2ページ目/全3ページ 「房中術とは、天地を陰と陽の二つに分け、陰陽合一の道を説いております。 つまり、男性の陽根を、女性の陰戸に差し入れ、お互いの気が交じり合えば、 身も心も充実し、子宝にも恵まれ、国が栄えてゆくと言う教えです。 しかしながら、今では、その術も限られた者にのみ伝承され、母国でも行われる事は、 ほとんど無い秘術になります。」 最初は、半信半疑だった鳳家の人々だったが、このままでは、家名存続も風前の灯火。 この際、未知の手法であったとしても、少しでも希望が持てるなら試してみようと、 その老人の知恵を拝借する事となった。 かくして、広い中国大陸より術者を招いて、房中術を二十歳になる当主に施行したの だった。すると、わずか一ヶ月の後、当主の妻が子宝に恵まれ、鳳家には待望の 男児を授かる事となった。 喜んだ鳳家の者達は、術者と、紹介してくれた貿易商の老人に対して、多額の謝礼を 支払い、丁重にもてなした。 しかし、老人は、浮かぬ表情でこう告げたのだった。 「この術が、廃れてしまったのには、理由があるのです。皆様が困っている様子 でしたので、ご紹介しましたが、今では大変に後悔をしております。 このまま、何事も無ければ良ろしいのですが……。」 そう老人は、恐縮したように言い、せっかく渡した金品を全て置いたまま、鳳家を 去って行った。 鳳家の当主夫婦は、その後、毎年のように子供を授かる事となった。しかし、 四人目を出産した妻は、産後に体調を崩し、そのまま帰らぬ人となった。 当主は、数年後に後妻を娶り、さらに三人の子供に恵まれたが、その妻も病で死んで しまった。 その頃より、当主自身も寝込みがちになり、あらゆる医師の診察を 受けたが、原因がわからずじまいだった。 ただ、高熱が毎日のように続き、日々、身体は衰弱してゆく。二十歳の頃には、長身に 似合った逞しい体格だったが、三十歳の今では、体重も半分しか無く、手足を動かす 事もできないくらいに衰えていた。 当主は、近づきつつある自分の死期を自覚していたが、残された幼い子供達の事を 考えると、心が痛んでたまらなかった。母屋に置かれた蒲団に横たわり、明日の わが身と、子供達の行く末を案じて涙を流していると、珍しい客が訪れた。 それは、自分に子供を授けてくれた貿易商の老人であり、実に、十年ぶりの 再会となった。 「ご当主の病の事を知り、急ぎかけつけましたが……。どうやら、私の恐れていた 事態が起こっているようです。」 老人は、八十歳を越え、中国で隠居生活をしていたらしい。しかし、当主の噂を 耳にし、不自由な足腰で杖をつきつつ、海を越えてやってきたそうである。 当主は、高熱のため意識が朦朧としていたが、この男が、それほどまでに伝えたい 事とは、一体、何なのか興味深く思い、黙って話を聞く事にした。 ![]() ![]() 1ページ目へ戻る 3ページ目へ進む 小説マップへ戻る |