2ページ目/全3ページ





   このゲームは敵と味方に別れて、仲間を奪い合うわけだが、最初から波乱含みだった。

   サンジはビビのチーム、ゾロはナミのチーム、と敵同士になった。

   しかし、この二人の男を使命する女性はいなかったのである。

   理由は、不機嫌なゾロの恐ろしい表情を見て、女子が誰も怖がって指名しないせい。

   そして、サンジと手をつなぐと、無意味に接触を計ろうとするので、嫌がられたためだった。

   結局、同じような女の子が行ったり来たりするだけで、あまりゲームが展開していない。

   ナミは、この二人を入れたのは失敗だった、と後悔していた。

   そのウチに、ビビとサンジは二人きりになってしまった。

   サンジはビビと大接近して大喜びだったが、ビビはかなり困った様子だったので、

    ナミは早速助け船を出す事にした。


   勝負事にやたら強かったナミは、また勝利し、指名権を獲得した。

   そして、ついに「サンジ君」と指名した。

   ナミに名前を呼ばれたサンジは、よほど嬉しかったらしく、まるでバレリーナのように身体を

    くねらせながらやってきた。

    《 喜びの舞 》 を踊っているらしいが、不気味なだけだった。


   ゾロは、サンジの頭は年中、春なのだと思っている。

   そんなご機嫌なサンジに対して、ナミはこんな指示を出した。

   「あ〜サンジ君は、端にいるゾロの隣ね。」

   ナミと手を繋ごうとしていたサンジは、その言葉で、塩をかけられたナメクジのように、

    みるみる萎れてしまった。
 

   しかし、ナミの命令は絶対だったので、サンジは蜘蛛を見つけた時のような、

    嫌そうな顔をしてゾロのそばに近づ
くと、観念して手を繋いだ。

   普通、男同志では、ほとんど「手を繋ぐ」なんて出来事は起こらない。

   「うわ〜、何で、てめぇ〜と手を繋がないとならね〜んだよ! 」

   キレてわめくサンジに、ゾロも睨み返した。

   「テメェが、《 はないちもんめ 》 をやりてぇ〜って言ったからじゃね〜か! 」

   二人の男は、力強く手を握り合いながら、険悪に睨みあっていた。

   二人は 《 はないちもんめ 》 が、こんなに恐ろしいゲームとは、今まで考えた事も無かった。



   サンジはゾロの手を握りながら、不快指数が上昇するのを感じていた。

   ゾロの手は大きくて、ゴツゴツとやたら硬い。実に男らしい手をしていた。

   腕も、まだ八歳の癖に、少し筋肉なんかもついている。

   毎日、休まずに剣道の練習で鍛錬を積んでいるせいだが、サンジは悔しくてならない。

   サンジもこんな男らしい腕になりたかった。

   早く大きくなって、うんと料理がしたかったからだ。

   料理をする、と言う事は、筋力と体力をかなり使うのである。

   片手で振るフライパンも、生地を麺棒で伸ばす時も、ボールでクリームをあわ立てる時も、

    全身のバネと力とリズムが必要だった。


   まだ、小さかったサンジには、何一つ取ってもまともには出来なかった。

  ( くっそ〜、コイツには絶対に負けねぇ。俺だって、鍛えて凄い腕になってやるぜ! )

   そんな事を決意するサンジだった。



   一方、同じ時に、ゾロは全く違う理由で困惑していた。

   サンジの手は、男の癖に妙に柔らかくてスベスベしているのだ。

   今まで考えた事も無かったが、小さくてとにかく細い。

   指も手首も細く、自分の手の中にスッポリ入っている。

   サンジのデカイ態度とは大違いの、可愛らしい手だったのだ。

   ゾロは握っているうちに、手の平と背中に変な汗をかいてきた。

    身体がポッと火照るような、変な気分になってしまうのだ。


   さらに、至近距離でサンジと睨み合っていたので、すぐそばに、その白い顔がある。

    澄んだ綺麗な青い瞳を、サンジはゾロに真っ直ぐ向けていた。


   ゾロは何だか、サンジの顔から視線を背けてしまった。

   突然、恥ずかしくなってしまったのだ。

   ゾロは、この時、サンジに対して初めて 《 可愛い 》 なんて、奇妙な事を思ってしまった

    からだった。


   (そりゃ〜何なんだ? 何、怖い事を考えているんだよ。)

   自分でも不可解としか思えない感情に、ゾロはうろたえていた。

   ゾロは、その時からますますサンジが苦手になってしまったのだ。



    その日の 《 はないちもんめ 》 は、勝負師のナミの一人勝ちで終わり、お開きとなった。


    しかし、ゾロもサンジもゲームとは全く異なる事に気を取られてしまい、その日は、一日、

    不思議な気分にひたっていた。


   結局、プールにも行かずに、それぞれの家へと帰ってしまった。

   その日の《 はないちもんめ 》を二人は、ずっと後まで覚えていた。

   小さい頃の記憶は成長するにつれ、曖昧になる物なのだが。

   二人は十年以上経っても、しっかりと覚えていた。




                             
         1ページ目へ戻る             3ページ目へ進む