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   <第2話> 荊の城の王子様



   サンジがベッドで目覚めた時に、最初に感じたのは、自分の身体に圧しかかる重圧と、

   唇に感じた温かさだった。


   相手は誰だか知らないが、久しぶりに触れた人の体温だったので嬉しくなってしまった。

   そのまま腕を相手の背に回すとしっかりと抱き締め、ねだるようにその唇を自分から

   強く吸った。
相手は、少し驚いた様子で緊張すると動きを止めた。

   しかし、サンジが強引に舌を差し入れて口蓋をゆっくりと愛撫すると、相手もそれに

   応じるように、サンジの口内へ舌を忍ばせてきた。


   そのまま、お互いの存在と、熱い舌の感触を味わうようにねっとりと舌を絡ませ合った。

   見知らぬ相手は、サンジの舌を激しく吸い上げ、歯列や口蓋をゆっくりと嘗め回した。

   飲み込めなかった唾液を口唇から滴らせながら、サンジも夢中になっていた。

   積極的なレディだな〜なんて夢見心地で思ったりする。

   城に出入りする淑女達は、上流階級出身の上品な物腰の人ばかりだった。

   だから、このような激しいと言うか、野性的なキスは初めてだったのだ。


  (食われてしまいそうな、もの凄いキスだな。)

   テクニックはさして無かったが、サンジの舌を吸い上げる力は驚くほど強い。

   おまけにその熱い舌は、ずっと奥まで侵入して、サンジを内部から翻弄していた。

   息継ぎをする暇も無い。

   さすがに辛くなって、サンジは顔を横に背ける。

   すると相手はサンジの顎を掴み、凄い力で上を向かせ、また口内へ舌を差し入れきた。

   侵入した舌はもっと奥まで進もうと進撃中だし、いつの間にか抱き締められていた体も

   万力で締められたように身動きが取れず、サンジは苦しくて仕方無くなった。


   (ちょっと待った。ホントに苦しい! )

   サンジは相手の胸を押して身体を離そうとしたが、石像のようにピクリとも動かなかった。

   (なんだこの馬鹿力は?? )

   (本当にレディなのか? )

   (と言うより人間なのか? )

   (っつーか死ぬ!! )

   サンジは相手の背を両手でバンバン叩いたり、最後にはわき腹に蹴りも入れていた。

   酸素欠乏でサンジが朦朧状態になった頃、やっと相手が離れたので、思わず息も

   絶え絶えで非難がましく訴えてしまった。


   グェ〜、ケホケホ……俺を……殺す……気か? 」


   するとその相手は、サンジには意味不明な返事を返してきた。

   「まあ〜お前が敵ならそうなるな。この城の主なのか? 

    お前が森の化け物どもの親玉……ボスキャラなのか? 」


   その声は太い男の声で、それも得体の知れない殺気を込めていた。

   サンジは苦しさのあまり涙の浮かんだ目で、その男をじっくりと眺めてみた。

   最初に目に入ったのは、森の木がそこに立っているのかと思うほどの立派な

   《 緑の髪 》だった。


   そのまま視線を下へ進めると、目つきの悪い凶悪面に、ジジシャツに腹巻。

   そして、腰に下げた三本の刀に気がついた。


   (ゲッ! 盗賊なのか?! )

   (うわ〜ヤバイ面してんな〜コイツ……。)

   その冷たい瞳は、獲物を狙う獣のように思える。

   きっと、目の前でサンジが死んだとしても、この男は動じる事は無いだろう。

   これは、人を殺して生きてきた人間の目だと、サンジはすぐに思い当たった。

   サンジは立場上、様々な人を見て育ったのだ。

   国を治めるためには、そこに住む住人達についても良く知っていなければならない。

   現国王が、民と接するのを良しとしていた好漢だったので、サンジも幼い頃から、

   宮殿以外で生活する人々とも対話するように努めていた。


   この男の雰囲気は、国王軍の軍人に近いモノがあった。

   それも正式な所属軍人では無く、金で雇われている傭兵に良く似ている。

   どちらにせよ、戦う事により生きている人間だろう。


   サンジは自衛のために身につけていた体術には、かなりの自信があった。

   しかし、自分が正面からぶつかって、果たして逃げ切れる相手かどうかも瞬時に理解した。

   この男の相手はかなり厳しい。

   (さぁ〜て、この事態をどう処理するモンかね? )





                                 
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