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   兄のエドワードを腕に抱きながら、アルフォンス・エルリックは、廊下をゆっくりと

   歩いていた。
兄が本当に眠っていると思っているのか、起こさないように静かに

   歩いている様子だった。


   その横を一緒に歩きながら、ロイ・マスタングは、その兄弟の姿を微笑ましく思っていた。


   ずっと、こうやって、二人で一緒に生きてきたのだろう。


   一人ではなく、時間や空間を一緒に共有できる相手がいる。

   それは、とても幸せな事なのだと、大佐も良く知っていた。


   自分にも、昔は、そんな相手がいたのだ。


   久しぶりに、かつての思い人の姿を思い出してしまい、大佐は、切ない気分になっていた。


  「あの、大佐。お話があるんですが……。」

   小さな声で、そう切り出したアルフォンスの言葉に、マスタング大佐は我に返った。

   慌てて、彼に聞き返すと、こんな事を言ったのだった。


   「兄さん、疲れているんじゃ無いでしょうか? 今まで、こんな事は無かったんです。

    僕は、国家錬金術師じゃ無いから、仕事の細かい話は、知らない事が多いんです。


    でも、最近の仕事は、怖い物が多くて……。数日前も、兄サン、大怪我を

    しているんです。 やっと、病院での治療が終わったばかりなのに、ちっとも

    静かに休んでくれない
から……。」

   この鎧の姿をした弟は、涙を流す事ができなかった。
しかし、彼の震えたような細い声は、

   悲しみを感じているのだと大佐には理解できた。


   「だから、兄さんを少しだけ、お休みさせる事は出来ないでしょうか? 

    せめて、身体の調子が治るまでの期間で良いんです。」


   マスタング大佐は、微笑むと、有給休暇の申請をすれば、国家錬金術師でも、

   休暇くらい取れるのだと教えてあげた。


   確かに、エルリック兄弟は、今まで働きすぎた。


   アルフォンスは、大佐の返事を聞くと、嬉しそうにこう言った。


   「それなら、良かったです。僕、思うんですけど。こういう時、鎧の身体で良かったな〜

   なんて思います。」


   不思議なアルフォンスの言い分に、大佐が首をかしげると、さらに彼はこう続けた。


   「僕は、どんなに働いても疲れないし、夜も眠くならない。怪我をする事もありません。

   だから、いつだって、兄サンのそばで助けてあげられるでしょ? 


   こうやって、兄サンが眠っている時に、部屋へ運んであげる事もできますから。」


   そう言いながら、やさしく両手で兄の身体を抱きしめ
ているアルフォンスの姿に大佐は

   目を見張った。


   自分の身体の事よりも、兄の調子を心配している姿に、大佐は驚いてしまったのだ。


   本当に優しい少年なのだと思った。


   そして、意志の強い子だった。

   彼の腕の中にいるエドワードの眼に、うっすらと涙が滲んでいる事に、大佐は気が

   ついていたが、それには触れずに、彼らの部屋の前で別れた。


   この二人の未来が、幸福である事を祈りたい。




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