1ページ目/全3ページ <1>エドワードの秘密 東方司令部にエルリック兄弟が宿泊に訪れていた。 司令部の資料室で、調べ物をしたいと言う申し出だった。 国家錬金術師の仕事には、協力する事も軍部の大切な仕事だったため、マスタング大佐は、彼らに 軍部の一室を貸し、資料室の鍵も渡していた。 しかし、その日の晩の事、当直中だったホークアイ中尉の下へ、アルフォンス・エルリックが現れた。 兄と違って一般市民である彼は、大きな鎧の姿とは対照的に、少しおどおどした様子で中尉に話しかけてきた。 「すみません。コチラに兄さんは来ていないでしょうか?」 「来ていないけれど、どうしたのかしら?」 資料整理中だった中尉は、作業の手を止めずに聞き返してきた。 深夜だと言うのに、昼間と少しも変化なく疲れた表情も見せない。 その姿は、仕事熱心な彼女らしい。 一方、部屋のすみでイスに座り、ぼんやりと眠そうなハボック少尉は、その二人のやりとりを見ながら、 新しい煙草を一本取り出して火をつけていた。 彼も同じく当直中だが、深夜の見回りから帰り、休憩している最中だった。 まあ、休憩でなくても、年中、煙草を吸っている男であったのだが。 とにかく二人に、アルフォンスはこんな説明をした。 資料の閲覧が終わり、兄のエドワードと部屋へ帰ろうとした。 しかし、兄は途中で何か忘れ物を思い出した様子で戻っていった。 それから、もう1時間は経つのに帰ってこない。 心配して、アルフォンスは資料室にも行ってみたが、誰もいない様子だった。 ・・・と、簡単に言うと、こうなるらしい。 「あ〜、迷子か?」 面白そうにそう言って、咥え煙草で笑うハポック少尉に、アルフォンスは慌てて答えた。 「いくら何でも無いですよ〜そんな事! 兄さんが、どんなに小さくて可愛いって言っても。もう15歳ですから!」 兄貴に可愛いとか、チビとか言うなよ〜弟。と、ハポックは思ったが言葉には出さなかった。 「なら、誘拐か?」 やはり面白そうに言うハポック少尉に、今度はホークアイ中尉が返してきた。 「東方司令部の誰がそんな事をするんです? 中央司令部じゃあるまいし。 ここには、ヒューズ中佐はいないんですから! 」 きっぱりと言いきる中尉だった。 ヒューズ中佐は誘拐犯扱いか?と、ツッコミたいハポックだったが、仕事中のホークアイ中尉の邪魔をすると 後が怖いので、やはり言葉にはしなかった。 「とにかく、何か面倒に巻き込まれたのなら、私達の責任にもなりますから。 一緒に探しましょう。少尉はアルフォンス君と探してください。私は、大佐にお伝えしてきますね。」 そう言って、仕事を中断すると、ホークアイ中尉は、足早に部屋を出て行く。 それを見送りつつ、何となく奇妙な事にハポックは気がついた。 「って、ちょっと待て。探すのは俺だけなのか? 」 中尉を追いかけようとしたが、すでに、その姿は廊下のどこにも見えなくなっていた。 「わ〜ん、少尉、お願いします! 兄さんを探してください!」 自分の腰に追いすがる鎧の重量に耐えながら、ハポックは、自分のクジ運の悪さを、 今日もやっぱり呪わずにはいられなかった。 ![]() ![]() 鋼小説マップへ戻る 2ページ目へ進む |