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   植えられている庭木は今よりも少なく疎らで、感じは少し違うが、この写真の背景は間違い無く、

   先ほどまで眺めていた鳳邸の中庭のように思えた。


   真っ白な石を敷き詰めた小道の脇に花が咲き乱れ、そこを進んでゆくと、途中に川があり、同じく

   白い石のアーチがかけて
ある。その先には、楕円系の広場があり、噴水と子供向けの遊具が

   置いてあったのだ。


   俺は、昔の事を少しずつ思い出していた。

   噴水の中へ足を突っ込んで、仁王立ちになって笑っている半ズボの少年は、間違い無く俺だ。

   その当時、長い髪は縛っておらず、そのまま自然に流していた。クラスでも一番、身長が低く、

   体躯も細く、色も白かったので、確かに、こうしてみると女児に見えない事もない。


   その俺が、噴水の水を手で掬って、ぶっかけている相手が、鳳長太郎に違いなかった。

   彼は、幼いながら、きちんとスーツを着込んでいる。まるで、七五三へ行く子供と言う風情だった。

   髪は、丁寧に撫で付けられているので、感じが変わっているが、その風貌は鳳本人としか
思えない。

   そして、必死に水の攻撃を避けながら、庭の潅木に隠れようとしている。顔は半分泣き顔で、

   どう見ても、俺と仲良しという様子では無かった。


   (俺が・・・。鳳を追いかけて虐めているようにしか見えねぇ。)

   どうりで、成長した鳳長太郎を見ても、思い出せないはずだ。

   俺は、小さい頃、《 仲良く遊んだ友達 》なんて、一人もいなかったからだ。当然、鳳とも遊んだ

   覚えなんて全く無かった。


   しかし、喧嘩相手なら山のようにいたのだ。

   幼稚舎の体格の良いガキ大将に、初等部の先輩面した二年生。テニススクールのコーチの

   息子に、近所に住む金持ちが飼っていたブルドック。それは、全て喧嘩相手に過ぎなかった。


   性格的な問題かもしれないが、俺の幼少期は乱暴で過激だった。生傷の無かった日は、

   一日も存在しない。
確かに、俺は、六歳の時に鳳邸へ行き、鳳長太郎に会っていると思う。

   しかし、その時、俺は・・・・。

   生意気なガキを、一人、懲らしめた記憶しか無かった。

   (あれが、鳳長太郎だったのか・・・。)

   幼少期の記憶が蘇ってゆく中で、今回の件は、俺に虐められた鳳長太郎が、復讐したかった

   だけなのかもしれない。そんな疑惑まで持ってしまった。


   俺と鳳長太郎の関係は、考えれば、考えるほど、謎が深まるばかりだった。




      その2〜子供時代のアイツと俺〜の巻へ続く→ 行ってみるその2・子供時代のアイツと俺




        
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