3ページ目/全3ページ



   俺は、考えてもいなかった結末を知らされて、対処方法が頭に浮かばずに無言になっていた。

   俺の予定では、ここで鳳長太郎に全ての物を突っ返して、顔面をブチのめして、洗いざらい

   白状させて・・・。
 それで、地べたに土下座させて、「すみませんでした。」と謝罪の言葉を

   百万回言わせるつもりだったのだ。
 なのに・・・。

   戦いの前に、鳳は、敵前逃亡。勝敗は、俺の不戦勝・・・・に、なるのだろうか?

   (そんなモンは、勝利じゃねぇんだよッ! )

   俺は、バックから、携帯電話を取り出すと、短縮ダイヤルの一番を押した。

   それは、鳳長太郎の部屋への直通電話だ。


   長いコールの後、ぶっつりと、電話は切れてしまった。

   (・・・あんの野郎、俺のかけた電話を切りやがった。)

   怒りで顔面を真っ赤にした俺が、再度、携帯のボタンを押そうとすると、

   日吉から声が上がった。


   「岩槻さんを呼び出して、学園の裏門に車を回してもらった方が早いです。初音さんが、

    鳳邸の通用門と裏口を開けてくれていますから・・・。」


   俺は、即座に、携帯で運転手の岩槻を呼び出すと、日吉の提案通りの指示を与え、

    ロッカーから荷物を取り出すと、外へと飛び出した。


   まるで、拳銃から発射された弾丸のような速さで、グランドを真っ直ぐ突っ切ってゆく俺の

    後ろ姿へ、日吉がこのように声をかけた。


   「先輩ッ! その指輪は、《 魔よけ 》ですッ! 刻まれているのは、詩歌なんです。

   《 己の身を焼きつくそうとする炎が、貴方まで滅ぼす事の無いように。己の身体を巡る毒が、

   貴方の命を奪わないように。愛する人を守るためなら、自らを切り裂く事も悔いは無い。》


   当主は、その指輪を宍戸先輩に持っていて欲しいそうです。自分と出会ったせいで、

    きっと辛い事があるから・・・だ、そうですよッ! それが、彼の本当の気持ちです。」


   俺は、一度だけ足を止めると、振り返って、日吉に向かって、こう叫び声を上げた。

   「馬鹿野郎ッ! 魔よけなんていらねぇよッ!

   俺はなぁ。この世の中に、怖いモンなんて、一つも無いんだからなぁッ!! 」

   日吉は、その答えに肩をすくめると、初めて、俺に笑顔を向けた。

   「なるほど。確かに・・・。先輩自身が、《 魔よけ 》なのかもしれない。

    当主にとっては、たぶん・・・。」


   俺は、日吉の言葉を最後まで聞かずに、再び走り出した。

   間もなく、迎えの車が到着する。

   俺の人生で初めて、テニスの練習よりも優先させる出来事が発生したのだ。

   テニス以外に興味を持つ事があるなんて・・・。

   それも、一週間前の俺には、きっと想像もできない事に違い無かった。




        その6〜宍戸亮の帰還〜の巻へ続く → 行ってみるその6・宍戸亮の帰還



        
        2ページ目へ戻る



        小説マップへ戻る