≪1年目 春の月 10日 (火) 雨≫
ミネラルタウンに来てから初めての雨が降っている。天気予報によると明日も雨らしい。まあ、降る時にはまとめて降ってくれたほうが、仕事は楽になるんだが。
雨は動物にとっては憂鬱の雨だが、作物にとっては恵みの雨だ。ちなみに水やりをしなくてすむ牧場主にとっては、怠惰の雨でもある。あー、らくちん、らくちん。ヒマだから、マザーズヒル(裏山)に登ってみるかな。
へー、いい景色じゃないか。湖はあるし、花園はあるし、山頂からは付近が一望できる。
おや? 遠くに見える集落はミネラルタウンなのか? それとも近くにある別の村なのか?
・・・などとはしゃいでいたのも初めだけ。雨のせいか動物はいないし、期待していた山菜もたけのこが3つだけ。そのうち1つを味見していたとき、カッパがどうとか街で言っていたのを思い出した。そんなものが本当にいるのだとすれば、ここの湖が一番怪しい。いま育てているきゅうりができたら、カッパ探しにきてみよう。
山を降りる途中で、木こりのゴッツさんの家にお邪魔する。おや、警官のハリスさんまで来ているじゃないか。え、山へ行くつもりなら、雨の日は危ないからやめろって? もう、遅いってば。
そういえばゴッツさんに頼めば、家や家畜小屋を増築してくれるって話だな。お金なんてないんだが、値段表くらいは見せてもらっておくか。
えーっと、やっぱりどれも手が出ないな。ふーむ・・・は? 別荘100000000G!? い、いちおくって、あのですね。そんな物、買えるわけがないじゃないですか。
桁違いの金額を見てショックを受けた私は、ゴッツさんの家に立ち寄った理由を忘れてしまっていた。そしてたけのこのお裾分けに行ったことを思い出したのは、たけのこを全部、出荷箱に入れてしまった後だった。
・・・私は悪くないよね?
≪1年目 春の月 11日 (水) 雨≫
予報どおり朝から雨が降っている。今日ものんびりできそうだ。
外に出てみるときゅうりが実っていた。きゅうりは好きな野菜なので、1つ目は自分で食べてみることにする。えっ、どうせまた丸呑みしたんだろうって? 当たり前じゃないか!
適当に収穫を済ませると、残しておいたきゅうりをリュックに詰めて、カッパ探しにマザーズヒルの湖に向かう。カッパなんてと思われるかもしれないが、実は信憑性のある話なのだ。というのも、話の出所がシェフネンだから。シェフネンというのは、教会の裏に住んでいる森の妖精コロボックル(注)の1人で、見た感じは無邪気な小人さんだ。で、そんなコロボックルが7人も暮らしているミネラルタウンになら、カッパがいたところで不思議ではないし、妖怪のことはコロボックルたちが一番詳しいのではないかとも思うのだ。
話がそれたが、ともかく湖にきゅうりを投げ込む。
おわっ!? 突然、湖がまぶしく輝き、私の目をくらました。やがて視力を回復した私が見たものは、こちらを見つめているかっぱだった。
かっぱは無言で湖に潜っていった。
・・・これだけ?
納得できない私は、もう一度きゅうりを投げ込む。しかし目の前にぬおーっと出てきたかっぱは、「もうくるな」などといいやがる。こら、お前はどんな教育を受けて育ったんだ? 人から物をもらったときは、「ありがとう」と言うのが礼儀ではないのか?
もっとも私だったら女装して、「あなたが落としたのは金のきゅうりですか? それとも銀のきゅうりですか?」などと言ってからかうのだが。
山をおりて鍛冶屋へ行くと、マリーが来ていた。ここで修理してもらった道具の調子がよく、わざわざ御礼を言いにきたらしい。かっぱにはマネのできない行動だ。しかしここのサイバラさんは、それほどまでに腕がいいのか。うちの道具も見てもらおうかな。
などと考えていると、仕事をしていた孫にして弟子のグレイが怪我をした。すぐにマリーに手当てをしてもらったのだが、なんだかグレイの様子がおかしい。
・・・さては、マリーに惚れたな?
春の若者らしい光景を見て、「ちくしょー、私だって!」と思い、鍛冶屋を飛び出すとまっすぐに雑貨屋へ向かう。やあ、カレン!
カレン「どうも。」
え、えーっと・・・。
カレン「何か用ですか?」
・・・なんでもないです。
しかし今日はお客さんが多いな。時間帯のせいだろうか。みんな買い物を楽しんでいるみたいだから、私も一緒に楽しもうかな。もちろん無駄遣いする余裕はないので、楽しむのは世間話だけど。
ということで、隣にいた主婦にご挨拶。・・・しまった、この人マナさんだ!
案の定、夫がここでツケをしてどうのこうのと、延々と愚痴を聞かされてしまった。
ぜぇ、ぜぇ、これからは相手を確認してから声をかけなければ・・・お、エリィがいるじゃないか。エリィは買い物ついでに、ドクターのツケを返しにきたらしい。
しかし2人もツケの話をするということは、この店はツケがきくのだろうか。店主であるジェフさんの、いかにも気が弱そうな接客態度を見ると、単に断れないだけのように思えるのだが。しかしミネラルタウンの連中もひどいもんだな。人の弱みに付け込んで、のうのうと暮らしているなんて。
今日ここにきたのは、本当はカレンに会うためではなくリュックを買うためだ。そう、ついに所持金が3000Gを越えたのだ。もちろん現金で購入して、さっそく装備。不要になった小さなリュックは、無料で引き取ってもらう。今はごみを処分するのにもお金がかかる時代だからな。それを考えると親切なお店だ。こんな良心的なお店を困らせるなんて、私にはできやしない。他の全員がツケで買い物をしようと、私だけは現金で買い続けるぞ。カレンにいいところを見せたいからだなんて、これっぽっちも考えていないぞ!
帰宅の途中で図書館によってみると、鍛冶屋見習いのグレイが本を読みに来ていた。マリーが目当てなのは見え見えなんだが、どうやら本の面白さにも気付いたらしい。この2人、案外うまくいくかもしれないな。
波乱万丈の一日だったが、実はもう1つ大きな出来事があった。それはザクさんから釣り竿をもらったことだ。今はまだ牧場のことで精一杯だけど、雨の日のようにヒマな時には、釣りをしてみたいと思う。そして腕を上げたらきゅうりをエサにして、マザーズヒルの湖で、かっぱを狙って一本釣りだ!
注:本来のコロボックルは、コロポックルなどともいわれるアイヌの神・・・というか、妖精というか、物の怪というか、ともかくそういう小人。名前の意味は、フキの葉の下に入れるほど小さいとかなんとからしい。非常にうさんくさい解説だ。
≪1年目 春の月 12日 (木) 晴れ≫
今日は私の誕生日。こんな日に限って何事もなく終わる。
な、なぜ!?
≪1年目 春の月 13日 (金) 晴れ≫
今日は忙しいぞ。なにしろじょうろを改造に出す予定だからな。鍛冶屋が閉まるまでに仕事を終わらせなければ。
などと気合を入れて水をまいたところ、大して時間をかけずに終わらせることができた。うちの畑、狭いからな・・・。
そして鍛冶屋へ。
昨日のうちに準備していた材料とお金を渡して、銀のじょうろをお願いする。
・・・ふと思いついたのだが、オノの改造は近くの泉でできないだろうか。あそこには女神さまが住んでいるらしいから、オノを落とすと「あなたが落としたのは、この金の斧ですか? それとも・・・」ってな具合に。でもオノを落とすって危ないよな。もし女神さまが、出てくるんじゃなくて浮かんできたらどうしよう。
結局、気が向いたら試してみることにし、余った時間の使い道を考えることにする。そういえば、畑がまだ9面しかできていないな。これでは収入が少ないのも当然だ。しかし全部で25個もある巨大な切り株や岩がじゃまで、どうにもならないし・・・。とりあえず、石と枝を処分することから始めようか。
私はオノとハンマーを取り出すと迷路状の草むらを駆け回り、ときには飛び越え、じゃまな物を片っ端から叩き潰していく。
おっ、これって面白いじゃないか。それザクッ! ほれバコッ!
気が付くと0時を回っていた。しまった、午後の番組を見損ねた。
≪1年目 春の月 14日 (土) 晴れ≫
今日は春の感謝祭。お世話になっている女の子にクッキーをあげる日らしいのだが、お世話になったことがある人はいても、お世話になっている人はいないため、あげるのは来年からということにする。・・・どうせクッキーなんて作れないし。
土曜日はテレビショッピングが放送される。今回の売り物は時計なのだが、値段は2000G。現在の所持金は3000Gほどで、鏡の時のような運命は感じないので、買わないことにする。
・・・実を言うと私は神も運命も信じておらず、前回は物欲に負けたことをごまかしただけなのだが。
気が付くとたまっていた3000Gをなんに使おうか。5000Gする収穫用のかごを買うために貯金しておいてもいいのだが、少しでも早く買い物がしたい。
ということで、にわとりりあへ鶏を買いに行く。鶏は1500Gか。よし、買った!
さて名前は・・・鶏といえば、騒がしくてやかましいくらいのイメージしかないなぁ。そんなイメージにピッタリの名前と言えば・・・。
命名:エディシア
さて、ばれたときの言い訳はなんにするかな。
「色白で、いつか大空に羽ばたくことを夢見ている、きみのイメージとピッタリだったのさ!」
・・・ムリだろうな、やっぱり。
結局、名前はコッコにした。
さあ、これからが大変だ。ほったらかしでもよかった犬や馬とは違い、鶏にはきちんとした世話が必要だからだ。まずは牧場の一角に鶏用の柵を作る。しかし1度に杭を5本ずつしか運べないのだから大変だ。なんども資材置き場へ行き、杭を取ってきては地面に埋め込んでいく。
ようやく柵が完成してコッコを探すと、柵から遠く離れた草むらで眠っていた。まったく、手間をかけさせやがる。
コッコを柵の中まで運ぶと、ついでに近くで寝ていたポチも柵の中に放り込む。時計を見ると0時を回っていた。ああ、今日も午後の番組が見られなかったか。
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