1ページ目/全5ページ 宍戸さんには、お金が無い!第3話 ※第2話の<鳳長太郎サイド>の話となっています。 その5 〜二人の新入生〜 の巻 七歳になり、念願の氷帝学園小等部への入学を果たした。 父親は、自分が幼少期に通っていた英国の学校を希望していたが、俺は、 どうしても日本で教育を受けたかったので、これだけは、譲る気は 無かった。 日本には、あの子が住んでいるからだ。 俺の心を虜にしてしまった『 長い黒髪の美しい少年 』の事を、二年間、 一日も忘れた事は無かったし、彼が、同じ学園に通っている事を祖父に 聞かされてから、再会できる日を楽しみにしていたのだった。 俺が、期待に胸を躍らせて、黒沼と共にベンツで学園を訪れると、 その駐車場には、小柄で、サラサラとした髪を耳の下で切りそろえた 行儀の良さそうな少年が立っていた。 「長太郎様、おはようございます。日吉若と申します。 学園内では、私がお世話をする事になります。これから、毎日、行動を 共にいたしますので、どうか、よろしくお願いします。」 そう言ってお辞儀をする少年は、その丁寧な言葉とは、裏腹に、 固い表情のまま二コリともしなかった。 学園内の安全確保を気にした両親は、護衛の少年をつけてくれたのだった。 彼は、俺と同じ年だったが、父親が武芸の達人で、要人警護のプロとして、 すでにこの年で仕事をしているのだと聞かされた。 日吉は、黒沼から俺の鞄を受け取ると、丁寧に中身を調べてから、 「どうぞ、お持ちください。」と返してくれた。 それから、駐車場を移動しながら、俺に小声でこのような説明をしてくれた。 「私の存在は、学園長と担任教師には、話を通してあります。在学中は、 必ず長太郎様と同じクラスで、目が届くように後ろの席に配置されます。 それから、警護のため、授業予定のコースには、先に父の部下が下見を しています。それ以外の場所に行く場合は、必ず、行き先を私に伝えて 欲しいのです。 長太郎様の制服の襟元と鞄には、発信機と小型のマイクが取りつけて あります。何か私に用事がある場合、声に出してくれさえすれば、 すぐに私の耳に入ります。 そして、予定外の場所へ出かける場合、長太郎様と共に、 私も必ず同行する事になりますが、よろしいでしょうか? 」 日吉は、手馴れた様子で簡単に警護方法を説明すると、駐車場の出口で、 もう一つだけ付け加えた。 「今後、私の事は、学友として呼び捨てでかまいません。なるべく、 他のクラスメート達と同等に扱うようにお願いします。 それから……。申し訳無いですが。私も、長太郎様とお呼びするのは、 この時点で最後になります。これからは、『 鳳 』と敬称無しで 呼びかける事になります。こちらの件も、よろしいでしょうか? 」 俺は、このボディガードの真面目な態度と、律儀さに好感を持った。 「俺の事は、どう呼んでもかまわないよ。これから、学校では、 ずっと一緒なんだね。よろしく。えっと……。日吉若君。」 そう言った俺に、彼は、無表情のまま業務口調で答えた。 「私の名前は、『 日吉 』と呼び捨てで、けっこうですよ。」 「うん。そうか。日吉だね? 」 素直にそう呼び変える俺に、日吉は、ニヤリと笑い、ガラリと口調を変え、 このように告げたのだった。 「では。これから、入学式が始まるので、鳳は、それに参加するように。 会場で、黒沼さんがハラハラしながら、待っているだろうから。 寄り道は無し。 鳳を会場まで道案内したら……。俺は、真っ先に保健室に行きたいね。 学園長の訓辞は、気が遠くなるほど長い。俺は、保健室で昼寝を すると言う対抗策で、それに太刀打ちしたい。 まあ、何かあったら、衣服についているマイクに向かって話をすれば、 俺の親父がかけつける手はずだ。格闘技しか取り得の無い乱暴な 男だけど、ガードとしてなら、まあまあ使えるよ。 今日は、そういう予定だ。以上。 」 日吉若は、普段は無口なのだが、言葉を発するとかなりの毒舌家であった。 そして、年齢とは不相応の、大変な皮肉屋でもあった。 俺は、その変貌ぶりに驚きながらも、普段から癖のある大人達に 囲まれて育っていたので、ひるむ事なく、このように返答した。 「そうだね。昼寝を楽しむには、良い季節だし、きっと保健室のベッドは 柔らかくて気持ち良いんだろうね。 俺も、日吉と昼寝に行きたいのは、山々だけど。 その前に行きたい場所があるんだ。 だから、『 寄り道無し 』だけ却下だ。今から、案内してくれないかな?」 入学式など最初からどうでも良い……と言わんばかりの、俺の台詞に、 今度は、日吉が飽きれた顔をした。 それでも、雇い主の言い分に従って、二年生の校舎まで案内してくれた。 俺が、この学園に入学した目的は、たった一つだけ。 一目ぼれした少年に再会する。 そして、今度こそ、仲良くなってみせる。 それを果たすために、俺は、氷帝学園に入学しようと思ったのだから……。 ![]() ![]() 小説目次へ戻る 2ページ目へ進む |