2ページ目/全3ページ




  アルフォンスと、ハポックが、東方司令部の中を奔走し、疲労していた頃。

   と、言っても。疲労したのは、生身のハポックだけだったのだが。

  一方、ホークアイ中尉は、マスタング大佐の部屋の前で、眉間に皺を寄せて悩んでいた。

  大佐が寝泊りに使っている一室は、他の軍人達の寮とは異なり、独立した作りになっている。

  その部屋の中に、行方不明であるはずの、エドワード・エルリックもいたのだった。

  それも大佐のベッドの中で、上半身裸のまま寝そべっている。

  「大佐、これは何なんでしょうか?」

  厳しい視線を自分に向けてくる部下に対して、大佐も真剣な視線をそのまま返していた。

  しばし、部下と上司は見つめ合う。

  「中尉。君は、何か勘違いをしているみたいだが。これは……」

  大佐が説明する前に、その鼻先で扉をバタリと閉めると、中尉は風のように去っていった。

  「こら! ちょっと待て! 誤解するな! 」

  扉を開けて追いかけようとしたが、すでに、その姿は消えうせていた。



  仕方なく、大佐は室内に戻ると、エドワードへ大声でこう指示した。

  「お前も、自分の部屋へとっとと帰れ! 」

  エドワードは、むくれたように頬を膨らませると、大佐のベッドにしがみつき、負けずに大声で叫んだ。

  「教えてくれるまで、絶対に帰らないからな! 」

  しばらく押し問答した後で、大佐も思わず絶叫してしまった。

  「馬鹿者なのか、お前は?! 身長の伸ばし方なんか、俺が知るか! 」

  いつも冷静な彼が、そんなふうに叫ぶのは珍しい事だろう。



  エドワードは、ドミニクに<身長が伸びないのは、金属鎧のせいかもしれない>と言われたのだ。

  そのため、他にも同じような事例があるのか、資料室で探していた。

  しかし、なかなか結論が出ないため、同じく錬金術師の大佐に聞きにきたのだった。

  大佐は、雨の日に無能であっても。

  東方司令部では、一番腕のたつ錬金術師だ。

  おまけに、軍部の情報にも精通している。

  きっと何か知っているに違いない。

  「意地悪だな〜大佐。そんなに、自分ばっかり大きくなりたいのか! 」

  「何で、私が大きくなる必要があるんだ! 」

  うるさく食い下がってくるエドワードに、大佐は早く追い返そうと、彼の金属鎧の腕と足を調べていたのだ。

  ベッドにエドワードが寝ていたのは、それだけなのだが。

  どうも、ホークアイ中尉は、違う事を考えた様子である。

  その考えは、きっと好ましく無いものだろう、と大佐は予想していた。



  結局、エドワードの身体を調べた結果、大佐にも詳しい事は良くわからなかった。

  「確かに、金属鎧のために、成長を抑制される場合もあるかもしれん。

   しかし、他の後天的要素や本人の体質もあるから、何とも言えないな。」

  それから、大佐はエドワードを見て二ヤリと笑うと、こんな事を言った。

  「昔の君の写真を見た事がある。君は、昔から。弟君よりも、小さかったような

   ……そんな気がするが。気のせいか? 」

  大佐のそんな言葉に、「うわ〜ん、大佐の馬鹿野郎!」 とそう叫びながら、エドワードは部屋を

  飛び出していった。

  半裸のままだった。

  東方司令部の廊下を、そのままの姿で駆け抜けてゆく。

  (風紀上、大変宜しくない!)とも。 (鍛えているせいか、足は速いな)とも。

  大佐は思いながら、手を振って穏やかに見送った。

  豆台風が去っていった後で、大佐は、次はどうホークアイ中尉に説明したら良いのか悩むのだった。

  大佐は、とても忙しい。

  仕事以外にも、多くの悩み事を抱えているのである。




                            
       1ページ目へ戻る                3ページ目へ進む



       鋼小説マップへ戻る