1ページ目/全5ページ 宍戸さんには、お金が無い!第3話 ※第2話の<鳳長太郎サイド>の話となっています。 その6 〜発病〜 の巻 それからと言うもの、俺と日吉は、テニスの練習に時間を費やし、中等部に進級 してから、やっと念願のテニス部に入部する事ができた。 そして、部活の先輩、後輩と言う立場で、あの宍戸亮と挨拶が、かわせるように なったのだった。 会話で無くて、挨拶だ。 彼に、「おはようございます。」と言う。 会った時には、「宍戸さん。」と名前を呼ぶ。 そんな些細な事だけで、俺の生活は充実していたし、部活をするのが楽しくて 仕方無かった。 それまでに、六年の歳月がかかった理由は、母親と執事の黒沼が入部に 反対していたせいだ。小等部に入学する前、息子を外に全く出さないように 隔離していたくらいなのだから、それも仕方が無い。 日吉若は、鳳家の人間に信頼されており、彼も一緒に部活に入る事で、 やっと大人達を説得する事ができた。一緒に騒ぎに巻き込まれてしまった日吉は、 六年間、死ぬほど、うんざりした事だろう。 中等部の入学式で、そんな事を言う俺に、日吉は、また人を食ったような顔を向けた。 「ここまで来たら。 当主が告白する決定的な瞬間を拝むまで、納得できん気が するのでね。 最後の最後まで付き合いますよ。 他人の片思いなんて、成就しても、玉砕しても、別に俺のせいじゃ無いから。 こっちは、気楽なモンだしね。 それよりも、ちゃんと正レギュラーになってくださいよ。 そうじゃあ無ければ。 テニス部に入った意味が全く無い。 そういう無駄骨が、俺は一番嫌ですよ。 だから、今の段階で、恋路の一番の難関は……。 あなたのノーコンなんじゃ無いですか? 」 どこまで本気なのか、相も変わらず失礼な日吉の言葉でも、俺の心は、それを 聞いて和んでしまった。 彼は、毒舌ばかり吐く人間だが、俺の周りでゴマをする 連中とは根本的に違っている。 信頼できる相手だ。 宍戸亮は、去年の大会で、すでに正レギュラーの一人として活躍していた。 俺と日吉も同等のレベルまで行かなければ、話にならない。 日吉は、これでも、俺を叱咤激励したのだろう。 ★ テニス部に入部し、一ヶ月が過ぎた頃、正・準レギュラーの先輩達と対面する 機会が与えられた。 これを、俺は待っていた。 その日、新入生達は、初めてコート内に入る事を許可され、それまで、基礎トレと ボール拾いばかりだったので、感動している者が多かった。 今日の練習は、二年の先輩達が球出しをする。それを、新入部員が打ち返し、 どのくらいの力量があるか、監督と三年生が見定める。これは、ポジションを 決定するために、とても重要なテストを兼ねた練習であった。 俺と日吉は、これまで大会に出場した事が無かったので、初心者として、 全くマークされてはいない。 その方が好都合だったので、二人とも素知らぬ顔を していたが、テニス部員全員のデータを得ており、前日まで、時間をかけて対策を 練ってきた。 そのため、普段の調子なら、何て事の無い練習内容だった。 ところが、俺は、その日、朝から調子がおかしかった。 身体が熱っぽく、倦怠感が強い。喉が渇くのだが、水をいくら飲んでも口の中が、 すぐにカラカラに乾燥してしまう。 念願だった宍戸亮と練習できるから、もしや緊張しているのだろうかと、 考えたりもした。 ![]() ![]() 小説目次へ戻る 2ページ目へ進む |