≪帰還≫
ベクセリアでの仕事を終えて用事がなくなった私は、ふと思いだして天の箱舟に乗ってみた。
ガタン!
奇妙な振動の後、箱舟は動き始めた。そして天使界に向かって飛び立ち、走り出す。
はるか上空の雲の中に、ひっそりと隠れるようにして存在する天使界。
かつては真っ白で美しい雲に囲まれていた天使界だが、今それを取り囲むのは黒い雷雲。以前とは明らかに様子が違う。
窓から天使界の様子を見てみると、世界樹のそばで何人かの天使が祈りをささげているのが見えた。その中の一人はオムイ長老だ。光り輝く箱舟に気づき、歓喜の声を上げている。
オムイ「神よ・・・・・・祈りを聞き届けてくださったのですね!」「天の箱舟がわれわれを救いに来てくださったのだ!」
そして箱舟は天使界に停止すると、出入り口の扉を開く。そこから降りてきたのは、当然ながらこの私。
がっかりさせてごめんなさい!
光輪も翼もない私を見て長老は驚いていたが、それでも私の帰還を喜んでくれた。そして私たちは、お互いの情報を交換しあう。
私の他にも、何人もの天使が人間界に落ちたこと。彼らを救うために、イザヤール師匠をはじめ、何人もの天使が地上に降りて行ったこと。しかし戻ってきたのは私が初めてだったということ。女神の果実はすべて人間界に落ちてしまったこと。などなど・・・。
とりあえず、私は世界樹に祈りを捧げることにした。長老の話では、世界樹の力で本来の天使の姿に戻るかもしれないというからだ。
世界樹の下で祈りをささげてみる私。しかし私の心は揺れていた。人間界でしばらく暮らすうちに、人間でも天使でもないという今の私の生き方を貫いてみたい、せめて天使や人間というものをもっと理解できるようになるまでは続けてみたい、そう思う気持ちが強くなってきたからだ。
そのせいかもしれない。私に翼と光輪は戻らなかった。少しホッとしているのは気のせいではないだろう。そして気が緩んだからだろうか。私は深い眠りに落ちていった。
≪夢≫
謎の声「人間たちはこの世界にはふさわしくない。己のことしか考えず、ウソをつき、平気で他者をおとしめる・・・・・・。そんな人間のなんと多いことか。私は・・・・・・人間を滅ぼすことにした。」
別の声「私は人間たちを信じます。・・・・・・人間を滅ぼしてはいけません。どうか・・・・・・!」
・・・不思議な夢を見た。
神々しく威厳に満ちた、しかし恐ろしい声。そしてそれに反対しようとする、慈愛に満ちた優しい声。
ただの夢だとは思えなかった私は、このことをオムイ長老に話してみた。長老もただの夢ではないと考えているようだ。今回の事件の本質に関わっていることなのかもしれない。
だがそんな夢を、なぜ私が見たのだろうか。何か意味があるのだろうか。
その後、私はまた人間界に戻ることにした。地上に落ちたという女神の果実を探してみようと思ったからだ。状況を打開する手段は、今はそれくらいしか思いつかないのだ。
≪ダーマ神殿≫
人が転職をするために訪れるという、ダーマ神殿に来てみた。こんな施設があるということは、この世界の人間は自分の意思だけでは転職することができないのだろう。そういえば私も、勝手に旅芸人にされていたな。
今のところ転職の希望はないが、女神の果実の情報を集めるために神殿を回ってみた。するとここでも何やら、騒動が起きているらしい。
今回の騒動は、大神官の失踪事件。何日か前の昼食後に、どこかへ行ってしまったらしい。
ちなみに神官とは、宗教組織の下っ端管理職をさす言葉だ。すると大神官というのは・・・実に分かりにくい肩書だが、たぶん法王代理補佐次期候補見習よりは偉いと思う。きっとそんな微妙な肩書に嫌気がさし、家出したくなったのだろう。
・・・という冗談はさておき、転職は大神官がいないとできないそうなので、今ダーマ神殿の機能は停止しているという。私には関係のない話だが、放っておくわけにもいかないだろう。ということで、簡単に調査をしてみた。
すると驚くことに、大神官が失踪直前に、光る果実を食べていたことが分かった。光る果実とは、きっと女神の果実だ。
・・・・・・・・・って、食べちゃったの? えーっ!!!
≪ダーマの塔≫
食べられてしまったものは仕方がない。とりあえず、失踪事件だけでも解決しよう。
というわけで、大神官が向かった可能性が高いという、ダーマの塔へ行くことにした。
かつて転職のための修行の場として使われていたというダーマの塔。分かりやすく言えば、職業訓練所だろうか。その最上階には石碑が立っていた。
「転職を望みし者よ。心せよ。職業はその人間の未来を決める。己で考え決断しなければならない。」
人間にとって、職業とはそれほど重要なものなのか。私はいつの間にか旅芸人にされていたから、その場のノリで決まるものだと思っていたのだが。
その石碑の奥で、不思議な扉を発見した。その奥には、大神官らしき人物がいた。しかし様子がおかしい。
大神官「わしはダーマの大神官として、人々のためここで祈り、さらなる力を手に入れるのじゃ!!」
彼は闇に包まれると、魔神ジャダーマへと変化して襲いかかってきた。
魔神ジャダーマは恐ろしい敵だった。
ジャダーマはバギを唱えた。ジャダーマの魔法は暴走した!
ジャダーマはバギを唱えた。ジャダーマの魔法は暴走した!
ジャダーマはバギを唱えた。ジャダーマの魔法は暴走した!
・・・って、勘弁してー!
ジャダーマが唱えるバギ(真空の刃)の魔法が、5回中4回暴走。そのすべてが私たちに襲いかかる。・・・そうか、魔法の暴走とは、攻撃における会心の一撃に相当するものなのか。身をもって学んだぜ。
さて、そんな恐ろしい敵をどうやって倒したのか。実は!!!
・・・負けちゃった。
えーい、鍛えなおして再戦だ!
それからしばらくして、僧侶レジーヌがベホイミ(大回復)の魔法を覚えてくれたので、再戦することにした。しかしそれでも前回くらい魔法が暴走するのであれば、勝つのは難しい。仲間たちの意志や意見を考慮しない「命令させろ」の作戦は使いたくなかったが、この際だから仕方がない。ルカニ(守備力低下)やまふうじの杖(魔法封じ・・・ってそのままだな)を使って、私が練った作戦で戦おう。
そして再戦! 苦戦はしたが、ついにジャダーマを倒した!
闇が消え去り、あとには大神官が立っていた。どうやら無事のようだ。
他人を転職させるためには、その人の人生に責任を負わなければならない。彼はそう考えて、その責任の重大さゆえに不安を覚えていたのだろう。そんな時に女神の果実をたまたま口にし、絶大な力を手に入れた。「この力があれば、より良い仕事ができるはずだ・・・」
そう思っていたが力に溺れてしまい、魔物へと変化した。どうやらそういうことだったようだ。
しかし、女神の果実とは一体何なのだろうか。人が口にしてはならないものであることは判明したのだが、そんなものが世界樹に実るとは・・・。しかも女神の果実は、あと6つあるはずなのだ。それらが全て、人の手に渡ったとしたら・・・。
・・・って、あれ? そこに転がっているのは、女神の果実じゃないか。大神官が食べてしまったはずなのに、なんでここにあるのだろう。
もしかして、大神官は丸呑みしていたのではないだろうか。そのため消化不良を起こして力が暴走、先ほどの戦闘の衝撃で吐き出した・・・。
・・・となると、これって・・・・・・洗えば大丈夫だよね? 汚くないよね?
ともかく、女神の果実を1つ取り戻したのだ。あと6つ、この調子で頑張ろう!
・・・って、前言撤回! この調子だったなら、あと6回も全滅しちゃうよ!
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