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≪関所にて≫

 セントシュタインでの仕事を終え、私は隣の町に行ってみようと思い立った。そのため関所を訪れたのだが、そこで妙な噂を耳にした。隣街から逃げてきたという商人によると、「町がドえらいことになってた」らしい。

 隣の町ベクセリア。そこでも大きな事件が起きているようだ。私にできることと言えば魔物退治くらいだが、この力が役に立つだろうか。もし必要とされても、十分な力といえるだろうか。

 兵士「新天地を目指す準備は万全か?」

 ああ、万全さ! いつでも逃げ帰れるように、キメラの翼はいっぱい持っているからね!


≪疫病の町ベクセリア≫

 町人「このベクセリアの町は、もうすぐ滅んじまう。巻き込まれたくなきゃ、とっとと立ち去ることだ。

 ベクセリアを襲った災厄。それは疫病だった。100年前に流行したという謎の疫病が、先日の地震の後によみがえったのだという。
 町の多くの人が病で伏せている。一刻も早く何とかしなければ。医者ではない私に治療行為はできないが、それでも何かの役には立てるはずだ。例えば・・・

 100年前に流行した病気ということは、つまり今は流行していないということで、当時の資料を調べれば治療法が分かるかもしれない。

 ・・・という賢い意見を出したのは町の人であり、すでに考古学者ルーフィンが調査に乗り出しているらしい。

 しかしそのルーフィン、かなりの問題人物のようだ。考古学者としては優秀だが、人間としてはさっぱり、と言えば想像できるだろうか。他人のことなど眼中になく、自分のことにしか興味がないという人らしい。実際、今回の事件の真相にすでにたどり着いていながら、自分の利益にならないという理由で解決に乗り出そうとしていないのだ。
 そんな人の元に嫁いでるのは、天然お嬢様ながらもお人好しのエリザさん。病気でせき込みながらも、健気に家事に励んでいる。
 ・・・ってエリザさん、疫病の被害者だよ! 自分の妻が被害者だってことに気づけよ、このアホ学者! あんた妻を、便利な道具のようにしか思っていないだろう!

 結局ルーフィンが重い腰を上げたのは、義理の父親でもある町長に自分の能力を認めてもらうため。原因と思われる遺跡まで、私たちが護衛をするという条件がついてからだった。


≪病魔封印≫

 古代の遺跡の謎を解き、封印されていた部屋に入ると、そこには壊れた壺があり、そのそばには病魔がいた。ルーフィンが壺を修復するまで時間を稼ぐのが私たちの役割だ。

 病魔パンデルムとの戦闘中、魔法使いエミリアが必殺技を発動した。

 エミリア「ミラクルゾーン!」

 と言っている間に、リカードの一撃でパンデルムは倒れた。
 だーかーらー! 必殺技ってなんなのさ!

 さて今回の事件についてだが、ご想像の通り地震で封印の壺が割れ、病魔が復活したことが原因だった。強敵相手で楽な仕事ではなかったが、私たちは見事やり遂げることができた。

 ルーフィン「見ましたかヨシヒトさん? みごと病魔のやつを封印してやりましたよ。この僕が!」

 どうやら彼は、自分ひとりの手柄だと思っているらしい。実際に彼の手柄である部分が大きいのは確かだが、彼一人では何もできなかったのだ。こんな言われ方をするとカチンとくる。名誉などには興味がないと思っていた元天使の私だが、人間らしい部分があったようだ。だがこんな欲や感情を認め人間を知るということも、人を救うためには必要なことなのかもしれない。


≪ただ一人の犠牲者≫

 ベクセリアの町に戻った私たち。例の病気は正確には呪いの一種だったらしく、元凶が封印されたことで病人はウソのように回復していた。ただ一人・・・すでに亡くなっていたエリザを除いては。

 ルーフィンは彼女の葬式にも出席せず、自宅に引きこもった。彼にとって、彼女はどんな存在だったのだろうか。
 1人の人間として愛していたのか、それとも自分の所有物として愛していたのか。私には後者のように思えてならない。いずれにせよ自分の一部となっていた人を失った悲しみは大きく、壊れそうになっているのかもしれない。

 人を救うのが天使の使命。どんな人に対しても、救いの手は平等でなければならないのかもしれない。しかし私は天使ではない。平等でなくてもかまわないだろう。

 私は自分の力を活かし、すでに亡くなっている彼女と話をすることにした。先に救いたいのは彼女の方だったから。

 エリザ「ルー君を立ち直らせるために、協力してもらえませんか?」

 どこまでお人好しなのだろうか、この人は。だからこそ、彼女は救われなければならない。いや、救いたい。

 私は彼女の願いを聞き入れ、ルーフィンを、彼が救った元病人たちに会わせることにした。彼に自分の本当の功績 〜病魔を封じたことではなく、町の人を救ったこと〜 を知ってもらうために。


≪人は生まれ変われるか≫

 ルーフィン「今日町を回ってみて、初めて自分がいかに多くの人々に関わっているのか気づきました。これからはそのことを忘れず、このベクセリアの人々と共に生きていこうと思います。・・・・・・みんなに感謝されるのも悪くない気分ですしね。」

 ルーフィンは変わった。そして立ち直った。いや彼の場合は、自分が社会の一部であることを知らなかっただけなのだ。だからそれを知ることで成長した。変わったというよりも、成長したといった方がいい。もし彼が本当にゆがんだ心の持ち主だったなら・・・どんな結末になっていたのだろうか。

 未熟な人は過ちを犯すし、真実には気付かないことが多い。
 心がゆがんでいる人は、やはり過ちを犯すし、真実に気付こうとはしないだろう。未熟な人と変わらないように見えるが、本質は全く違う。
 問題を起こす人間とは、未熟なだけなのだろうか。それとも心がゆがんでいるのだろうか。
 そして天使たる存在は、どちらの人をも救うことができるのだろうか。

 エリザ「おかげで私、死んでるのに自分の夢をかなえることができちゃいました。ルー君のすごいところを町のみんなに知ってもらうこと。・・・・・・そしてルー君に、この町を好きになってもらうこと。それが私の夢でしたから。」

 信じる人が報われる。美しい話だが、それは現実的な話ではない。もしもルーフィンがゆがんだ心の持ち主であったならば、彼女の願いはかなうはずもなく、彼女は救われることはなかったのだから。彼女に現実を知ってもらい、ルーフィンに罰を与えることしかできなかったのかもしれないのだ。そして私はルーフィンを、何も起こらなければ決して現実に気付かないような、そして何かが起こってすら気付かないかもしれないような、本物の愚か者だったと思っている。つまり今回の結末は、ほとんど奇跡だと思っている。
 だからエリザの、そんなルーフィンに対する無償の愛は、彼女の精神的な幼さからくる盲目的なものだったように思えてならないのだ。

 今回の事件に関しては、ルーフィンもエリザも救われた。しかしルーフィンが初めからまともな奴であれば、エリザの死を防げたかもしれないのだから、心から喜ぶことはできない。
 つまり、結果オーライ。本人たちだけの自己満足ハッピーエンド。
 だがしかし、これは彼らが自分たちの力で導き出した結末なのだ。陰の存在であるべき半天使としては、人間たちの強さと成長を喜ぶべきなのかもしれない。

 すべてを笑って許した彼女。それは強さなのか、それとも愚鈍なだけなのか。私にはいまだに分からない。
 でも彼女は笑顔で天に召されたのだ。だから私も、精一杯の笑顔で見送った。


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