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   俺は、たった一つだけ、黒沼に言え無い事があった。

   彼は、必死で俺の奇病を治そうとしているのが、良くわか
ったからだ。

   俺は、『 宍戸亮と同居する 』事に、実は、強い不安を感じていた。


   好きな相手と一緒に暮らすなら、幸せな事に思えるかもしれない。


   でも、俺は、それだけではないのだ。


   この感覚は、発病した人間にしかわからない事に違いない。


   あの時、保健室で熱にうなされていた俺は、普段とは全く別の思考を持つ人間に

   なっていたのだ。


   大切にしていた美しい人を汚そうとした。


   自分の欲望のまま、相手を犯そうとした。


   邪悪で、醜悪な自分がいたのだ。


   まるで、火山が噴火するような激しい衝動が自分の中に隠されている。

    それは、相手の身体を全て飲み込み、灼熱の炎で焼き尽くそうとする。


   俺は、感じていた。
 かつて、俺の先祖が施されたと言う『 房中術 』 だが。

   その廃れた理由は、たぶんこれだろう。


   果てる事の無い邪な欲望と、相手への激しい劣情。


   それに、全て支配されてしまう。


   この術は、性的な欲望を加速度的に増幅させ、男性は性欲が強くなり、

   射精してもなかなか萎えない。


   確かに、子供は多く作れるかもしれないが、相手の女性にしたら、

   たまったものでは無いだろう。
 そうして、愛する相手まで死なせてしまうのだ。

   俺は、宍戸亮に対して、優しくしたい。


   二人で愛を育みたい。


   同居したら、楽しい生活を送りたい。


   こういう穏やかな思いも、俺の心には、確かにある。


   しかし、それと同じように、彼を欲望のまま、壊そうとしている自分がいるのも、

   強く感じていた。


   この事を、執事である黒沼に説明しても、わかってもらえる自信は無かった。


   そのため、俺は、宍戸亮と一緒に暮らしても、早い時期で終局を迎える事も、

   いくらかは予想していた。


   それでも、たった一日で終わってしまうとは、いくら何でも考えていなかった。




    その7 〜二人の明日〜の巻 へ続く→ ただ今、作成中その3・邸内探索 



          
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