1ページ目/全2ページ <第2話> 荊の城の王子様 サンジがベッドで目覚めた時に、最初に感じたのは、自分の身体に圧しかかる重圧と、 唇に感じた温かさだった。 相手は誰だか知らないが、久しぶりに触れた人の体温だったので嬉しくなってしまった。 そのまま腕を相手の背に回すとしっかりと抱き締め、ねだるようにその唇を自分から 強く吸った。相手は、少し驚いた様子で緊張すると動きを止めた。 しかし、サンジが強引に舌を差し入れて口蓋をゆっくりと愛撫すると、相手もそれに 応じるように、サンジの口内へ舌を忍ばせてきた。 そのまま、お互いの存在と、熱い舌の感触を味わうようにねっとりと舌を絡ませ合った。 見知らぬ相手は、サンジの舌を激しく吸い上げ、歯列や口蓋をゆっくりと嘗め回した。 飲み込めなかった唾液を口唇から滴らせながら、サンジも夢中になっていた。 積極的なレディだな〜なんて夢見心地で思ったりする。 城に出入りする淑女達は、上流階級出身の上品な物腰の人ばかりだった。 だから、このような激しいと言うか、野性的なキスは初めてだったのだ。 (食われてしまいそうな、もの凄いキスだな。) テクニックはさして無かったが、サンジの舌を吸い上げる力は驚くほど強い。 おまけにその熱い舌は、ずっと奥まで侵入して、サンジを内部から翻弄していた。 息継ぎをする暇も無い。 さすがに辛くなって、サンジは顔を横に背ける。 すると相手はサンジの顎を掴み、凄い力で上を向かせ、また口内へ舌を差し入れきた。 侵入した舌はもっと奥まで進もうと進撃中だし、いつの間にか抱き締められていた体も 万力で締められたように身動きが取れず、サンジは苦しくて仕方無くなった。 (ちょっと待った。ホントに苦しい! ) サンジは相手の胸を押して身体を離そうとしたが、石像のようにピクリとも動かなかった。 (なんだこの馬鹿力は?? ) (本当にレディなのか? ) (と言うより人間なのか? ) (っつーか死ぬ!! ) サンジは相手の背を両手でバンバン叩いたり、最後にはわき腹に蹴りも入れていた。 酸素欠乏でサンジが朦朧状態になった頃、やっと相手が離れたので、思わず息も 絶え絶えで非難がましく訴えてしまった。 グェ〜、ケホケホ……俺を……殺す……気か? 」 するとその相手は、サンジには意味不明な返事を返してきた。 「まあ〜お前が敵ならそうなるな。この城の主なのか? お前が森の化け物どもの親玉……ボスキャラなのか? 」 その声は太い男の声で、それも得体の知れない殺気を込めていた。 サンジは苦しさのあまり涙の浮かんだ目で、その男をじっくりと眺めてみた。 最初に目に入ったのは、森の木がそこに立っているのかと思うほどの立派な 《 緑の髪 》だった。 そのまま視線を下へ進めると、目つきの悪い凶悪面に、ジジシャツに腹巻。 そして、腰に下げた三本の刀に気がついた。 (ゲッ! 盗賊なのか?! ) (うわ〜ヤバイ面してんな〜コイツ……。) その冷たい瞳は、獲物を狙う獣のように思える。 きっと、目の前でサンジが死んだとしても、この男は動じる事は無いだろう。 これは、人を殺して生きてきた人間の目だと、サンジはすぐに思い当たった。 サンジは立場上、様々な人を見て育ったのだ。 国を治めるためには、そこに住む住人達についても良く知っていなければならない。 現国王が、民と接するのを良しとしていた好漢だったので、サンジも幼い頃から、 宮殿以外で生活する人々とも対話するように努めていた。 この男の雰囲気は、国王軍の軍人に近いモノがあった。 それも正式な所属軍人では無く、金で雇われている傭兵に良く似ている。 どちらにせよ、戦う事により生きている人間だろう。 サンジは自衛のために身につけていた体術には、かなりの自信があった。 しかし、自分が正面からぶつかって、果たして逃げ切れる相手かどうかも瞬時に理解した。 この男の相手はかなり厳しい。 (さぁ〜て、この事態をどう処理するモンかね? ) ![]() 小説目次ページへ戻る 2ページ目へ進む |