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   それから、三日もの間、寝込んでいた俺の元へ、海外に行っており、

   ちょうど誕生パーティに出る事ができなかった祖父が顔を出した。


   解熱剤と感冒薬を飲んで休んでいた俺に、祖父は、優しい言葉を

   かけてくれた。


   「五歳になった長太郎の誕生日を、みんなで一緒に祝いたかったのに、

   ワシは、出席できずに残念だったよ。
それも……。お前の具合が

   悪くなるなんてなぁ。無理をさせてしまったかもしれんのぉ。」


   そう言って、寂しそうな表情をする祖父に対して、

   俺は、はにかんだような笑顔を浮かべた。


   「お爺様。そんな事は無いですよ。今までで、一番楽しいパーティでした。

    俺のために開いてくださって、本当に感謝しています。」


   祖父は、俺の嬉しげな表情に驚いた様子で、目を細めた。

   俺は、今まで何をやるにしても無感動で、子供らしい笑顔を浮かべた事が

   無かったからだろう。 そして、『 パーティが楽しい 』なんて

   言った事も、過去に一度も無かった。

   「ほう。そうか、そうか。そんなに、今回のパーティは、楽しかったのか?」

   祖父は、感嘆したように頷く。

   それから、「遅れてしまったが。お前にプレゼントをあげたいんだがなぁ。

   何か欲しいものは、あるかね? 」と聞いてきた。


   もっと孫を喜ばせたい、と思った祖父の申し出だった。

   俺は、今まで多くの物を、祖父や両親から惜しみなく与えられてきた。

   そのため、いつもなら、「その気持ちだけで十
分です。」と、

   子供らしくない返答をするのだが、その日だけは違っていた。


   「お爺様。お願いがあるんです。俺、とっても欲しい物が出来たんです。

    他には、何もいりませんから、それを俺にください。」

   瞳を輝かせて、お願い事をする孫の顔を見ながら、

   財政界を牛耳る男の表情は、みるみるうちに青ざめてしまった。


   孫のためなら、玩具を店ごと買っても、庭を改造工事する事も、

   パーティ費用を何億円かけても痛くは無い人物だったが、

   俺の願い事は、そのどれとも次元が違っていたからだ。


   俺は、熱を出しても離さずに、大切に手に握っていた写真を

   祖父に見せて、こう言ったのだ。


   「お爺様。この子を俺にください。」

   まだ、幼かった俺は。その言葉のせいで、大好きな少年を、

   窮地に陥れてしまう事を理解できていなかった。


   しかし、今、十三歳になった俺は……。

   物事の分別もわかるようになったから。


   宍戸亮に一生恨まれても、仕方が無いと思っている。



    その5 〜二人の新入生〜の巻 へ続く→ 行ってみるその5・二人の新入生 



          
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