≪この日のために≫
未だに眠り続けるシリュンを残し、6人はフェイデルがいるという洞窟の入口にやってきました。そして意を決して洞窟に入っていきます。
クライス「(シリュン、許してください・・・。これが、私の出した答えなんです・・・。)」
洞窟はやがて巨大な広間につながり、そこには巨大なドラゴンがいました。そのドラゴン、フェイデルは待ち構えていたらしく、6人が部屋に入ってきた途端に襲いかかってきました。それをクライスはフォースフィールドの魔法で結界を張り、最初の一撃をしのぎます。が、結界もその一撃で砕け散ってしまいました。
でも、そうやって少しでも時間を稼ぐのがクライスの目的でした。いえ、ここまでのすべて行動が、これからのためのものでした。そしてクライスは、フェイデルに大声で呼びかけます。
クライス「フェイデル! 私はあなたと戦うために来たのではありません!」
フェイデル「・・・なぜ、私の名前を・・・。」
クライス「私は浮遊大陸へ行き、あなたの父上が遺した日記を探し出しました。そして、あなたのことを知りました。あなたに降りかかった悲劇、あなたが受けた屈辱、そして裏切り・・・。それでもあなたが人を襲うことを、見過ごすわけにはいきません。復讐とは呪われた鎖のようなもの。復讐を果たすことで新たな悲しみと、あなたに対する憎しみが生まれます。鎖は断ち切らねばなりません。」
フェイデル「言葉では何とでもいえる・・・。お前に、私の苦しみが分かるのか! 愛する者を殺され、愛する者に裏切られた私の苦しみが!」
クライス「私は、かつてあなたが滅ぼした村の生き残りです。復讐したい気持ちはよく分かる・・・。」
フェイデル「ならば戦え! 私を倒してもお前を憎む者はいない。復讐の鎖は断ち切られる!」
クライス「私は浮遊大陸で多くのことを知りました。その中には、あなたが知らないことも含まれています。あなたは裏切られてなどいない・・・。あなたの家族は最後まで、あなたを愛していたんです。そしてその思いは失われていません。彼らの思いは今もなお、私の心の中で生き続けているんです!」
フェイデル「・・・・・・・・・。」
クライス「私は知っています。あなたがかつて、とても優しい心を持っていたことを。あなたは知っているはずです。愛する者を失うことの苦しみを。復讐が、新たな悲劇を生みだすことを。私は信じています! あなたがかつての優しさを取り戻す、強き心を持っていることを! ・・・悲劇はもう終わりにしたいから、復讐の鎖、私たちの手で断ち切りませんか・・・。」
フェイデル「・・・お前は強いな。愛する者を奪われた憎しみを、残された者のために捨てることができるのか・・・。」
クライス「捨てることなどできません。あなたの所業を許せるほど、広い心を持っているわけでもありません。それでもあなたを失いたくはない・・・。私は、あなたを愛した人がいることを知っていますから・・・。あなたの家族とともに、私もまた、あなたの幸せを願っていますから・・・。」
フェイデル「・・・残念だが、お前の願いはかないそうにないな・・・。我ら竜は、願いを実現させるため、自らの体を変化させていく。その代償は、己の寿命・・・。」
クライス「・・・フェイデル?」
フェイデル「私は寿命を削りすぎた。このままでも、長くは生きられなかっただろう・・・。それでも今、変わりたいと願っている・・・。悲しみも憎しみも知り、だからこそ純粋な心を持ち続けようとする、お前のように・・・。最期に、お前と出会えてよかった・・・。」
フェイデルは残されたわずかな寿命を削り、光り輝く姿を見せ・・・そして剣の形をしたドラゴンオーブ、ドラゴンソードを残して息絶えました。
フェイデル「我が力、我が心、いつまでも汝とともに・・・。」
クライスはフェイデルの形見を手にし、そして洞窟を後にしました。
ファルナ「フェイデルの最期、光り輝いていたね。あれが、フェイデルの望んだ姿・・・。」
リュード「人の心を読む竜に、家族の想いを伝えること・・・。それがフェイデルを止める唯一の手段だったというわけか。しかし分からんな。あの日記を残した人物は、全てを計算していたというのだろうか。」
≪届け、この想い≫
クライスたちは、シリュンがいる願いの泉に戻ります。
メライザ「もう目を覚ましてもいい頃なんだけどね。・・・? クライスさん、ちょっと疲れてない?」
クライス「私は別に・・・。」
メライザ「・・・そう、ならいいんだけど。それじゃあ1つ仕事をお願いできないかしら。ただ待っているのも退屈でしょう?」
クライス「ええ、かまいませんよ。」
メライザ「4年ほど前にわたしがお世話になった人がいるんだけどね、まだお礼もしていないのよ。だからその人に手紙を届けてほしいのよ。ファルナさんと2人でね。」
リュード「俺だけ留守番か・・・。メライザは、一体何を考えているんだ?」
クライス「ところでこの手紙、誰に届ければいいんですか?」
メライザ「それはひ・み・つ! 大丈夫よ、あなたならきっと届けられるから。」
クライス「???」
そしてクライスはファルナと2人で、転送の門を通って目的地の森へ行きます。
広大な森をあてもなくさまよっていると、羽根の生えた小妖精が喧嘩をしている場面に遭遇しました。なんでも黒い糸しか紡げない妖精が、黒い服を着ているせいで悪い妖精に見えてしまい、仲間からいじめられているのだとか。
しかし黒づくめといえば、クライスも同じです。そしてクライスはかつて妖精を助けたことがあり、その話が彼女たちに伝わっていました。黒い服を着た勇者の存在のおかげで、その場はとりあえず収まりました。でも黒い服の妖精は、まだ黒い服を着続ける自信がないみたいです。そこで妖精が作った黒い服をファルナに着てもらい、他の妖精にも見てもらうことになりました。そのため2人は分かれて行動することになります。
ファルナと別れた直後、クライスの目の前を、少年が走って行きました。その少年は商人からパンを盗んで逃げたというのです。
商人「領主さまにお届けする大切なパンなのに・・・。うわー、もうおしまいだー! ・・・きみ冒険者だね!? 報酬なら払う。あのパンを取り返してくれ!」
そしてクライスは、少年を追いかけることになりました。
間もなく少年に追いつきました。ところが少年は、パンをサルの群れにあげていました。クライスは少年に話しかけます。
少年「ごめんなさい、太陽神さまー! 頭から丸かじりだけはゆるしてー!」
クライス「なんのことですか? 私はパンを返してもらおうと・・・。」
少年「本当に? かみついたりしない?」
クライス「私は普通の人間ですよ。・・・太陽神? ・・・丸かじり?」
少年「あはは、やっぱりそんなわけないよね。ごめんなさい。こいつらがおなかをすかせていたから・・・。この森、食べ物が少ないんだ。」
クライス「そういうことでしたか。それならばパンのことは、私から謝っておきますよ。でも変ですね。これだけの森なのに、食べ物が少ないなんて。」
少年「おいら、この森の番人なんだ。でも父ちゃんみたいなきちんとした仕事ができないから・・・。それで太陽神様がお仕置きにきたのかと思ったんだ。」
クライス「そうでしたか。」
少年「ところで話は変わるんだけどさ、一緒にいたおねーちゃんて、にーちゃんの恋人?」
クライス「・・・仲間ですよ。」
少年「ふーん・・・。でも、好きなんでしょ? おいらにだって一目でわかったよ。きれいな人だもんね。優しそうだしさ。おいら、月の女神様かと思ったもん。」
クライス「それで、側にいた私が太陽神だと?」
少年「変だとは思ったんだ。にーちゃんだけだったら、絶対に間違えなかったんだけどなー。えへへ。そうだ、これあげるよ。あのおねーちゃんにあげたら、喜んでもらえると思うんだけど。」
クライスは、若木で造られた冠・・・世界樹の冠をもらいました。
少年「(サルを見て)お前ら、うまそうに食べるなぁ。おいらにも1口くれよ。パクッ(ムシャ、ムシャ・・・ガキッ!)。あいたたた・・・なんで、パンの中にこんなものが・・・。」
少年の手には、高額で取引される古代の金貨がありました。
クライス「(・・・そうか、賄賂か。)これを売れば、このパンがいくらでも食べられます。みんなが困っている姿を見て、森の神様が助けてくれたのかもしれませんよ。」
少年「・・・にーちゃん、本当にいい人だね。でもウソついちゃだめだよ。父ちゃん、もう死んじゃったんだもん。」
クライス「それは、どういう・・・?」
クライスは急にめまいに襲われ、意識を失います。そして目を覚ました時には、商人と出会った場所に戻っていました。
クライス「(今のは夢? でもこの金貨と冠は・・・。)」
商人「あんた、いつまで寝てるんだよ! まったく最低の冒険者だな! 責任を取ってくれ!」
クライス「・・・そうですね。お詫びにお得意さんを紹介しますよ。」
クライスはそう言って、商人に古代の金貨を握らせました。
商人「うっ、これは、まさか、パンの中から・・・。」
クライス「何のことですか? これは森の神様からですよ。森の神はあなたのパンを大変気に入りましてね、毎日でも食べたいそうなんです。ですからあの少年までパンを届けてください。少年がいらないというまで、毎日ですよ。いいですね!」
商人「は、はい。分かりました! それでは、私はこの辺で・・・。」
商人が逃げ出した後、ファルナが戻ってきました。その時にはすっかり日が沈んでいました。
ファルナ「遅くなってごめんなさい。あの子がみんなに見てもらうんだって言うから、全ての村を回っていたのよ。ところで手紙は渡せたの?」
クライス「私の方も色々とあったんですよ。そうだ、これをあなたに・・・。似合うかどうか分かりませんが・・・。」
ファルナに世界樹の冠をかぶらせます。
ファルナ「・・・ありがとう。はじめてね、プレゼントなんて・・・。いつも一緒にいるのにね。」
クライス「そうでしたね。いつも冒険のこと、フェイデルのこと・・・そんなことばかり考えていましたから。でもおかしな気分です。今も仕事中なのに、そんな気がしないなんて。」
ファルナ「わたしもそう。メライザさん、一体何を考えているんだろう?」
クライス「4年前と言うと、私が彼女と出会ったころなんですよね。でもその当時は彼女の存在は忘れ去られていて、私たちのほかには誰にも会っていないはずなんですが・・・あっ!」
クライスは封筒を破って手紙を読み始めます。そこにはこう書かれていました。
幸せな一時をどうぞ。
ファルナ「この手紙、クライスあてだったんだ・・・。クライス、このところ無理していたから、メライザさんお休みをくれたんだ・・・。」
クライス「でも結局、いつもと同じでしたね。・・・帰りましょうか。リュード達が待っていますから。」
ファルナ「クライスっていつもそうね・・・。せっかくなんだから、もう少しゆっくりさせてもらいなさいよ。ほら、見て! メライザさん、この景色を見てもらいたかったのかもしれないよ。」
クライスが振り返ると、そこには見事な満月が浮かんでいました。
ファルナ「わたし、満月の夜って大好き。月を見ているだけで、安らかな気持ちになれるから。あの月に女神様がいることも、女神様がもたらしてくれることも、素直に信じられる気がするから。」
クライス「私は満月の夜は、あまり好きではありませんでした。妹に大けがを負わせたのも、故郷の村が滅びたのも、満月の夜のことだったから・・・。見るたびに、あの日のことを思い出してしまうから・・・。でも今は、このままいつまでも見ていたい・・・。今夜の月だけは、心から好きになれそうですから・・・。」
≪竜の恩返し≫
2人は願いの泉に戻ってきましたが、シリュンはまだ目を覚ましていませんでした。そこでメライザが、力技で起こします。
メライザ「(ボカッ)この寝ボスケ! 魔法はとっくに切れているのに、いつまで寝てるのよ!」
そしてシリュンが目覚めます。しばらくはボーっとしていましたが、やがて我に返ります。
シリュン「クライス、教えてくれ! 俺が眠っている間に何があった!? フェイデルは・・・。」
クライスは、ドラゴンソードを見せて説明します。
シリュン「・・・そうか。俺がいなくて良かったかもな。俺ならきっと、ヤツに飛びかかっていた・・・。でも今の俺には良く分かるよ。復讐を果たせずに死んだって悔いなんて残らないことが。もっと大切なことはいくらでもあるんだからな・・・。お前はそのことに気付いていたんだな・・・。」
シリュン「終わったな・・・何もかも・・・。」
クライス「シリュン、まだ寝ぼけているんですか? 約束を忘れたのですか?」
シリュン「約束?」
クライス「フェイデルは今でも生きています。わたしと心を通わせることができます。そして、あることを教えてくれました。」
シリュン「・・・ま、まさか・・・。」
クライス「ええ、フェイデルは覚えていたんですよ、私たちの村の場所を! さあ帰りましょう、私たちの故郷へ!」
|