≪生態分析≫
ブルードラゴンを追わなければならないクライスたちは、海神の神殿を訪れて司祭に協力を求めます。
クライス「ドラゴンにも性格や習性があります。ダーリアの港に現れたのが偶然でないとすれば、また沿岸に現れるかもしれません。いえ、すでに被害が出ていると考えたほうがいいでしょう。そこから回遊ルートを割り出せば・・・。」
司祭「なるほど・・・。これは放ってはおけませんね。総力を挙げて調査してみましょう。・・・その代わりと言ってはなんですが、こちらの調査が終わるまでの間、1つ仕事をお願いできないでしょうか。」
クライス「ええ、かまいませんよ。」
司祭「ありがとうございます。じつは先日、南の海で、晴天の日に船が沈んだという報告がありました。その海域では半年ほど前から、謎の渦潮や高波が頻繁に観測されているのですが、原因が分からなくて漁が満足にできないのです。その原因調査をお願いしたいのです。」
≪人魚の海≫
南の海にやってきました。この辺りには人魚が住んでいるという伝説があり、かつて人魚から贈られたという貝殻に刻まれた絵も存在しているのですが、いずれも真偽は不明です。
ともかく海に潜れなければ話になりませんが、高位の白魔法には水中で呼吸できるようになる便利な魔法が存在しますので、それを使って調査することにしました。
そして水中を探索していたのですが・・・人魚の町を2つ発見しました。しかし様子が変です。片方の町には男性しかおらず、もう片方には女性しかいないのです。
エディ「人魚って変わった生活をしてるんだね。アタシ知らなかったな。」
人魚女性「・・・私たちの町が特別なんです。男女間で起きた過去の争いを引きずったまま、今でも・・・。幸せの女神像がなければ私たちは交流を失い子孫を残すこともできず、町は滅びていたかもしれませんね。」
他にも女性の町では、こんな話を聞けました。
「幸せの女神像は、女性と男性が1カ月交代で守ってきたのよ。お祭りの日に交代することになっていたのに、男たちときたら・・・。」
「男たちは、私たちが幸せの女神像を盗んだと思っているのよ! 私たちに渡すのが惜しくなって、隠しているのは分かっているんだから!」
「あなた人間でしょ? 町の近くに網を入れるのやめてくれないかな。時々捕まりそうになるんだから!」
「男たちのほうから謝ってこない限り、私たちは戦い続けるわ。力ではかなわなくても、魔法なら負けてないもの。いやな男もメーワク漁船も、アタシの十八番渦潮の魔法で一網打尽よ!」
一方で男性の町では、こんな話が聞けました。
「幸せの女神像は、祭りの前日に盗まれてしまったのだ。盗んだのは女どもに決まっている。奴ら、幸せを独占するつもりなんだ!」
人魚「人間か・・・。幸せの女神像を譲ってくれたことには感謝しているぞ。」
エディ「???」
クライス「昔、そんなことがあったのでしょうね。」
≪幸せの女神像≫
かつて人魚の男女間で起こった争いを収めるために人間から贈られた幸せの女神像は、男性と女性が交流する口実として使われ、実際に幸せをもたらしてきました。その幸せの女神像が行方不明になり、盗んだのは誰なのか? そして幸せの女神像はどこへ行ったのか? ということが問題になっているわけです。
でも頭に血が上っていない部外者であるクライスには、犯人を予想することができました。
犯人の名は、漁船。そう考えるのが自然でしょう。クライスたちは町に戻って、半年ほど前に漁で女神像を手にした人がいないか捜します。すると現在の漁業組合長が、そのころ女性の人魚像を手にしていたことが分かります。クライスたちはその人魚像を譲ってもらうため、組合長の屋敷を訪ねます。組合長は美術品を集めた部屋にクライスたちを招き、自慢しながら交渉します。
クライス「これは素晴らしい美術品ですね。」
組合長「そうでしょう、そうでしょう。あなたにそう言っていただけると、私も鼻が高いですよ。特に絵が刻まれた貝殻は、人魚から贈られたという伝説がありまして、私の最高の宝物なんですよ。他にもあれはナンタラカンタラ・・・。それはウンヌンカンヌン・・・。」
クライス「と、ところで、海で異変が起きていることなんですが・・・。」
組合長「も、もしや、なにか御存じなのですか? もし解決してくださるのなら、このコレクションすべてをお譲りしてもかまいませんよ!」
クライス「では、漁で手にしたという人魚像と・・・あの男性の人魚像を譲ってください。それと禁漁区域を作ってほしいのです。それで全て解決します。」
組合長「そ、それは・・・できないわけではありませんが、他の者が何というか・・・。でも、今のままよりは・・・。」
約束を取り付けると再び船に乗ります。
シリュン「・・・つまり女神像を盗んだのは漁船で、海難事故は人魚たちの喧嘩のとばっちりだったってことか? そこまでは分かるとして、その人魚像はどうするんだ?」
クライス「もちろん、返すのですよ。でも1つだけだと、奪い合いになるかもしれないでしょう?」
シリュン「しかしだな、男たちと女たちに1つずつ渡しても、人魚たちの仲は戻らないと思うんだが。」
クライス「でしょうね。ですから、この石板をつけておくのですよ。」
シリュン「変な模様が刻んであるな。」
クライス「人魚語での手紙です。内容はこうです。」
みんなに幸せをあげすぎて不幸になった家出娘に、素敵な恋人ができました。
二人が幸せになれるよう、温かく見守ってあげてください。
クライス「こうしておけば、和解の口実に使えるでしょう? あとは、彼ら次第ですね。」
≪人魚からの贈り物≫
それから一週間後。酒場で待機していたクライスたちのもとへ、組合長が訪ねてきます。
組合長「みなさん! 今日の漁で、網にこんなものがかかったんです!」
見せられた貝殻には、子供を抱いた人魚夫婦の絵が刻まれていました。
クライス「どうやらうまくいったようですね。このところ、異変は起きていないのでしょう?」
組合長「ええ、何だかキツネにつままれたような気がしますが、約束ですからね。私のコレクションと、そうなるはずだったこの絵はお譲りしますよ。」
クライス「では、2枚の貝殻の絵はこの町に、残りはあなたに寄付させてください。私たちは海神の神殿からの依頼で来ましたから、報酬の二重取りになってしまいますので。」
組合長「そういうことなら、喜んで!」
そして組合長が帰って行ったあと、席には4人が残されます。
シリュン「いいのか? あの絵、どう考えたってお前あてだぞ? 海神の神殿からの報酬ったって、こちらの依頼と相殺だから、実質ゼロなんだし・・・。」
クライス「いいんですよ。人魚たちと共存していくのは彼らなんですから。それにね、私たちが得られるものは他にもあるんですよ。今回の出来事、なにか気になりませんか?」
シリュン「今回の出来事って・・・人魚たちに人魚像を贈って、そのお礼に貝殻の絵をもらって・・・あっ!」
クライス「以前にも、同じようなことがあったのでしょうね。幸せの女神像を贈った人の名は残らずとも、その功績は人魚たちの生活の中に残されていたんです。そしてこれからは、幸せの夫婦像と名を変えて受け継がれていくことでしょう。私たちのしたことが後の世に残るんです。冒険者にとって最高の栄誉だとは思いませんか?」
エディ「そっか・・・。アタシたち伝説になるんだ・・・。」
シリュン「単純なやつだな。今の話は全部推測で、クライスがいなけりゃ気付きさえもしなかったんだぜ。俺たちのことだって同じだろうな。そんなんで嬉しいか?」
ファルナ「わたしは、それで充分だけどな・・・。そうだ、乾杯しようよ。名を残すことなく去って行った、過去の偉人たちに・・・。そして同じ道を歩む、今夜のわたしたちに・・・。」
シリュン「そうだな・・・。そんな風に言われると悪い気はしないな・・・。・・・よーし酒だ! 親父ぃ、一番いい酒持ってこーい!」
エディ「まったく、単純なんだから・・・。」
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