1ページ目/全2ページ 宍戸さんには、お金が無い!第2話 その6 〜宍戸亮の帰還〜 の巻 岩槻の運転するベンツが停車した場所は、予想していた鳳邸の裏門では無かった。 見覚えのある広いロータリーは、この城の正面入り口であり、俺が外へと降り立つと、 玄関先には、三十人ほどのメイド服の集団が並んでおり、俺に向かってお辞儀をした。 「宍戸亮様、お帰りなさいませッ! 」 (おかえり・・・じゃねぇっつ〜のッ! ) 深い溜め息をつきながら、玄関ホールへ入ってゆくと、三つ編みの髪をなびかせながら、 メイドの初音が、慌てた様子で俺の前にやってきた。 「やっぱり、帰ってきてくださったんですねッ! 本当に良かったですぅ〜。」 また、目に涙を浮かべている女の顔を見ながら、そういう方向へ仕向けた犯人は、お前では 無いのかと睨んでしまった。 「とにかく、長太郎様が大変なんです。こちらへ・・・。」 初音が俺を案内しようと廊下を歩き始めると、その進行を妨害するように、執事の黒沼が現れた。 俺は、つい、宿敵に会ったような気分になり、両拳を強く握って、ファイティングポーズを取って 身構えたが、彼は、皺の多い顔に笑顔を浮かべると、右手を差し出した。 「宍戸亮様。お待ちしておりました。 私が荷物をお預かりします。 急いで、当主様のお部屋へ向かってください。」 肩透かしをくらった俺は、黒沼の真意が理解できずに、つい喧嘩腰になってしまった。 「おい、ジジィ。 今度は、薬を盛ったりする気は、無いだろうなぁ。 もう一度やったら、明治生まれの老体でも、関係無しで、張り倒すからなッ! 」 黒沼は、軽く会釈すると、こんな事を言った。 「そんな失礼な事は、いたしませんよ。 亮様は、こちらへ、自分の意思でいらっしゃいました。 それは、私達が最も望んでいた形なのです。 長太郎様に対して、心から尽くそうとしてくださる方へは、私達も丁重に接するつもりです。 それから、明治生まれの方でしたら、すでに九十歳を越えています。 私は、昭和生まれです。」 妙に細かい事にこだわるヤツだと思いながら、俺は、荷物を黒沼に渡すと、足早に屋敷の奥へと 進んでいった。 途中で、寿が現れて、制服を脱いで、着替えるように言ってきたが、彼らには、このように 伝えて拒絶した。 「今後、一切、その《 しきたり 》と言うのは、止めてくれっ! 俺が、あんたらに出す条件は、それだけだ。 俺は、俺のやりたいようにする。 誰にも、邪魔はさせない。 これは、あんたらの主のためにもなる事だ。そう言えば、納得してくれるか? 」 黒沼、寿、初音は、途中の通路で立ち止まった。俺が、「鳳長太郎と二人きりにして欲しい。」と、 言ったからだった。 彼らは、俺の出した条件を飲む事を承諾したらしい。 俺は、笑顔で彼らに右手をひらひらと振った。 「大丈夫だよ。あんたらの大切な当主様には、悪い事はしねぇから、安心して待っていてくれッ! 」 俺は、南館のエレベーターに乗り込むと、鳳長太郎の待つ寝室へと向かったのだった。 ![]() ![]() 小説目次へ戻る 2ページ目へ進む |