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  だから坂道でサンジに会った時に、「マズイ奴に会っちまった」とゾロは思った。

  それで、とっさに着替えの入った袋を背中に隠してしまったのだ。

  目ざといサンジがそれを見逃すはずが無い。

  「なあなあ、その袋って何だよ??」

  サンジは好奇心旺盛なので、隠そうとすると余計興味を持つのだった。

  ゾロが持っている<お風呂セット&着替え>が気になる様子で、しきりに袋の口を引っ張って

  覗こうとしている。観念してゾロは袋を開いて見せる事にした。そうしないと、いつまでも

  この場所から動けそうにない。

  サンジは興味深そうに、袋の中をひとしきり漁ると、ビニル袋に入ったゾロのパンツを取り出して、

  何が楽しいのかケタケタ笑ったりしていた。

  「お前、パンツを土産にして、ドコ行くんだよ?」

  ゾロの黒いボクサーパンツをヒラヒラと振りながら、そう訊ねてきた。

  ゾロはそれをひったくると袋にしまいながら、ぶっきらぼうに答えた。

  「銭湯に行くんだよ」

  「何ィ〜銭湯だと??」

  とたんにサンジの顔が嬉しそうにパア〜と明るくなり、青い眼なんか瞳孔まで開いてしまっている。

  何かロクデモナイ事を思いついた顔だった。

  「オモシロそうじゃね〜か。何で俺を誘わね〜んだよ?」

  「何でテメェを誘わなきゃならね〜んだよ?」

  ゾロの切り替えしも完全に無視して、サンジは坂道を駆け上がりながら大声で言った。

  「よ〜し、着替えを取ってくるからソコで待ってろよ!!」

  「だから、どうしてテメェと行かないとならね〜んだよ!!」

  ゾロが叫んだ時には、サンジの後ろ姿は見えなくなっていた。

  (少しは人の話を聞けよ!)

  (あのアホ眉毛!)

  自分勝手なサンジに対して心で毒づきながら、ゾロはそれでも律儀にサンジを待っていた。

  別に無視して一人で銭湯へ行けばすむのだが、ゾロはそういう事の出来ない人間だったのだ。

  クラスメート達はゾロを<約束フェチ>と言っていた。

  命名はサンジだったが、ゾロがそんな事を知るよしもない。




  ゾロが怒りながら15分ほど待っていると、サンジが息を切りながら坂道を駆け下りてきた。

  ゾロの顔を見るとニンマリと笑い、持っていた小さな紙袋をポンッと投げてよこした。

  「腹が減ってるだろ? それ食ってみな」

  ゾロが袋を開くと、クッキーが10枚ほど入っていた。

  「どうしたんだ?」

  「今日、学校でみんなと作ってたんだよ。調理室借りてな」

  みんなってのはクラスの女子の事だろうな〜と、ゾロは思った。

  とにかく腹が空いていたので、クッキーを鷲づかみにして頬張った。

  ほんのりとした甘さが口に中に広がる。ゾロの取った物はチョコチップの入ったクッキーらしく、

  香ばしいチョコの甘さと苦味も実に良い感じだった。

  ゾロがリスのように頬を膨らませて、クッキーを食べている様子をサンジはじっと見つめていた。

  それから、しばらくして真剣な表情で訊ねてきた。

  「なあ、そのクッキー美味いか??」

  「おお、美味いぞ」

  ゾロがそう返事をすると、サンジは頬を少し赤くして嬉しそうにニコニコと笑った。

  それから、ちょっと照れたように下を向いてしまった。

  「へへへ〜そうか?」

  普段の生意気そうな表情と違って、とても幼い子供じみた顔だった。

  ゾロがサンジと出会った5歳の頃から、サンジのそういう所は変わっていない。

  料理を褒めた時だけ、素直な表情をして喜ぶのだ。

  ゾロはそんなサンジなら、別に付き合っても悪くは無いと思っていた。

  (いつもそういう面してりゃ〜良いのに)

  (俺だって、腹立つ事も無いんだがなぁ)

  (それこそ、腐れ縁だしな)

  (仲良くしてやっても良いんだ)

  ゾロが突っ立ったまま、そんな事を考えていると、突然、尻を力いっぱい叩かれた。

  「ボサッとすんなよ! 早く行こうぜ! 風呂が冷めちまう」

  「冷めるか、そんなモン!!」

  先に走りだしたサンジを追いかけて、ゾロも慌てて駆け出した。

  途中で、口の中のクッキーの粉が気管に入り、激しくムセ込んでしまった。

  サンジは面白がって笑っていたが、ゾロは危うく間抜けな死を向かえ
る所だった。



                                 
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