≪2年目 秋の月 7日 (木) 晴れ≫
カレン「今ね、ヨシヒトのために ごはんのメニューを考えてるのよ。」
愛妻のこんな言葉を聞くと、背すじが寒くなるのはなぜだろう。条件反射というやつだろうか。
ちなみにカレンが私を呼び捨てで呼んでいるのは、私が早くも尻に敷かれているからではなく、2人でそう決めただけのことだ。私たちはまだ若く、また付き合いが短いこともあり、夫婦でもあり友人でもあるという関係でいたかったのだ。夫婦にも色々な形があっていいと思う。
≪2年目 秋の月 9日 (土) 晴れ≫
今日は収穫祭。みんなで材料を持ち寄って鍋料理を作るというお祭りだ。私の持参品はにんじん。冷蔵庫にはまつたけも入っているのだが、これはきっとカーターさんが持ってきてくれると思ったので、私は別の物にしたのだ。
さて、問題のカレンだが・・・それジャムじゃないのか?
カレン「きっとまろやかになると思うのよねー。」
去年はジャムを入れ損ねたので、今年こそはと思っているのだろうか。少しは料理がマシになったかと思っていたのだが・・・。
しかたがない。フタが開かないように、力いっぱい締めておこう。他人に迷惑がかからないようにするのも夫の務めだ。そしてカレンの殺人料理を封じ込めることこそが、私に与えられた使命なのだ。
今年のナベもおいしかった。カレンはというと、固く締まったフタを無理に開けようとして、ビンごと鍋に落としてしまったらしい。ビンはこっそり回収したそうなので問題なしだ。
しかし前回と同じ祭りでも、夫婦で参加すると気分が違う。
うーん、このところノロケ気味だなぁ。ま、意識する相手がいることは悪いことじゃない。無理なく自分を高めていけるしね。
ラン「はぁー、くるしー。食べすぎちゃったよー。」
・・・こんな生き方も、魅力的ではあるけれど。
≪2年目 秋の月 12日 (火) 晴れ≫
羊祭りが近いので、羊の毛をコロボックル達に刈られないように、数日前から動物の世話を自分でしている。そして卵の回収をしていたのだが、奇妙な卵が1つ混ざっているのに気付いた。卵は普通白色で、コケッコの卵だけが光っているのだが、この卵は赤茶色なのだ。Pの卵が見当たらないのでコケッコが生んだ物だろうが、これはなんなのだろう。
調べてみるとXの卵という名前だけは判明したが、詳しいことは分からない。放牧を続けたので、Pよりもさらに高品質の卵を生むようになったのだろうか。それにしては、Pの卵だった期間が短すぎる。金の卵を完全に飛ばしたうえに、Pまでもう終わりなのだろうか。まあ、しばらく様子を見ることにしよう。
≪2年目 秋の月 13日 (水) 晴れ≫
今日のコケッコは、以前と同様にPの卵を生んでいた。昨日のXの卵は生み損ねだったのだろうか。エックスの卵ではなく、バツの卵だったというオチで。
・・・ゴホン。
さて、今日はお月見の日。去年は寂しい思いをしたのだが、今年は月見だんごを作ってカレンとお月見だ。村の人たちはみんな自宅からお月見をするらしく、マザーズヒルにいるのは私たち2人だけ。
実を言うと、私は花火や月見には興味がない。先日花火を見に行ったのは、花火ではなくカレンが目当てだったのだ。
・・・でもなぜだろう。今日は月がとても美しく見える。あの月を、この風景を、このままいつまでも見ていたい。そして彼女の側で、いつまでも幸せに浸っていたい。
これほど穏やかな気持ちになるのは初めてかもしれない。つい先日まで彼女は友人でしかなかったし、結婚してからも、私は自分をさらけ出すことを避けてきたから。彼女に相応しい夫であろうと、意識しすぎていたのかもしれない。彼女に嫌われるのを恐れているというのもあるだろう。この村が抱えるいくつもの問題を残したまま、自分だけが幸せを手に入れてしまったことに、罪悪感を感じていたことも事実だ。
明日になると、私はいつもの自分に戻っているだろう。でも今はすべてを忘れ、2人だけで過ごせる幸せをかみしめていたい。この場所も、ここからの風景も、そして流れている時間さえも、すべては私たち2人だけのためにある。そう思っても、きっとバチは当たるまい。
≪2年目 秋の月 14日 (木) 晴れ≫
・・・と思っていたらバチが当たった。なんと野犬が、いつもの山の方からではなく、反対の街の方からやってきたのだ。山側の橋の上にいた私はすぐに対応できず、野犬はポチに追いまわされながらも、家畜たちを次々に襲っていく。ああ、3頭も不機嫌にされた・・・。
野犬は山の生き物。異常なまでの生命力を考えると、マザーズヒルの神のお使いなのかもしれない。だとすると、これまで数え切れないほどハンマーで殴ってきたうえに、昨日はマザーズヒルを私物扱いしていた私に、タタリがあっても不思議ではない。
いや、まてよ。マザーズヒルの神ってだれだ? あの辺りで神というと・・・女神さま!?
そういえば、秋の月になってからはお供えした覚えがない。ああ、自業自得だったか。
≪2年目 秋の月 15日 (金) 晴れ≫
今日も一日働いて、ハラペコになって夕方に帰宅。今日の夕飯は難だろう。
・・・変換ミスがミスに思えないのはこの際どうでもいいのだが、テーブルを見ると、乗っているのはなぜかケーキとワイン。しかもケーキは1つしかない。
カレン「どう? おいしそうでしょ。今日は、うでによりをかけて作りました。どうしてでしょう?」
平日にケーキとワインだから何かの記念日なのだろう。しかし私の誕生日ではないし、結婚記念日であるわけがない。日記を読み直すとクリフの就職記念日のようだが、クリフは来ていないし、カレンが知っているとも思えない。すると・・・カレンの誕生日?
カレン「そうよ、あたり! いっしょにいわってくれるでしょ?」
ああ、もちろんだ。そうか、カレンが自分で作ったから、食べられるものが1つしかできなかったんだ。でもこれで十分だ。ケーキが1つしかなくても、分け合えば2人で食べられる。
それじゃあ、乾杯しよう。カレン、お誕生日おめでとう。
≪2年目 秋の月 16日 (土) 晴れ≫
最近の楽しみのひとつになっているのが、毎週土曜日に行われるアンナさんの料理教室だ。3回目となる今回は、プリンの作り方を教えてもらった。
家に帰った私は、早速作ってみる。この時間はカレンは雑貨屋にいるから、一人分でいいだろう。カレンは甘いものが好きじゃないそうだし。
そういえば、カレンは昨日、ケーキを作っていたな。甘いものが嫌いでお酒が好きだから、さとう抜きにしたりワインを大量に入れたりしたんだろうか。しょっちゅう失敗するわけだ。
≪2年目 秋の月 17日 (日) 晴れ≫
足が悪いエレンさんは、いつも家の中にいる。退屈しているのではないかと孫のエリィは心配していたが、実際には多くの人がエレンさんの家を訪れ、話し相手になっている。私もその一人で、毎日のようにお邪魔しているのだが、お土産を持っていったのは数えるほどしかない。そのせいか、今日はきつーい皮肉を言われてしまった。
エレン「ドクターは、薬草をとりに行ったついでに、きのこなんかをもって帰ってきてくれるのよ。」
私は今日、コロボックルに仕事を頼みに行ったついでに、まつたけを持って帰ってきてあげた。人付き合いというのは大変である。
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