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≪裏切り≫

 天の箱舟に乗り女神の果実を天使界に持ち帰っている途中、背後に懐かしい気配を感じた。振り返ると、そこにはイザヤール師匠が立っていた。

 イザヤール「久しいなヨシヒト。女神の果実は私が天使界へと届けよう。さあヨシヒト。女神の果実を私に。」

 私「いいえ」

 別に冗談を言っているわけではない。この師匠、どこかがおかしい。もしや偽物なのでは? あるいは、なにものかに操られているのでは?
 真偽のほどは分からないが、私の師匠は弟子の手柄を横取りするような人ではなかったはずだ。

 イザヤール「天使は自分よりも上級の天使に逆らえぬ。それが習わしと教えたはずだ。」

 今の私を天使だと認めてくれるのはうれしいが、残念ながら半分は人間だ。逆らって見せるさ!

 イザヤール「さあ果実を私に渡すのだ!」

 私「いいえ」

 イザヤール「さあ果実を私に渡すのだ!」

 私「いいえ」

 イザヤール「さあ果実を私に渡すのだ!」

 私「いいえ」

 イザヤール「さあ果実を私に渡すのだ!」

 お願いだから逆らわせてよー! これだから、デジタル世界の住人は!

 ええい、仕方がない。このままでは話が進まない。

 私「はい」

 イザヤール「さすがだな、ヨシヒト。確かに女神の果実は受け取ったぞ。これで・・・・・・」

 声「・・・・・・イザヤールよ。御苦労であった。約束通り女神の果実をわが帝国へと送り届けるがよい・・・・・・。」

 イザヤール「はっ・・・・・・。」

 やはり、おかしい。謎の声の主はどこかの皇帝らしいが、まともな奴ではなさそうだ。そんな奴に女神の果実を渡すわけにはいかない。

 イザヤール「・・・・・・私に歯むかう気だな。邪魔をするというなら容赦はしないぞ、ヨシヒト!! 弟子が師匠に逆らうことは許されない。それが天使の理だ。」

 そして師匠との対決だ。・・・・・・って、あれ!?
 逆らうことは許されないとかいうよりも、体が動かなくて逆らえないんだけどさ!

 そしてバッサリ。動けない私は一撃で切り捨てられた。果実を持って箱舟から飛び立つ師匠。箱舟の外には、巨大なドラゴンに乗った変なやつがいた。どうやらガナン帝国の将軍らしい。そいつは師匠と少し言葉を交わすと、一緒にどこかへ行ってしまった。

 ガナン帝国は魔帝国とも呼ばれていたが、確か300年ほど前に滅びたと聞いている。どういうことだか分からないが、放っておいたら大変なことになりそうだ。くっ、何とかしなければ。
 しかし大ダメージを受けた私の体はまともに動かない。そんな時、箱舟を激しい衝撃が襲った。どうやらドラゴンが攻撃してきたらしい。私はその衝撃に耐えられず、箱舟から落ちて行った・・・。


≪よそ者を嫌う村≫

 目を覚ましたのは、見知らぬ村のベッドの上だった。

 ティル少年「ヨシヒトさんが村の川のところに流れ着いていたのを、ボクが見つけたの。」

 流れてきたのが桃じゃなくて残念だったね。
 ・・・という冗談が言えるくらいには体調は回復しているようだが、こんなくだらないことしか思いつかないくらい頭の方はダメらしい。箱舟から落下した時に、頭を強く打ったのだろうか。

 ここはナザムという村。しかしほとんどの人が私を邪険にする。つまらない旅芸人に用はないということだろうか? うぐぐ、これは一刻も早く、絶妙なユーモアセンスを取り戻さなければ! 以前からダメだったという説も無きにしも非ずな気がしなくもない可能性も否定できそうにないけどさ!(・・・ん?)

 しかしそんな私の予想は外れていたようだ。村人は私を嫌っているのではなく、よそ者みんなを嫌っているのだという。というのもかつてこの村は、よそ者が原因で滅びかけたことがあったかららしい。
 ともかく、新しい村にたどり着いたのだ。ならばまずすべきことは決まっている。

 人の家の本を勝手に読んでー。
 人の家の宝箱を勝手に開けてー。
 人の家の壺の中身を勝手に取ってー。

 ・・・・・・って、はっ!?
 まさかよそ者がこんなやつばかりだから、村の財産を奪われて滅びかけたことがあるのか!?
 でも仕方がないよな。ドラクエって、こういうゲームなんだからさ!
 ・・・みんな、こんなことしてるよね?
 でも、よい子はマネをしないでね。でないと、地元の人から嫌われちゃうぞ?


≪ラテーナとエルギオス≫

 ナザム村の近くにある泉。そこで不思議な人に出会った。陰を帯びた女性の幽霊で、名はラテーナという。
 彼女の依頼で星空の首飾りを探して手渡した私は、彼女から昔の話を聞かされる。

 何百年も前のこと、傷ついて近くで倒れていた、ナザム村の守護天使エルギオスを助けたことがきっかけで、村が魔帝国ガナンに目を付けられたのだという。
 これが、ナザム村がよそ者のせいで滅びかけたという話の真相なのだろうか。

 しかしエルギオスという名前には聞き覚えがある。イザヤール師匠の師匠だ。はるか昔に人間界へ行ったまま戻ってこないというその人は、どうやらこの村で起きた事件に巻き込まれていたようだ。
 だが、それ以上の話を聞くことはできなかった。彼女はエルギオスを捜し、どこかへ旅立ってしまったからだ。

 私は天の方舟を襲った黒いドラゴンの行方を追うため、そいつが向かったというドミール火山を目指すことにした。そこには空の英雄がいるらしい。


≪空の英雄≫

 さあ、ドミール火山を目指してどんどん進もう。どんどん行こう。話をどんどん飛ばしていこう。

 そして世界に平和が戻り、人々は末永く幸せに暮らしましたとさ。
 めでたし、めでたし。

 おっと、話を飛ばしすぎた。少し戻そう。

 空の英雄と呼ばれているドラゴン、グレイナルと出会った私は彼の信頼を得て、協力して黒いドラゴンこと闇竜バルボロスと戦うことになった。
 この2頭のドラゴン、300年前にも戦っていて、その時にバルボロスは敗れて死んでいたはずらしい。ということはガナン帝国と共に、何者かによってよみがえらされたのだろう。黒幕がいるとしか思えない。

 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。話を思いっきり飛ばしてきた結果、私は今、グレイナルに乗ってバルボロスと闘っているのだから。ちなみにグレイナルは直前に強い酒を飲んでいるので、酔っぱらい運転ならぬ酔っぱらわれ運転をしているのだが、グレイナルいわく「少し酒が入っているくらいがちょうど良い」らしい。
 ・・・酔ってるよ。このドラゴンすでに酔ってるよ。どう考えても酔っぱらいのたわごとだよ。

 そんな状態で、伝説のドラゴン同士の空中戦が始まった。
 しかしこちらは酔っぱらい。一方バルボロスは帝国から妙な力をもらっているらしく、300年前よりもパワーアップしていた。互角の戦いが繰り広げられたのは初めのみ。バルボロスの本気の攻撃を受けて、グレイナルはフラフラだ。そしてバルボロスはグレイナルの目の前で、彼を慕う人によって作られた集落、ドミールの里を滅ぼそうと全力で攻撃を放ってきた。
 グレイナルは残された力を振り絞り、その攻撃の前に立ちふさがった。

 「ワシは、ワシの里を守ろう。」

 それが、空の英雄と呼ばれたドラゴンとの別れだった。

 私はバルボロスの攻撃に巻き込まれないように振り落とされ・・・

 ・・・って、待たんかい! 「生きよ。」って、こんな高さから落とされて生きていられるかー!
 酔ってるよ。このドラゴン、絶対いまだに酔ってるよ!


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