5ページ目/全5ページ 「嫌味ばかり言うボディガードほど酷くは無いね。人の恋路の邪魔を すると、こうなるんだ。良く覚えておくんだな。 それから、ボディガードを雇ったのは、俺じゃあ無いぞ。文句があるなら、 俺の父親に直接、言ってくれ。仕事を辞めるか、続けるかは、日吉の 自由に任せるよ。」 俺は、元来、こういう性格だ。 鳳家の次期当主らしく、誰に対しても命令口調。幼少期から 落ち着き払った態度が、子供らしくなく、可愛げも無く。 傍若無人な振る舞いを良しとして生きてきた。 けれど、人を愛する事を知って、少しずつ変わったのだ。 日吉は苦笑すると、諦めたような顔をした。 「恋路ねぇ。相手は、許婚の顔も名前も覚えていないようだけど……。 なるほど、当主様の片思いって事情ですか? まあ、せいぜい頑張ってください。今のところ、悲恋の可能性が 大きいですが……。俺には、そんな事は関係無い。 とにかく、金さえ入れてもらえれば、働きますよ。首にならないように、 テニスも、それなりにやってみます。」 ボディガードも負けてはいない。 日吉若は、まだ子供の癖に、やたら抜け目なく、妙に肝の 据わった男だと、俺は思った。 ★ この日、俺は、日吉若のおかげで。五歳の誕生日に、祖父にオネダリ したプレゼントの中身を自覚する事になった。祖父は、本気で、 孫の俺に『 宍戸亮をプレゼントする 』つもりだったのだ。 あの祖父の場合、自分の所業を取り消すと言う事は、絶対に無い。 俺の性格を、百万倍ゆがめたような人物だったからだ。 宍戸亮を、孫と釣りあいの取れる立場に置くため、わざわざ養子に してしまう人間なのだ。 今は、隠していても、必ず、他人に知られる日が来るだろう。 その時、彼を守ってあげられるのは、同じ境遇の自分しかいない。 そして、その事を伝えるにしても、宍戸亮と話す機会を 作らなければならない。 そのためには、テニス部に入部する事が近道だった。 それも、彼と同等か、それ以上……。彼が視線をそらす事の 出来ないくらい優秀なテニスプレーヤーにならなくては、駄目だった。 俺は、……。 心底、馬鹿に違いない。 そのためだけに、家にテニスコートを作り、これから、必死になって、 テニスを習うつもりなのだから……。 その6 〜発病〜の巻 へ続く→ 行ってみる ![]() ![]() 4ページ目へ戻る 小説マップへ戻る |