2ページ目/全5ページ だから坂道でサンジに会った時に、「マズイ奴に会っちまった」とゾロは思った。 それで、とっさに着替えの入った袋を背中に隠してしまったのだ。 目ざといサンジがそれを見逃すはずが無い。 「なあなあ、その袋って何だよ??」 サンジは好奇心旺盛なので、隠そうとすると余計興味を持つのだった。 ゾロが持っている<お風呂セット&着替え>が気になる様子で、しきりに袋の口を引っ張って 覗こうとしている。観念してゾロは袋を開いて見せる事にした。そうしないと、いつまでも この場所から動けそうにない。 サンジは興味深そうに、袋の中をひとしきり漁ると、ビニル袋に入ったゾロのパンツを取り出して、 何が楽しいのかケタケタ笑ったりしていた。 「お前、パンツを土産にして、ドコ行くんだよ?」 ゾロの黒いボクサーパンツをヒラヒラと振りながら、そう訊ねてきた。 ゾロはそれをひったくると袋にしまいながら、ぶっきらぼうに答えた。 「銭湯に行くんだよ」 「何ィ〜銭湯だと??」 とたんにサンジの顔が嬉しそうにパア〜と明るくなり、青い眼なんか瞳孔まで開いてしまっている。 何かロクデモナイ事を思いついた顔だった。 「オモシロそうじゃね〜か。何で俺を誘わね〜んだよ?」 「何でテメェを誘わなきゃならね〜んだよ?」 ゾロの切り替えしも完全に無視して、サンジは坂道を駆け上がりながら大声で言った。 「よ〜し、着替えを取ってくるからソコで待ってろよ!!」 「だから、どうしてテメェと行かないとならね〜んだよ!!」 ゾロが叫んだ時には、サンジの後ろ姿は見えなくなっていた。 (少しは人の話を聞けよ!) (あのアホ眉毛!) 自分勝手なサンジに対して心で毒づきながら、ゾロはそれでも律儀にサンジを待っていた。 別に無視して一人で銭湯へ行けばすむのだが、ゾロはそういう事の出来ない人間だったのだ。 クラスメート達はゾロを<約束フェチ>と言っていた。 命名はサンジだったが、ゾロがそんな事を知るよしもない。 ゾロが怒りながら15分ほど待っていると、サンジが息を切りながら坂道を駆け下りてきた。 ゾロの顔を見るとニンマリと笑い、持っていた小さな紙袋をポンッと投げてよこした。 「腹が減ってるだろ? それ食ってみな」 ゾロが袋を開くと、クッキーが10枚ほど入っていた。 「どうしたんだ?」 「今日、学校でみんなと作ってたんだよ。調理室借りてな」 みんなってのはクラスの女子の事だろうな〜と、ゾロは思った。 とにかく腹が空いていたので、クッキーを鷲づかみにして頬張った。 ほんのりとした甘さが口に中に広がる。ゾロの取った物はチョコチップの入ったクッキーらしく、 香ばしいチョコの甘さと苦味も実に良い感じだった。 ゾロがリスのように頬を膨らませて、クッキーを食べている様子をサンジはじっと見つめていた。 それから、しばらくして真剣な表情で訊ねてきた。 「なあ、そのクッキー美味いか??」 「おお、美味いぞ」 ゾロがそう返事をすると、サンジは頬を少し赤くして嬉しそうにニコニコと笑った。 それから、ちょっと照れたように下を向いてしまった。 「へへへ〜そうか?」 普段の生意気そうな表情と違って、とても幼い子供じみた顔だった。 ゾロがサンジと出会った5歳の頃から、サンジのそういう所は変わっていない。 料理を褒めた時だけ、素直な表情をして喜ぶのだ。 ゾロはそんなサンジなら、別に付き合っても悪くは無いと思っていた。 (いつもそういう面してりゃ〜良いのに) (俺だって、腹立つ事も無いんだがなぁ) (それこそ、腐れ縁だしな) (仲良くしてやっても良いんだ) ゾロが突っ立ったまま、そんな事を考えていると、突然、尻を力いっぱい叩かれた。 「ボサッとすんなよ! 早く行こうぜ! 風呂が冷めちまう」 「冷めるか、そんなモン!!」 先に走りだしたサンジを追いかけて、ゾロも慌てて駆け出した。 途中で、口の中のクッキーの粉が気管に入り、激しくムセ込んでしまった。 サンジは面白がって笑っていたが、ゾロは危うく間抜けな死を向かえる所だった。 |
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