2ページ目/全3ページ 結局、その美しい少年には、気持ちを打ち明ける事ができなかった。 それどころか、自分の名前すら伝えられず、招待客に簡単に できた挨拶すら言えなかった。 気持ちを相手に正直に伝える事が、こんなに苦しくて難しいのだと 初めて思い知った。 彼が、隣で美味しそうに茶を飲んでいる間中、俺は、湧き上がる自分の 思いに驚き、それと共に脅えていた。 人間は、好きな相手ができると、どんどん臆病になるのかもしれない。 それは、相手に嫌われたく無いからなのだろう。 俺は、今まで、他人に対して、どんな態度をしてきたのだろうか? きっと、冷たい素振りしかしていない。 その程度にしか、相手の事を考えていなかったからだ。 俺は、情けない気分に浸りながら、彼が両親と連れ立って帰ってゆく姿を、 自室の窓辺にあるカーテンの後ろに隠れて、見送った。 それから、乳母に必死で頼んで、彼の写真を手に入れたのだった。 それは、警備室のモニター映像をプリントアウトした物で、噴水の 中に入り、手で水をすくっている彼の姿が鮮明に映っている。 写真の中でも、彼は、大輪の花が咲くように魅力的な笑顔をしている。 その強い光を持つ瞳は、生命力に溢れていた。 その写真を一晩中、ベッドに入って眺めていた俺は、次の朝、高熱を 出して寝込んでしまった。 両親は、慌てふためいて、医師の往診を頼み、診断の結果は、 「 軽い風邪と、パーティによる疲労。 」と言う話だった。 けれど、世話をしていた乳母達は、俺が庭で水浴びをしたせいだと考え、 責任を感じている様子だった。 しかし、俺の感覚では、これは、風邪とは、違うような気がしていた。 高熱を出して寝込んでいるのに、こんなに身体がフワフワして 気持ち良い事なんてあるのだろうか? 心の中は、まるで春の日差しを浴びているような暖かい感覚が続いている。 俺は、ずっと写真を握りしめていた。 その気分の高揚は、全て、この写真からもたらされるような気が していたからだ。 ![]() ![]() 1ページ目へ戻る 3ページ目へ進む 小説マップへ戻る |