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   実は、サンジは王子様だったりする。

   バラティエ王国国王を祖父に持ち、その後継ぎとなるべく生まれた生粋の王族だった。

   命を狙われたのも、コレが初めての経験ではない。

   そんなワケで、凶悪面した賊が寝室に侵入しても取り乱す事は無かった。

   そっと枕もとに置いてあるタバコ入れへ手を伸ばすと、ランプの灯り取りから

   取った火をつけ、ゆったりと煙を吐き出しながら一服を始めた。


   「……で、国王を差し置いて、先に俺を殺すのに、何かメリットってのはあるのかい? 」

   サンジは、賊に視線を向けると、饒舌に話し始めた。


   「この国を治めているのは、あのクソジジィだ。」

   「まあ〜放っておいても、この先、二百年は生きそうだけどな。だからと言って、

    俺の方へ暗殺に来るって〜のは、筋違いだと思うねぇ。」

   「それでも殺したいなら、仕方ねぇ〜けどなぁ。俺がいなくなっても、この国は

    変わらねぇ〜ぞ。」


   「それに……。」

   サンジは咥えタバコのまま、緑の髪の賊へ向かって睨みつけると、口調を荒げて言った。

   「眠っている俺様にあんな事をして、変態なのか! お前は!! 」

   「うわ〜思い出しただけでも気色悪い!! 」

   サンジが、男とのキスを思い出して鳥肌を立てていると、緑頭の賊は、仏頂面ですっと

   サンジの背後の壁を指差した。


   サンジがつられて振り向くと、白い壁にはピンクの文字がデカデカと書いてあった。

   それは色褪せてはいたが、ピンク色の口紅で書かれたらしい文章で、

    明らかな女文字だった。





  ここに辿り着いた勇敢な冒険者さんへ


おめでとう! 素晴らしいわ!

自力で森を抜けるなんて、本当に強い戦士と

思うのだけど、どうかしら?


貴方は、バラテェエ王国の王子を100年ぶりに

目覚めさせるイベントへの参加資格が
あります。

このフラッグが立つなんて、凄いラッキーな星の元に

生まれた人ね。うらやましいわ!



ここまで来たら、必ずベッドに眠っている

金髪の王子様にキスしてちょ〜だい。

そうしないと、この城からは、絶対に出られないの。

必須イベントだから頑張ってね。




西の森の美しい魔女 ナミより




   「ナミしゃん?! 」

   サンジは素っ頓狂な声を上げた。そして、徐々に記憶が戻ってきた。

   パラティエ王国は、百年前に近隣の国に攻め落とされたのだ。

   その時、唯一助かったサンジは、王室呪術師だったナミに魔法をかけられた。


   そして、サンジがこのベッドで眠りにつく直前に、ナミが耳元で確かに囁いたのだ。

   「サンジ君、百年後、貴方は、必ず目覚めると思うんだけど……。」

   「その時に出会う人はね。サンジ君の《 運命の相手 》になると思うから……。」

   サンジは、薄ぼんやりとした意識の中で聞いていたが、あまりに強烈な内容だったので、

   ナミの言葉の細部まで良く覚えていた。


   ナミの話では、サンジを目覚めさせる相手は。

  《 サンジを心から思ってくれて、一生サンジの力になってくれる人 》らしい。

   だから、女性ならば、《 将来の妻 》、男性ならば、《 信頼できる従者 》が

   やってくるのだと、サンジは思っていたのだった。


   (うわ〜どっちにも思えねぇ。)

   (……つ〜か思いたくねぇ。)

   (こんな奴と一生、俺は付き合うのかよ?! )

   (変なヤツが来ちゃったよぉ。どうすんだよ〜ナミさん! )

   ベッドの中でスパスパ寝煙草をしながら、物思いに耽るサンジ王子だった。

   質問したくても、当事者のナミとは、百年も前に別れたので、今さらどうしようも無い。

   それにナミも、もうこの世にはいないだろう。

   (それにしてもな〜ナミさん。)

   (もう少し違う魔法の解き方にしてくれよぉ! )

   先ほどの熱烈なキスを、この凶悪面の緑コケ頭としたかと思うと、気分が滅入って

   仕方無かった。


   サンジの脳裏には、悪戯好きの小悪魔のようなナミが、チャーミングにウインクしている

   姿が浮かんでいた。


   もう二度と会う事の無い懐かしい人を思い出して、サンジは涙がこぼれそうな

   切ない気分になっていた。




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