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俺は、二度目の射精の余韻にひたり、息を乱しながら、実物の宍戸亮に向かって、
綺麗なままの左手を差し出した。
彼は、一瞬、不思議そうな顔をして、それでも、その手を握り返してくれた。
俺は、強く彼の腕を引き、このまま抱き締めようと考えていた。
そして、力づくで組み敷いて……。
俺は、その時、とてつもなく邪な考えに囚われていた。
彼を犯したい。
溢れる精を、彼の中で放ちたい。
彼の身体も心も、自分の物にしたい。
美しい彼を、汚してしまいたい。
一体、いつから、彼に対して、このような欲望を持っていたのだろうか?
けれども、そんな暴力的な行動を実行する前に、保健室にやってきた日吉若の
おかげで、正気に戻る事ができた。
日吉は、執事の黒沼と、自家用車の運転手である岩槻を連れてきていた。
大人二人で俺を毛布にくるみ、そのまま駐車場まで運ぶと迎えの車に乗せ、
ろくに宍戸亮と言葉をかわす事もなく出発した。
後部席に腰かけて、ぐったりしている俺に対して、隣に座った黒沼は、ゆっくりと、
俺の先祖の話をしたのだった。
そして、俺の奇病の正体を教えてくれた。
「長太郎様。何も心配なさらないでください。
これは、あなたのせいではありません。鳳家が長い年月かかえてきた遺伝性の
病なのです。 私は、これまで、あなた様を含め、三代の鳳家当主に
仕えてきました。 いつかは、この時が来るのもわかっておりましたので……。」
黒沼は、その言葉どおりに、このような事態を想定していたらしく、俺が保健室で
自慰をした事には、何も触れなかった。
それどころか、このような提案をしてきたのだ。
「長太郎様。 宍戸亮様のご両親には、すでに話を通してあります。
明日、彼を正式に屋敷に招く事になるでしょう。
これから、お二人で共同生活を行います。それが、病を治す最短方法なのです。」
俺は、黒沼の、この言葉に驚いてしまった。
いくら鳳家でそのつもりでも、当事者の宍戸亮が承諾するとは、
とても思えなかったからだ。
「大丈夫です。長太郎様、全て、私にお任せください。
あなた様は、ご自分の病を治す事だけ考えていれば良いのですよ。」
黒沼の話では、鳳家と先祖を同じにする宍戸家の人間にとって、当主と
同居する事は意味のある行動なのだと言う。
「あの方達にも、独特の遺伝病があるのです。その能力を受け継がれた方は、
大変マレです。 宍戸亮様は、その一人だと思われます。そのため、幼少期に
大旦那様が目をかけて、養子にしたくらいなのです。
宍戸亮様の能力を、我々は、『 共鳴 』 と呼んでおります。」
『 共鳴 』とは、簡単にいえば、こういう事である。
音は、空気中を伝わる振動である。 この振動に、ある一定の他の震動を重ねると、
それがゼロになり、やがて消えてしまう。
宍戸亮の能力は、俺のこの病を消し去ってしまう力があるのだと言う。
「そのため、鳳家では、古来より、この能力を持った相手を珍重しています。
宍戸家は、その中でも能力者が生まれる頻度の高い一族なので、鳳家では、
多くの出資をしてきました。 彼らの生活の面倒をみる事により、
その見返りとして、我々は、死の病から救ってもらうのです。」
俺は、今まで宍戸亮を、恋した相手とだけ考えていた。
そして、ただ、彼と仲良くなる事だけを望んでいた。
しかし、それが二人にある遺伝的な運命だったら、どうなるのだろうか?
黒沼は、有言実行するだろう。
明日、宍戸亮は、我が家にやってくるのだ。
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