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     宍戸さんには、お金が無い!第2話

     その6 〜宍戸亮の帰還〜 の巻


   岩槻の運転するベンツが停車した場所は、予想していた鳳邸の裏門では無かった。

   見覚えのある広いロータリーは、この城の正面入り口であり、俺が外へと降り立つと、

   玄関先には、三十人ほどのメイド服の集団が並んでおり、俺に向かってお辞儀をした。


   「宍戸亮様、お帰りなさいませッ! 」

   (おかえり・・・じゃねぇっつ〜のッ! )

   深い溜め息をつきながら、玄関ホールへ入ってゆくと、三つ編みの髪をなびかせながら、

   メイドの初音が、慌てた様子で俺の前にやってきた。


   「やっぱり、帰ってきてくださったんですねッ! 本当に良かったですぅ〜。」

   また、目に涙を浮かべている女の顔を見ながら、そういう方向へ仕向けた犯人は、お前では

   無いのかと睨んでしまった。


   「とにかく、長太郎様が大変なんです。こちらへ・・・。」

   初音が俺を案内しようと廊下を歩き始めると、その進行を妨害するように、執事の黒沼が現れた。

   俺は、つい、宿敵に会ったような気分になり、両拳を強く握って、ファイティングポーズを取って

   身構えたが、彼は、皺の多い顔に笑顔を浮かべると、右手を差し出した。


   「宍戸亮様。お待ちしておりました。 私が荷物をお預かりします。

    急いで、当主様のお部屋へ向かってください。」


   肩透かしをくらった俺は、黒沼の真意が理解できずに、つい喧嘩腰になってしまった。

   「おい、ジジィ。 今度は、薬を盛ったりする気は、無いだろうなぁ。

    もう一度やったら、明治生まれの老体でも、関係無しで、張り倒すからなッ! 」


   黒沼は、軽く会釈すると、こんな事を言った。

   「そんな失礼な事は、いたしませんよ。 

    亮様は、こちらへ、自分の意思でいらっしゃいました。

    それは、私達が最も望んでいた形なのです。


   長太郎様に対して、心から尽くそうとしてくださる方へは、私達も丁重に接するつもりです。

   それから、明治生まれの方でしたら、すでに九十歳を越えています。

    私は、昭和生まれです。」


   妙に細かい事にこだわるヤツだと思いながら、俺は、荷物を黒沼に渡すと、足早に屋敷の奥へと

   進んでいった。


   途中で、寿が現れて、制服を脱いで、着替えるように言ってきたが、彼らには、このように

    伝えて拒絶した。


   「今後、一切、その《 しきたり 》と言うのは、止めてくれっ! 

    俺が、あんたらに出す条件は、それだけだ。


   俺は、俺のやりたいようにする。

   誰にも、邪魔はさせない。

   これは、あんたらの主のためにもなる事だ。そう言えば、納得してくれるか? 」

   黒沼、寿、初音は、途中の通路で立ち止まった。俺が、「鳳長太郎と二人きりにして欲しい。」と、

   言ったからだった。
 彼らは、俺の出した条件を飲む事を承諾したらしい。

   俺は、笑顔で彼らに右手をひらひらと振った。

   「大丈夫だよ。あんたらの大切な当主様には、悪い事はしねぇから、安心して待っていてくれッ! 」

   俺は、南館のエレベーターに乗り込むと、鳳長太郎の待つ寝室へと向かったのだった。




                           
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