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≪満月の夜に≫

 注:ここからが本当の始まりです。

 偉大な魔術師が建てたといわれる塔の一室で、一人の青年魔術師が月夜を眺めていました。
 彼の名前はクライス。この塔の現在の主人であるディルマーに師事して魔術を学んでいる、20才の魔法戦士です。黒い髪に黒い瞳で黒い服を着て黒魔術を使います。でも腹は黒くないはずです。・・・た、たぶん。

 クライス「今夜は満月か・・・。あの時と同じだな・・・。ここで暮らすのも、この夜景を見るのも、今夜が最後か・・・。」

 そこへやってきたのは白ニャンコ。・・・に見えますが、その正体は師匠ディルマーの使い魔であり、人と会話することができます。名前はミシェルといって、年齢不詳のオスです。でもなんだか酔っ払っているみたいです。

 ミシェル「クリャイフ、ひいたよ。あひたほこを出りゅんだって?」

 翻訳して書いたほうがいいかもしれません(汗)。

 訳:クライス、聞いたよ。明日ここを出るんだって?

 クライス「ええ、そのつもりです。・・・ミシェル、また飲んでいるのですか?」

 ミシェル「飲んでる。だって、そんなことを急に言われても納得できないよ! クライスはここが嫌いなの!? 僕たちと暮らすのがいやなの!?」

 クライス「そんなことはありませんよ。・・・でも、私にも夢があります。ここで修行していたのは、その夢をかなえるための力を得るためだったんです。・・・ここで学べることは、すべて身につけました。これ以上ここにいても、意味がないんです。」

 ミシェル「・・・だったら聞かせて、クライスの夢。教えてくれなきゃ、旅になんて行かせてあげないんだから!」

 クライスは満月を見上げながら、ポツリポツリと語りだします。

 クライス「・・・2年ほど前の話です。私はとある村で子供たちに学問を教えるかたわら、自警団の一員として働いていました・・・」


≪回想≫

 クライス「私が生まれ育った島には、月見祭というお祭りがありました。満月の夜に行われるその祭りで、その月に結婚する二人が月の女神に踊りをささげ、祝福を受けることではじめて夫婦として認められていたんです。その月見祭が行われるはずだった日、ゴブリン(小鬼)の襲撃によって祭は中止になりました。私は幼馴染であり自警団員であるシリュンとともに、近くの洞窟へゴブリン退治に行きました。そして退治が終わって帰る途中の夕暮れ時、村の方角の空が赤くなっているのに気がつきました。・・・村が燃えていたのです。そして村の上空には巨大な黒竜がいました。私たちはすぐに村へ向かおうとしましたが、黒竜が私たちに気付くほうが先でした。黒竜は私たちのもとへ飛んでくると突風を巻き起こし、それに巻き込まれた私たちは崖から転落。『そのまま落ちれば命がない』そう思った私は、テレポート(瞬間移動)の魔法を使おうとしました。しかし当時の私は初歩の魔法すら使えないほど魔法の使用に恐怖を感じていたうえ、テレポートは最上級魔法の1つ。魔法は失敗して暴走。そのまま意識を失ったのです。」

 ・・・映像抜きの文章だけになると、ものすごく読みにくいなぁ。・・・ごめん。


≪再び現実へ≫

 クライス「気がついたのは、見知らぬ土地のベッドの上・・・この塔の中でした。シリュンの姿はどこにもなく、私はもともと魔術を学んでいたこともあり、ここで師匠に師事することにしました。」

 ミシェル「・・・・・・・・・。」

 クライス「私はあの竜を倒したいのです。村を滅ぼし、全てを奪った、あの竜を・・・。そしてどこにあるとも分からない故郷に帰って花を供えたい。それが私の夢なんです。・・・今の私ではあの黒竜どころか、幼竜にすら歯が立たないでしょう。でも修業を積んで、いつかは・・・・・・・・・?」

 ミシェル「・・・Zzz。」

 クライス「・・・ずいぶん酔っていましたからね。それともこんな話、つまらなかったのですかね。」

 ミシェル「Zzz・・・。」

 クライス「・・・でも・・・私にとっては・・・。」 


≪旅立ち≫

 翌日、塔から出たところで師匠のディルマーに呼び止められます。ちなみに師匠は、いかにもといった感じの、魔法使いのお爺さんです。

 ディルマー「クライス、なぜ行く。復讐か?」

 クライス「・・・分かりません。」

 ディルマー「分からんじゃと?」

 クライス「ええ、分かりません。復讐は何も生み出さず、ゆえに復讐のために生きるのは愚かなこと・・・それは分かっているつもりです。でもあの竜を倒したいという気持ちを抑えることができない・・・。私がすべきことは復讐なのか、それとも他にあるのか、それを見極めるためにも・・・。」

 ディルマー「それで、ここを出てどうする?」

 クライス「冒険者になるつもりです。私のすべきことがどんなものであったとしても、その助けになると思いますので。」

 そして歩き出すクライスのもとに、ミシェルが駆け寄ってきます。

 ミシェル「クライス、また会えるよね!? いつかきっと、ここに帰ってきてくれるよね!?」

 クライス「・・・ええ、必ず!」

 そしてクライスは旅に出ます。まず向かうのは、日用品などを購入するために何度も通っていた近くの村。しかしなじみのその村で、クライスは冒険者としての第一歩を踏み出すことになるのです。


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