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暖かな気持ちで、仮眠室に戻った大佐には、司令部から内線電話が入っていた。
受話器を耳に当てると、腹心の部下であるホークアイ中尉の声が響いてきた。
「一体、どちらにいらっしゃったんですか? 」
シャワーを浴びていたのだと、適当に答えてから、中尉の用件に耳を傾けた。
「悲報です。ヘッケル大佐が、西方司令部へお帰りになられます。
出発は、明日になりますが、お別れの挨拶はどういたしましょうか? 」
悲報と言いながら、中尉の声は少しも悲しい様子は無かった。
「なるほど、確かに残念な話だな。優秀な人材だったのに。西へ帰るのだったら、
もう二度と会えない可能性もあるな。ぜひ、お見送りに行こう。」
そう言う大佐は、明らかに笑っていた。
きっと、満面の笑みで、都落ちをしたヘッケル大佐へ、嫌味でも言うつもりなのだろう、
と、ホークアイ中尉は肩をすくめていた。
ヘッケルは、その女性遍歴のために、左遷されたのだった。
一度、田舎へ戻された者は、二度と、この中央司令部へ呼ばれる事は無い。
その能力だけでなく、日常の素行が、人事には大きく影響している。
マスタング大佐にも、釘をさしておく必要があると、中尉は強く感じていた。
「大佐。お言葉ですが。明日は、提出期限の迫った書類がございます。
そのような事に時間を使っている場合では、ありません。
お別れは、文章で十分だと思います。
私が代筆いたしますので……。それから……。」
中尉は、冷たい事務口調で、こんな言葉を付け足した。
「仮眠室のオーバーテーブルの請求は却下いたします。
必要でしたら、ご自分で買い揃えてください。
それに、新しいシーツの棚下ろしも、来月までありませんので。もし、汚した場合、
ご自分で洗濯でもなさってください。」
プツンと、当然、切れてしまった電話機を眺めながら、マスタング大佐はうなっていた。
(う〜ん、もう少し早く言って欲しかった。もう、シーツは汚してしまったのだがなぁ。)
ホークアイ中尉には、どうも、自分の所業はバレているらしい。
女性としての感だろうか、それとも野生の感なのだろうか?
そんな事を思いつつ、仮眠室の中で、ロイ・マスタング大佐は途方にくれるのだった。
了
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