≪新たなる肩書≫
人間になってしまったものは仕方がない。これからは人間として生きることにしよう。幸いリッカさんという女性の家に引き取ってもらえたから、当面の生活は問題なさそうだ。
そんな風に前向きに生きようとする私だったが、村人たちはそうではないらしい。
村人「大地震が起こったと思ったら、魔物はわきだすし、峠の道まであんなことに・・・・・・。」
村人「苦労の末に手に入れた高い馬が地震でケガしちまって、もうガックリだよ。」
村人「リッカちゃんの宿屋、お客さんが来なくなっちゃって、かなり困ってるみたいね。」
どうやら天使界を貫いた謎の光は、人間界では大地震を引き起こしたらしい。それと共に魔物が増え、さらに峠の道が土砂崩れでふさがり、旅人がやってこれなくなった・・・ということか。
つまり謎の光を放ったやつが元凶というわけだな。まったく、世の中には悪いやつがいるものだ。
村人「私、思うんですよ。リッカちゃんとこの旅芸人みたいな恰好をした人・・・。ヨシヒトさんって人が村に不幸を呼んだんじゃないかって。」
・・・って、悪いのは私ですか!? 人間として生きようと思っていたのに、村のみんなからは厄病神あつかいですか!? 厄病神ってことは神様ですか!? 私ってば神様になっちゃったみたいですよ!
そんな風にパニくっていた時、この村のお荷物ニードがやってきた。彼は片思いのリッカに良いところを見せようと、峠の土砂崩れを何とかしようと思っているらしい。私の格好が旅芸人っぽく、旅芸人ならばそれなりに鍛錬を積んでいるだろうということで、私に協力を求めてきたのだ。
彼の動機は不純だが、行動そのものは立派なことだ。よし、手を貸してあげるとしよう。
でも本当に良かったのだろうか。彼は村一番の厄介者。そして私は村一番の厄病神。この2人が手を組めば、きっとロクでもない結末になるに違いない。
村の皆さん、ごめんなさい。今のうちに謝っておきます。
どうでもいいことだが、2人が並んで歩いていると、画面に表示される名前が
ヨシヒト ニート
みたいで嫌だなぁ。
≪子供のお使い≫
襲い掛かってくる魔物を退治しながら、私たちは峠に向かう。その途中で、私たちはとんでもないものを発見した。それは停車している天の箱舟だ。驚いた私だが、ニードは気にも留めていない。どうやら彼には見えていないようだ。きっとオツムが可哀そうな人には見えない素材でできているのだろう。
なに? それなら2人とも見えないはずだって? やかましい!
ともかく私はこの場所を心にとめて、先を急ぐことにした。
そして土砂崩れ現場。その規模は予想以上で、とても2人だけでは直せそうもない。悪態をつくニード。
しかしその時、土砂の山の向こうから声が聞こえてきた。彼らは街道の先にあるセントシュタインという都市の兵士で、国王の命令により土砂を取り除きに来たらしい。ついでにウォルロ村に向かったはずのルイーダという女性の捜索もしているらしいが、私たちに心当たりはない。
結局私たちは、「もうすぐ峠の道が開通する」という情報だけを持って引き返すことにした。
村に帰ってきた私たちは、ニードの父親である村長に、事の顛末を報告する。
村長「偉い!」
そう言ってもらえると思っていたらしいニードだったが、実際には「その程度の情報など、命をかけてまで入手しようとするものではない」と、逆にこっぴどく怒られた。私とニードが手を組んで何事も起こらなかったのだから、むしろ感謝してほしいと思うのだが。
ともかくニードへの説教が長引きそうなので、彼とはここで別れることにしよう。これ以上一緒に旅をしていても、足を引っ張られるだけだろうしね。
もっとも私にとって、今回の冒険はちょっとした意味を持つことになった。というのもルイーダはリッカの父(故人)の知り合いかもしれないらしく、そんな人がウォルロ村に来る途中で消息を絶ったとなれば、放っておくわけにはいかないからだ。世話になっているリッカに、ちょっとした恩返しができるかもしれない。守護天使時代の管轄からは外れているが、今は人間なのだから、気にすることはないだろう。
そこで私は、もう1つのウォルロ村〜セントシュタイン街道の途中にある危険地帯、キサゴナ遺跡へ向かうことにした。
≪最悪の第一印象?≫
危険なため最近は使われていなかったという、キサゴナ遺跡を通る街道。そこでルイーダさんを発見。無事に救助することができた。
ルイーダ「私はルイーダ。セントシュタインの城下町で酒場をやってる、わけありの女よ。」
変な自己紹介をする女性だが、「やられたらやり返せ!」というわけで、私も自己紹介をしておいた。
私「私はヨシヒト。ウォルロの村で居候(いそうろう)をやっている、メッチャわけありの男です。」
・・・不審者だと思われたかもしれない。
≪父と娘≫
ルイーダの目的。それは勤め先であるセントシュタインの酒場兼宿屋が潰れそうなため、その宿の初代支配人であり、かつて宿王と呼ばれたリッカの父、リベルトを呼び戻すことだったらしい。しかしリッカによると、リベルトは2年前に亡くなっているという。
目的を果たせずショックを受けたルイーダだったが、彼女は気付いたようだ。リッカが切り盛りしているウォルロ村の宿屋が、とても居心地が良いということに。リッカが父譲りの経営手腕を持っているということに。
どうやらルイーダは、リベルトの替わりにリッカをスカウトすることに決めたようだ。
もしもリッカがセントシュタインに行ってしまったら、居候の私はどうなるんだろう?
しかしそれは些細なことだ。問題なのはリッカの気持ち。彼女は父から受け継いだウォルロ村の宿に強いこだわりがあるようだ。2人の利害が一致する方法なんてあるのだろうか。
そんなことを考えながら、天使時代のくせで村を巡回し、居候先であるリッカの自宅に戻ってきたとき、入口にたたずむ不審な人物を見かけた。
・・・って、あれ? あの人は見かけたことがあるぞ。たしかキサゴナ遺跡で力を貸してくれた、商人風の幽霊じゃないか。
わけありだと感じた私は幽霊に話しかけてみた。
私「私はヨシヒト。この家の居候で・・・」
と名乗ったところ、この村の守護天使と同じ名前だということで驚かれてしまった。そしてもちろん、幽霊である自分が見えるということにも。
・・・ま、守護天使本人だからね。ちなみに幽霊の正体はリベルトさんだった。
そんなとき、何者かがぶつかってきた。妖精のような羽根を持ったサンディという女性で、茶髪にガングロ、おまけにコギャル口調・・・って、こういう人と関わるのは全力で避けたいので、可能な限り彼女はいないものとして話を進めることを即決した。
ともかく元守護天使の私としては、幽霊のリベルトさんを放っておくわけにはいかない。彼を現世にとどめている未練とは何なのだろうか。本人いわく「宿屋の裏の高台に埋めたあれかな・・・・・・?」
そこでその場所を掘ってみたところ、彼が昔セントシュタイン国王から賜ったという宿王のトロフィーが見つかった。
リベルトの未練。それはかつて病弱だった娘のために、宿王としての夢を捨てたことだった。
トロフィーを見て、そしてリベルトが捨てた夢のことを祖父から聞かされて、父の夢を継ごうと決意するリッカ。彼女はルイーダの要請を受け、セントシュタインへと旅立つことを決断した。リベルトはそんな娘を見て安心したのか、成仏することができたようだ。
これはこれで、丸くおさまったといえるのかもしれない。・・・のだが・・・
・・・そうなると、居候の私はどうなるの?
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