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   「嫌味ばかり言うボディガードほど酷くは無いね。人の恋路の邪魔を

   すると、こうなるんだ。良く覚えておくんだな。


   それから、ボディガードを雇ったのは、俺じゃあ無いぞ。文句があるなら、

   俺の父親に直接、言ってくれ。仕事を辞めるか、続けるかは、日吉の

   自由に任せるよ。」


   俺は、元来、こういう性格だ。


   鳳家の次期当主らしく、誰に対しても命令口調。幼少期から

   落ち着き払った態度が、子供らしくなく、可愛げも無く。

   傍若無人な振る舞いを良しとして生きてきた。


   けれど、人を愛する事を知って、少しずつ変わったのだ。


   日吉は苦笑すると、諦めたような顔をした。

   「恋路ねぇ。相手は、許婚の顔も名前も覚えていないようだけど……。

   なるほど、当主様の片思いって事情ですか?


   まあ、せいぜい頑張ってください。今のところ、悲恋の可能性が

   大きいですが……。
俺には、そんな事は関係無い。

   とにかく、金さえ入れてもらえれば、働きますよ。首にならないように、

   テニスも、それなりにやってみます。」


   ボディガードも負けてはいない。

   日吉若は、まだ子供の癖に、やたら抜け目なく、妙に肝の

   据わった男だと、俺は思った。



                   ★



   この日、俺は、日吉若のおかげで。五歳の誕生日に、祖父にオネダリ

   したプレゼントの中身を自覚する事になった。
祖父は、本気で、

   孫の俺に『 宍戸亮をプレゼントする 』つもりだったのだ。


   あの祖父の場合、自分の所業を取り消すと言う事は、絶対に無い。

   俺の性格を、百万倍ゆがめたような人物だったからだ。


   宍戸亮を、孫と釣りあいの取れる立場に置くため、わざわざ養子に

   してしまう人間なのだ。


   今は、隠していても、必ず、他人に知られる日が来るだろう。

   その時、彼を守ってあげられるのは、同じ境遇の自分し
かいない。

   そして、その事を伝えるにしても、宍戸亮と話す機会を

   作らなければならない。

   そのためには、テニス部に入部する事が近道だった。

   それも、彼と同等か、それ以上……。彼が視線をそらす事の

   出来ないくらい優秀なテニスプレーヤーにならなくては、駄目だった。



   俺は、……。

   心底、馬鹿に違いない。

   そのためだけに、家にテニスコートを作り、これから、必死になって、

   テニスを習うつもりなのだから……。





        その6 〜発病〜の巻 へ続く→ 行ってみるその6・発病 



          
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