」
シリュン「オレだってなぁ、お前がいつもいつも暗い顔ばかりしてるから、少しは笑わせてやろうと思ってだなー!」
リュード「行くぞ、クライス。こいつらには付き合いきれん。」
クライス「でも、シリュンの言うことにも一理ありますよ。あなたも、たまには笑ってみませんか?」
そして地下墳墓を進みます。途中でヴァンパイアロードが待ち構えていました。
吸血鬼「よくぞご無事で。それでこそ、あなたの成長を待ち続けたかいがあったというものです。しかし美しい・・・剣を帯びてなお輝くその姿は、あなたの母上をもかすませる・・・。」
ファルナ「母を知っているの!?」
吸血鬼「もちろんですよ。私はあなたの母上を妻とするために、この世まで足を運んだのですから。しかし彼女のことを任せておいたしもべの無能さゆえに、私がここへ着く前に、彼女は人の妻となっていました。初めて出会えた理想の女性・・・私は彼女をあきらめることができず、二人を別れさせるように仕向けました。しかし彼女の夫は我がしもべとなっていたにもかかわらず、命令を拒否し続け、やがてあなたが生まれたのです。そこで私は賭けに出ました。彼女ではなく、その娘たちに期待しようと・・・。あれから20余年、全てが計算通りに進んだわけではありませんでした。しかしあなたは帰ってきてくれた・・・。私の理想にかなう女性となって・・・。」
ファルナ「そこまで言ってもらえて光栄だけど、私はあなたと結婚する気なんてないわ。」
吸血鬼「そんなこと、私は認めませんよ。私はあなたを妻にして見せる。必ずね・・・。」
そして吸血鬼は姿を消します。・・・が、しばらく進むと、また待ち構えていました。
吸血鬼「ファルナさん、あなたの到着が待ちきれなくて、また会いに来てしまいましたよ。」
ファルナ「時間の無駄よ。通してちょうだい。」
吸血鬼「まあ、そうおっしゃらずに。あなたに喜んでいただこうと、素晴らしいイベントを考えたのですから。私はね、結婚式の前に、あなたの父上を人間に戻して差し上げようと考えているのですよ。」
ファルナ「!? 父を、元の姿に・・・。」
吸血鬼「もちろん、あなたが結婚に同意してくれることが条件ですがね。悪い話ではないでしょう? それではこの下の階で、結婚式場でお待ちしています。良い返事を期待していますよ。」
そしてまた姿を消します。
ファルナ「父が・・・お父さんが帰ってくる・・・。」
シリュン「ファルナ! あんな奴の言うことを信じるのか! お前は、自分を捨てる気か!」
ファルナ「ばかね・・・そんなことはしないわよ・・・。だって私は、父を憎んでいるんだから・・・父を斬るためにここへ来たんだから・・・。・・・それなのに・・・そう思っているのに・・・。」
その時、ファルナの父・・・教会で出会った青年が現れました。
クライス「あなたは・・・。」
ファルナ「何の用? 私たちは今、あなたの相手をしていられるほど暇じゃないのよ。」
ファルナの父「ファルナ・・・これを受け取ってくれ・・・母さんの形見だ・・・。」
ファルナ「これは・・・母さんの命を奪った剣・・・どうして、これをわたしに・・・。」
父「それがすべての原因なんだ・・・今の私ですら消しさるその聖剣を、母さんが隠し持っていたことが・・・。」
ファルナ「うそよ! 母さんは、あなたを愛していたのよ!」
父「私もそう思っていた・・・そう信じていた・・・。でも、信じ続けることができなかった・・・。だから私は、母さんがその剣で私を滅ぼそうとしているのではないかと疑ってしまった。そしてある日、母さんがその剣を抜いたとき、怖くなった私は母さんから剣を奪おうとして、誤って・・・。」
ファルナ「刺してしまったのね。・・・気付いていたわ。事故だったんじゃないかって・・・。でも、どうして逃げたりしたの!? どうして私を、一緒に連れて行ってくれなかったの!? ・・・ずっと恨んでた。あなたが私を捨てたこと・・・。ずっと・・・ずっと・・・。」
父「怖かったんだ・・・真相を知ってしまったから・・・。母さんは、今の私を支配している吸血鬼に求愛されていたんだ。だからそれを利用して吸血鬼を倒すために、その剣に魔法をかけ・・・。」
ファルナ「!!! どうしてなの・・・誰も悪くないのに・・・悪くなんてないのに・・・。」
そしてファルナの父は消えます。
ファルナ「お母さん・・・お父さん・・・。私信じるわ。また家族に戻れる日が来るって・・・。」
ファルナは聖剣・陽光の剣を抜きます。その刃から放たれる暖かい光を浴び、彼女が着ていた黒い服(妖精から贈られた服)が、白く染まります。まるで、自分では輝けない月が、太陽の光を反射して美しく輝くように・・・。
そして地下墳墓の最下層にやってきます。
吸血鬼「純白の聖衣でご入場ですか。あなたを妻にできること、誇りに思いますよ。」
ファルナ「自分の結婚式に、剣を帯びて現れる人はいないわ。例え冒険者でもね。」
吸血鬼「そうですか・・・これは意外な答えでしたね。あなたは父上を愛していないのですか?」
ファルナ「私が生まれた時にはね、父はすでに今の姿だったのよ。私はそんな父が大好きなのよ。なのにいまさら、何を望めというの? なぜ大好きな父を、悲しませるようなことをしなければならないの? 私がここへ来たのは、さらわれた子供を助けるため。そしてあなたを倒すためなのよ。」
吸血鬼「復讐のため、ですか・・・。どうやらあなたは、私の理想の女性ではなかったようですね。仕方がありません。私の妻には、エディシアさんになっていただきましょう。ですがその前に、障害となるであろうあなた方には、ここで消えていただきます。あなたに、父親を倒すことができますかね。」
ヴァンパイアロードは、ファルナの父を呼び出して、2人で襲いかかってきます。しかしファルナの父は絶対であるはずの命令に逆らい、攻撃をしてきません。やがて、ヴァンパイアロードは膝をつきました。
吸血鬼「こんな・・・馬鹿なことがあって・・・」
ファルナ「一つだけ言っておくわ。これは復讐ではないの。誰もが心を持っていることに気付かないばかりに罪を犯し、これからも犯し続けるあなたを止めるためなのよ。例え王であっても、感情のおもむくままに生きるのは許されないことなの。平穏を望む人々の想いは、一人の人間のどんな欲望よりも大切なものだから・・・。」
吸血鬼が消滅した後、さらわれていた子供を救出して、一行は村へと戻ります。
≪家族≫
翌日の夜、クライスはファルナを迎えに聖女像のところへ行きます。彼女は朝からずっと、この墓の前にいたからです。ファルナはクライスが一人で来たのを見ると、父親を呼び出します。
ファルナ「お父さん・・・私の声が聞こえているなら、姿を見せて・・・。」
その声に応えて姿を見せるファルナの父。主人であるヴァンパイアロードが滅びても、彼は滅びることはなく、かといって人間に戻れたわけでもありませんでした。クライスは親子2人きりにさせるため帰ろうとしますが、ファルナに呼び止められ、ここに残ります。
ファルナ「お父さん、無事だったんだ・・・。明日この村を出るから、今日のうちにと思って・・・。私のことは心配いらないから。姉さんだって、サリスで元気に暮らしているわ。」
父「エディのことは心配してないよ。あの子はどんな環境でも幸せを見つけられる、とても強い子だから。今でも目を閉じれば、あの子の笑顔が浮かんでくるんだ・・・。父さんの心配事は、ルナだけだった・・・。世の中を渡っていけるだろうかと・・・悪い男にだまされはしないだろうかと・・・。でも、全て杞憂だったようだ。ルナ、いい人たちに出会えたな。・・・父さんも、いつまでもここにいてはいけないよな。ルナ、母さんの剣を貸してほしい。その剣の力なら父さんも成仏できる。母さんの所へ行かせてほしいんだ。」
ファルナ「・・・それだけは聞けないよ。だめね、お父さんは・・・。剣なんて持っていったら、お母さん、怖がって泣き出しちゃうよ。だから、これ・・・。」
ファルナは聖女像の周囲に植えられている、母が好きだった花を摘み取り、花束を作って父に渡します。
ファルナ「お母さんをずっと一人にしてたんだから、このお花で機嫌くらい取らないとね。お父さんを送るのは私の役目よ。・・・大丈夫、ちゃんとできるわよ。わたし、強くなったんだから・・・ね?」
ファルナは祈りを捧げ、やがて父の姿が光に包まれます。
ファルナ「お父さん、お休みなさい。」
父「お休み、ファルナ・・・。幸せにな・・・。」
ファルナがクライスをこの場にいさせた理由、それは父に紹介したかったからなのかもしれません。
≪彼女が笑った日≫
翌朝、出発の時を迎えます。
シリュン「もう出発してもいいのか? 今度ここに来るのは、いつになるか分からないんだぜ。それにお前が望んでいるのなら、ここで別れたって構わない。ここに残ること、止めやしないよ。」
ファルナ「大げさね。2度と来られないわけじゃないのよ。それにもう、ここは辺境じゃないわ。伝書鳩のこと、もう忘れたの? みんなに会いたくなった時には、手紙を書けばいいのよ。顔を合わせることはできなくても、私の想いはきっと伝わる。平和の使者が届けてくれるから・・・。」
出会ってからこれまで、ずっと影を帯びた表情をしていた彼女ですが、さわやかな笑みを浮かべていました。
ファルナ「どうしたの? みんな、私の顔ばかり見て・・・さては、私に見とれていたな?」
シリュン「見とれるか! 冗談言う元気があるなら、さっさと帰るぞ!」
ファルナ「ふふっ、やっとシリュンも、いつもの調子に戻ったわね。それじゃあ行きましょう!」
ファルナは先頭に立って歩き始めます。男3人はあっけにとられてついていくことができません。
シリュン「ファルナ、なんか明るくなったんじゃないのか?」
リュード「まさか。浮かれているだけだろ?」
クライス「そうかもしれませんが、これまでは見せなかった姿ですよね。さっきの無邪気な笑顔を見ましたか? 私にはね、あれこそがファルナの本当の姿のように思えるんですよ。姉妹って、似るものなんですかね?」
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